Dark Enough to See the Stars(或いは、緩和とも言う)

 ナイジェリアでのPKO活動も終わり、日本から派遣されていた陸上自衛隊魔導編隊も、習志野駐屯地へと戻っていく。


 現地においての闘気修練についての報告も同時に行われ、異世界からもたらされた未知の技術が実践において耐えうるという結論に達したことが報告されると、防衛省は如月弥生三曹に対して闘気修練教官に任命した。

 だが、初期に第一空挺団において才能を開花させた者以外、誰も闘気が覚醒することはなかった。

 この結果については、如月三曹が手を抜いているのではという批判まで発生するものの、実際に闘気修練を受けて『覚醒不可』の評価を得た者たちからは、如月三曹の指導は適切であったと報告があげられていた。


 何分、闘気修練初日に如月三曹から受ける『経絡開放』の一撃を受けて、その日のうちに立ち上がれるものは皆無。一週間ほど反吐を吐きつつ覚醒不可能という評価を受けてしまうため、評価も何もあったものではない。

 その結果、闘気修練を望む自衛隊員は日に日に減り続け、最近では週に二人いるかどうかという状況になっていたという。


………

……


──永田町・国会議事堂

 この日は、ナイジェリアにおける陸上自衛隊のPKO活動についての報告が行われた。

 従来ならば当該部隊が統合幕僚本部に報告書を提出、責任者である津田一佐からの報告後に、改めて国会において防衛大臣からの報告が行われるだけであるのだが、今回は各委員会及び国際異邦人機関からの要請もあり、防衛大臣からの報告ののち、当該自衛隊員による質疑応答の場も設けられた。

 しかも、国営放送による生中継もあり、魔導編隊の活動に興味を持っている国民は、リアルタイムでテレビに釘付け状態となっていた。


「それでは。自衛隊の皆さん、ナイジェリアでのPKO活動はご苦労様でした。我が日本国が国際的地位に甘んじる事なく、今後も世界の平和において活動する事に期待します」


 まずは先制攻撃と言わんばかりに、野党第一党党首である五井武光議員が言葉を放つ。これには議員たちからも拍手が湧きあがったのだが、次の質疑の瞬間、その場の空気が凍りついた。


「ナイジェリアにおいて発生したダンジョンコア、これはナイジェリア政府から正式に、魔導編隊に『覚醒及び制御』を行いたいという打診が行われました。そして現地において、魔導編隊の如月弥生三曹の手によってそれらは成し遂げられ、現在はナイジェリアの自然公園は結界によって囲まれ、ダンジョン内観光ツアーまで行われているという報告があげられています」


 まだ、この情報は国際的には公開されていない。

 PKO活動として参加していた諸国の政府関係者は報告を受けているものの、それはまだ公にすべきタイミングではないと理解しているから。

 だが、ここに来ての五井議員の爆弾発言。

 国民は、ダンジョンが観光地として活用されているという事実を知った。


「その上で、魔導編隊の如月三曹に質問です。日本国内でダンジョンを発生させ、それを管理・運用することは可能でしょうか?」


 公の場において、彼女から言質をとる。

 そのために、五井ら野党は、この場に如月三曹を引き摺り出した。

 彼女の口から直接、ダンジョンが安全であることを語らせるために。


「はい、条件が全て揃うのでしたら、可能です」

「では、その条件とはどのようなものでしょうか?」

「まず、地球内部に存在するマナライン、それが直結している魔力瘤が国内にあるかどうか。それがあった場合、その直上において活性化したダンジョンコアが発生するかどうか。それの支配権を書き換えた上で、維持できるかどうか。これらの条件が全て満たされるのなら、可能だと宣言します」


 勝った。

 この時、野党は如月弥生の発言を聞いて内心ほくそえんでいた。

 こうなると、あとはいかにして如月三曹にダンジョンを管理させるかである。


「では、そのような場所があった場合、あなたが管理運営するということでよろしいのですか?」

「え? 嫌ですよ」


 きっぱりと否定する如月三曹。

 これには五井議員も耳を疑った。

 議会場も如月三曹の発言に騒めき、一部からは野次のようなものまで飛んできていた。


「嫌、と申しましたが。それはどうしてですか?」

「ダンジョンの管理というのは、実に面倒臭さいのですよ。定期的に確認作業を行いつつ、ダンジョン内部の魔素濃度の調整。湧き出す魔物の討伐、侵入者の排除など。とにかく一人で行うのは不可能です」


 これは、如月本人以外のこと。

 彼女ならば、一人で同時に五つ程度のダンジョン管理を行うことは可能。実際、異世界ではそれを行なっていたので、魔素濃度が薄い地球ならばあと三つはいけると自負している。


「では、それが任務なら? 行わざるを得ませんよね?」

「私の所属は陸上自衛隊第一空挺団・魔導編隊です。遺跡の管理・調査は本来の任務に含まれておらず、また、そのようなことに魔力を割いた場合、有事に魔法を行使することができませんが」


 堂々と言い放つ如月三曹。

 そして周囲を見渡したのち、五井議員を見て、話をつづけた。


「そもそも、ダンジョンコアをどこから入手するのですか? 私が所持していたダンジョンコアは、すでに粉末化して秘薬の素材にしましたので、存在しませんよ?」


 そう告げながら、すでに粉砕し素材用に加工した『ダンジョンコアの粉末』が収められている小瓶を取り出し、壇上に置く。


「え、いま、なんとおっしゃいました?」

「ダンジョンコアを粉末化しましたと。これが、私が霊薬を作るために加工した『ダンジョンコアの粉末』です。これとドラゴンの血、世界樹の葉脈、月の雫など、かなりレアな素材が必要でした。まあ、ドラゴンの血以外は所持していましたし、あとの二つも新宿迷宮において入手しましたので。ということで、ダンジョンコアが自然発生するパターン以外は、日本国に地下迷宮を作り出すことはできません、以上です」


 ダンジョンコアがなくては、ダンジョンは作れない。

 その核を彼女が所有していたのは知っており、法改正でもなんでもして、ダンジョンコアの管理を個人から国家に置き換えようとも考えていた野党は、この瞬間に計画の全てが水の泡になってしまった。


「そ、それでは、ナイジェリアで譲渡されたダンジョンコアは? あれはまだあるのですよね?」

「先ほど、防衛大臣からの報告にもあったとおいますが。私が譲渡してもらったダンジョンコアは、現地においてPKO活動に参加した諸外国に分割譲渡してあります。私が受け取ったのは、残りの半分。それはすでに、地下迷宮を作って私が管理していますが?」


 私が管理している? 

 それはつまり、この日本にダンジョンがあるということ。

 このタイミングを逃してはなるかと、五井議員は登壇し質問を初めた。


「日本において、危険であるダンジョンを個人が有して良いのですか? そのようなものこそ、国家で管理すべきかと私は思いますが?」

「え? 自宅の庭の地下に、大きさ6畳ほどの地下倉庫を作っただけですよ? 物置小屋が小さくなったので、地下迷宮を倉庫がわりにしているだけですし、そもそも『私が管理』しているのですから、危険ではありませんよね? 私以外に、どこの誰がダンジョンの管理を安全かつ最適に運用できるのか、お答えいただけると幸いですが」


 自分たち野党がイニシアチブを所持していると思っていた五井議員は、ここでさらに追及の手を休めることはない。


「そのような詭弁は必要ありません。国家が迷宮を管理する、その事実が必要です。私はここで、迷宮管理の全てを日本国政府が直接行うための法律の制定を申請します!」

「では、私が日本のために迷宮を作った場合、それを私ではなく日本国政府が管理するということですか?」 

「ええ、そのとおりです!」


 この時、如月三曹は椅子に座ったまま、下を向いてほくそ笑んだ。

 全ては防衛大臣、そして近藤陸将補との打ち合わせ通り。

 ここ最近の日本政府、そして異邦人フォーリナー対策委員会の活動には眉根をひそめてしまうことが多い。それならば、いっそ如月三曹自ら、自衛隊活動以外は行わないと宣言した方がいいと後押しされてきたのである。

 

「では、次に迷宮が発見された場合は、私は干渉しませんので。そもそも私は自衛隊員、国民の安全を守るのが義務であり、迷宮管理は仕事ではありません。迷宮が危険であるというのなら、私は迷宮の破壊命令、つまりダンジョンコアの破壊という任務については受け付けますが管理・運営は行いません。以上です!!」


 きっぱりと言い切り、そのまま席に戻る。

 すると五井議員はニヤニヤと笑いつつ、登壇して。


「では、迷宮管理法が新たに施行されるまで、のんびりとお待ちください」


 如月三曹との熱弁論争により、五井議員は途中から正常な判断が行いにくくなっている。その結果が売り言葉に買い言葉。よく暴論や詭弁、失言を行い追及されまくっていた五井議員の性格をうまく誘導した、防衛省の勝利というところであろう。

 それでも、五井議員は『迷宮管理法』の中に魔導師の強制管理まで設定するつもりであり、一個人を国家に縛り付けるためにはどのような手段を使っても構わないと考えていた。


 なお、この翌日から『迷宮管理法』の施行準備が始まるものの、『防衛省は迷宮管理に一切手を出さないという条文を認めない限り、この法案は反対する」という与党により、話し合いは遅々として進まなくなったという。


………

……


──北海道・如月宅

 ふぅ。

 せっかく庭に地下迷宮を作ったのはいいけれど、ここって社宅だから勝手に地下迷宮を作るなと、お父さんの会社の管理部から怒られました。

 せっかく作った迷宮も回収する事になり、今は、お父さんが一軒家を建てるぞと必死にあちこちから資料を集めまくっています。


 というのも、私、あっちの世界からこっちに戻ってくるのを見越して、宝石貴金属装飾品などを大量に買い漁っていたのですよ。

 特に金。

 あっちの世界でも普通に鉱山で発掘されていましたけれど、実はむこうでは『貨幣』程度しか使い道がなかったのです。

 そもそも希少鉱石はミスリルやマナタイト、リビングメタルというものが主流であり、金については銀よりは価値があるものの、硬くて重くて加工しずらい金属程度でしかありません。

 しかも、銀と同じように普通に掘り出されていたので、私やスティーブはこぞって買いまくっていましたよ。


「ただ、どうやって換金するか、なんですよねぇ」


 日本で金の売買を行う場合、専門店に買い取ってもらうのが一番なのですが。まず、私が持ち込んできた金については、品質保証が行われていません。

 ほら、インゴットに刻印されていますよね? 『999.99』とか『750』とか。あれは、インゴットに含まれている金の含有量を表しています。

 それがない場合、砂金とかと同じ扱いで買い取られる場合があるので、しっかりと鑑定できる場所に持ち込むしがないのですよ。


 ちなみに宝石や貴金属については、【宝石・貴金属等取扱事業者】に持ち込んで買い取って貰えばいいのは確認済み。身分証は【異邦人フォーリナー証明】でクリア。

 金も同じ方法でできなくはないと思うので、今度、調べてみる事にしますか。


「はぁ。猫に小判とは、まさにこれいかにって感じですよ」


 任務が終わり、久しぶりの休暇。

 それも、せっかく作った地下迷宮の撤去でパーです。

 また、当面の間は、物置のいらないものは私のアイテムボックスに収納しないとなりませんか。

 まあ、お父さんたちが、私に預けたことを忘れなければ良いのですけれど。


「うん、クヨクヨしても始まらない。こういう時は錬金術ですよね」


 様々な素材を取り出し、のんびりと錬金術を開始。

 頭を使って疲れた時は、これが一番楽ですよ。

 さて、今日は何を作りましょうかねぇ。

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