When It Hurts So Bad(ご理解いただき恐縮です)
北海道・北部方面隊札幌駐屯地。
その一角にある第一空挺団北海道本部・魔導編隊隊舎にて、私は小笠原一尉のたっての願い? で訓練用の杖を貸与。その結果、小笠原一尉は魔法訓練生に昇格しました、めでたしめでたし……ということにはならなかったようで。
私と小笠原一尉は北部方面隊総監である畠山陸将に呼び出されました。
「……という事で、この訓練用の杖を使い、小笠原一尉が無事に魔法適性を覚醒しました」
状況整理ののち、現状報告を包み隠さずに行ったのですが、何故か畠山陸将は頭を抱えています。
「それで、小笠原一尉は、第一空挺団魔導編隊に所属する意思はあるのかな?」
「正直に申し上げますと、私は魔導師になり第一線において活動するだけの勇気を用いていません。また、第一空挺団所属となるための適性も持ち合わせていません」
堂々と告げる小笠原一尉。
うん、流石は出来る女、北部方面隊事務局を率いていただけのカリスマ保有者です。
なお、私が北部方面隊に配属されたことにより、事務局から魔導編隊付き事務官に昇格したのですけれどね。
まあ、裏では昇格ではなく降格だぁ、窓際事務官に降格したなどど呟く方隊員もいらっしゃいますが。その貴方たちが噂していた事務官は、国産初魔術師になるかも知れませんよ?
ふっふっふ、これは腕が鳴りますねぇ。
「わかった。この件については総監部にも報告しておく。統合幕僚監部と大臣も頭を抱えそうになるだろうがな。それで、如月三曹が貸与した訓練生の杖だが、それを使えば誰でも魔術が使えるようになるのか?」
「無理ですね。まず適性がないでしょうから」
畠山陸将の質問、これは何度も聞いていますので何度もおこなった返答で茶を濁します。
「では、小笠原一尉が魔術師適正保持者であったということかね?」
「正確には、私と常に同じ空気を吸い、私の体から発散されている魔力を体で受け止めていましたため、魔力値が覚醒基準に至っていたのではないかと推測されます。また、その状態で魔導具である『訓練生の杖』を用いたことにより、覚醒したと思われます。同じような可能性ならば、魔導編隊隊舎の一般事務員も覚醒する可能性は否定できないと具申します」
ここは嘘偽りなく。
だって、ここで誤魔化して、後で同じ質問をされると面倒臭いので。
すると、畠山陸将も腕を組んで考え込んでいます。
「……つまり、魔導編隊に訓練生を配属させて北部方面隊に移動、如月三曹と同じ環境において生活をしてもらった上で、覚醒条件に達したらその杖で魔導師になれるということだな?」
「魔導師は無理ですね。魔法訓練生です。そこから『五織の魔術師』に師事し、一織の魔法全てを納めなくてはなりません。そうしてようやく、魔法使い見習い程度です。そんな状況では実戦配備後に死亡しますと具申します」
一織程度の魔法なんて、魔力膜を作ったり六大元素を構成する程度で、
日本政府が求める魔法使いの質がどの程度なのか知りませんけれど、少なくとも実戦に耐えられるまでに鍛えるとすると、最低でも『四織の魔法』は無詠唱で使えるようになってもらえないと。
「では、実戦に耐えうるレベルまで鍛えるとなると、どれぐらい掛かる?」
「はっ!! 最低でも『四織の魔法』を無詠唱で使えるようになるまでの時間は必要かと。そのためでしたら……そうですね、30年というところですか? それも一人だけですよ」
「何故、一人だけなのだ?」
これは簡単です。
私が取れる弟子は三人までですから。
「これは、私が取れる弟子の数の上限が三名だからです。そのうちの一人は異世界にて魔術師となるべく研鑽を積んでいます。二人目は、私が杖を与え覚醒した小笠原一尉が該当します。そして魔導師の常たるもので、一人は必ず弟子枠を空けます。これは私の血筋に連なるものに魔術の全てを与えるためです」
一人前になり私から卒業しなくては、私は新たな弟子を育成することができません。しかも、異世界にいる弟子が一人前になったとしても、それはかなり未来の物語。
つまり、現状では小笠原一尉が一人前になるまでは、新たな弟子は取れません。
なお、彼女が杖を他者に貸与したとしても、私が導いたのは小笠原一尉ですので無理なものは無理。
ということを説明すると、またしても頭を抱えていますよ、畠山陸将が。
「ちなみにだが、異世界の弟子や小笠原一尉を破門なりなんなりすれば、弟子は新たに取れるのかな?」
「はい。ただし、その場合は私の資質が疑われた挙句、盟約により『七織』の魔法は封じられます。二人破門すると『六織』も使えなくなるため、私は魔導師の資格を失い、魔術師に降格します。ですから、その道はありませんので」
堂々と宣言。
そもそも、私が魔導編隊の隊長として、魔法の才能がある人に魔法を教えたところで、それは訓練学校レベルのことしかできませんよ。
『五織以上の魔術師』は、講師資格も有しますので他者に魔法を教えることはできますから。
でも。それは弟子ではなく生徒。
一定以上のことは学ばせられませんし、学びとることもできません。
魔法使いの世界とは、厳格なるルールと魔導神との盟約によって支配されていますから。
「……わかった。このことも報告して構わないな?」
「はい。あとで防衛省に呼び出されて色々と追及されるのも面倒ですから」
「全く……今の話が全て事実だとしたら、純日本産の魔法使いなど生まれないということだな」
「小笠原一尉がいますが、そのあとはどうでしょうね。私が講師として教えたとしても、そのレベルでは発動媒体である杖と魔導書がなくては、どうしようもありませんからね」
ちなみにあっちの世界では、訓練生用の魔導書は魔法協会にて販売しています。
日本円にして、大体一冊が500万円ぐらいかな?
もっとも、適性ありの人が購入する場合は申請書と協会発行の適正保持者という証明が必要で、その場合は15万円ぐらいで買えるはず。
魔法使いになるためには、人格も審査対象になりますので。
金を積んで魔導書を買って、魔法使いになるという貴族特有の裏技防止ですよ。
この後も、淡々と畠山陸将の質問に答えているうちに、気がつくと夕方。
ええ、しっかりと四時間の質疑応答にお付き合いしました。
「……結論としては、魔導編隊については、適性者が如月三曹から講義を受けること、発動杖及び魔導書を自前で用意すること、最低でも20年の修行を行うことで、ようやく実践に出られる程度には鍛えられるということで良いのだな?」
「はい。このことについては、私が第一空挺団に所属する時、しっかりと説明しましたが。どうして記録に残っていないのでしょうか?」
「当時の担当官が、如月三曹の発言に重要さを見出さず、そのまま保管庫に移された可能性もあるか。まあ、その辺りについては、まとめて報告しておく。本日は以上だ、下がって良し!!」
──ザッ!
小笠原一尉と私、同時に敬礼。
そして魔導編隊隊舎まで戻ると、17時のチャイムが鳴ります。
つまり、本日の課業(勤務時間)はこれにて終了。
「はぁぁぁ。ようやくおわりましたぁ」
「本当に、おつかれさま」
そう告げながら、小笠原一尉が私に訓練用の杖を渡そうとしています。
「ん? その杖の保持者は小笠原一尉で登録されていますから、そのまま使って訓練してください。他の人に渡すと後々面倒になるので」
「そうなの? でも、こんな高価なものをどこに収めたら……あ、そういうことなのね?」
どうやら小笠原一尉も理解したようで、手にした杖を瞬時に消しました。
正確には、頭の中に浮かんでいる術式、そこに納めたのです。
「私が如月三曹の弟子になったというのは、こういう事なのですね?」
「はい、そういう事なのです」
すぐさま小笠原一尉は右手を前に差し出します。
すると、その手の中に一冊の魔導書が発生しました。
魔術師の弟子は、弟子となった瞬間に脳内に魔導術式が組み込まれ、体内に魂から分与しだ魔導書を作り出す。それらを収めるため、弟子が最初に身につける魔法が
「ふぅん……まだ、光球の魔法についての説明と術式しか掲載されていないわね」
「そりゃそうですよ。これからどんどんと勉強し訓練する事で、魔導書の中に新しい術式が生まれるのですから。という事で、頑張ってください。初級術式は、全て訓練用の杖の中に組み込まれていますから、それを使って訓練してくださいね」
「そうね。第一空挺団に所属できなくても、北部方面隊の魔法使い事務官というのもありかも知れませんね」
うんうん。
その通りです。
あとは、この隊舎に働いている一般事務員や自衛権をどう説得するか、それが勝負ですね。
この場で見たものは全て秘匿義務がありますから外に漏れることはないでしょうけれど。みなさん、先程からずっと、小笠原一尉を羨ましそうに見ていますよ。
そりゃあ、いきなり魔法の杖を振って魔法を発動したり、魔導書が出現したのですから。
さて、どう誤魔化したらいいものでしょうか。
魔導編隊・一般事務魔導部隊というのも面白そうですよね。
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