…Baby One More Time(頼まれたって、いやですよ)
大空洞内で、魔族四天王の一人であるリビングテイラーを討伐してから。
私は失った魔力を回復去るために仮眠を取り、その間に各国の部隊は割り当てられたサバンナトカゲ亜種の解体を完了。ゆっくりと体を休めて魔力が多少回復したので、いよいよ最下層へと向けて出発することになりました。
ちなみにサバンナトカゲ亜種を討伐して以降は、それほど面倒くさい魔物と遭遇することはなく。
せいぜいが斥候であるスマングルがゴブリン種を発見して挑発したのち、魔導編隊の4名で討伐するという新宿地下迷宮の再来程度で終わりました。
そしていよいよ最下層。
――ヒヤッ
いきなり空気が冷たくなりました。
それと同時に周辺の魔素濃度が急速に上昇し、いよいよダンジョンコアとの邂逅とあいなりました。
ここまでは自然洞窟状態であったにもかかわらず、このフロアは石畳の広がる神殿のような場所。
ダンジョンコアが、自らの趣味嗜好を凝らして作りあげた空間です。
『ヤヨイ、前方250メートルにダンジョンコアだ。かなり成長しているが、どうする?』
「え? どうするってどういう意味?」
各部隊は緊張したおももちで周辺警戒を開始。
ここからの私の行動が、このナイジェリアの未来を左右します。
『まあ、恐らくだが、あれは俺では制御できない。それほどまでに巨大化している』
「ふぅん……まあ、ものを見てから考えましょう? もしもスマングルが手に負えないようでしたら、その時はそのときですよ、なんとかなりますって」
『そうか、その時は期待する』
バンバンとスマングルの背中を叩きつつ、私たちはダンジョンコアに近寄っていきます。
すると後方警戒を行っていたドイツ陸軍のシェルナー少尉が、私たちに近寄ってきます。
『如月三曹、我々もダンジョンコアを観察したいのだが、それは問題ないかね?』
「まあ、これからダンジョンコアの調査を行い、儀式を行いますけれど、ちょっとアクシデントが発生していますので、その処理をする前でしたら、ご自由にどうぞ。私は、そのための下準備を行う必要がありますので」
『アクシデント? それはなんだね?』
「まあ、いろいろとありまして……」
そのままシェルナー少尉から離れて、私はダンジョンコアに近づきます。
透き通った緑色の水晶結晶体、形状は一辺が2メートルほどの正六面体という形です。
それが地面から高さ2mほどの場所に浮かび、ゆっくりと不規則な回転を行っています。
「それじゃあ一発……七織の魔導師が誓願します。我が目に五織の魔力を与えたまえ……我はその代償に、魔力15を献上します……
右手を翳して魔法を発動。
そして目の前のダンジョンコアのデータが、頭の中に届いてきます。
これは、自然発生型ダンジョンのコア。
元々は新宿地下迷宮で私が分割しスマングルに渡したものであり、それがこの地にて活性化し、真下を流れているマナラインと偶然接続。
スマングルがダンジョンコアを設置したときの祈りである『この地の動物に加護を』という命令が刻み込まれていたため、大空洞に逃れてきた動物たちには、『繁栄の加護』が授けられるようになっているようです。
ただし、この状態ではスマングルは制御できません。
これは魔力型ダンジョンコアである、スマングルが制御するためには闘気型に書き換える必要があるのです。
そのため、いちど支配権を私に書き換えたのち、闘気型に作り替える必要があるのですが。
「うん、スマングル、これじゃあ大きすぎてダメだよ? せめてこの半分まで小さくしないと、スマングルでは制御できないよ?」
『分かった、半分は持って行っていいから、俺の制御可能な大きさに作り替えてくれ』
「了解です。ナイジェリア陸軍の方、このダンジョンコアは大きすぎるため、私が二つに分断します。そして権利者であるスマングルから譲渡して頂いたので、残り半分を使って、この地に管理可能なダンジョンを構築します。それでよろしいですか?」
私とスマングルだけの口約束では不安なので、一度、ナイジェリア陸軍の方に確認を取りました。
『大統領からの命令では、ヤヨイ・キサラギ三曹の指示には従うようにと伝えられています。どうぞ、お持ちください』
この言葉は、後方で待機している各国の部隊もザワザワしています。
そりゃそうですよね、どの国でも喉から手が出るほど欲しいマテリアルなのですから。
「それじゃあ、行きますよっ!!」
両手を翳し、まずは支配権の書き換え。
そして私に書き換わったとき、ダンジョンコアの中心核を二つに増殖し、そののちダンジョンコアを二つに分割。一つは私のアイテムボックスに保管し、もう一つは形状を真球状に変化させたのち、表面に命令文を刻み込んでいきます。
――ホワワワァァァァン
すると、それまで緑色であった水晶が、青く透明に変化していきました。
「スマングル、契約して」
『わかった……我が名はスマングル・バコダ。我はダンジョンマスターなり……』
――フィィィィン
すると、ダンジョンコアが淡く点滅し、やがて元の緑色に戻っていきます。
あとは私が魔法を使って解析し、支配権がスマングルに移譲されているかどうかを確認するだけ。
「さてと……うん、支配権はスマングルに切り替わっているね。それじゃあ、あとはこれを……」
私のアイテムボックスから、さきほど切り出したダンジョンコアを取り出します。
その一部をナイフで切り落とし、それを変異させます。
形状はタブレット状、遠隔でダンジョンコアに命令を書き込める魔導端末です。
あっちの世界でも何度か作ったことがあるので、簡単なものですよ。
「はい、これがダンジョンコアの制御端末ね。アイテムボックスに納めて、なくさないように。まあ、スマングル以外は使えないと思うけれどね」
『分かった、ありがとう』
頭を下げつつ魔導端末を受け取ると、スマングルはそれをアイテムボックスに収納します。
はい、この瞬間、各国の部隊のみなさんの視線が釘付けになっていますよ。
そりゃあ、どの国でも喉から手が出るほど欲しいものでしょうからね。
『ゴホン……ヤヨイ・キサラギ。君が受け取ったダンジョンコアだが、我がドイツに譲渡する気はないかね?』
ほら来た。
こうなることは予想していましたよ。
これで断ったり力ずくとか、そういう手段にでも出る気ですか?
「残念ですが、それはお断り申し上げます」
『まあ、そういう返答が来ることは分かっていただけに残念だね。では、またいずれということで』
「いずれという可能性はありませんね……ドイツが日本国政府を強請るとしても、私が頭を縦に振ることはありませんので。では、失礼します」
ということで、今の私とシェルナー少佐とのやりとりを、他国の部隊の方々も見ていましたから。
この場ではこれ以上の話し合いもなく、私たちは無事に帰路に就くことになりましたよ。
はぁ、ようやく日本に帰れます。
もうね、この蒸し暑い環境は堪忍して欲しいものですよ。
〇 〇 〇 〇 〇
スマングルがダンジョンコアの支配権を得た翌日。
大きく変容していた自然環境は元に戻り始め、以前のようなナイジェリア特有の自然へと戻り始める。大密林地帯はゆっくりと元の大きさに戻り、巨大化した魔物たちも各地にあるダンジョンへと移動し、そして姿を消していった。
やがて、カインジ湖国立公園はスマングルにより『動物を守る結界』によって包まれ、密猟者たちは足を踏み入れることが無くなったという……。
私たちPKFを始めとした多国籍軍も任務が完了し、各国へと帰路に就くことになった。
なお、撤収作業の最中も、私の元には各国の部隊長たちがやって来て、ダンジョンコアの譲渡を頼み込んできましけれど、全て拒否。
ただし、サンプルとして『活性化不可能なサイズ』に切り出したダンジョンコアを研究用として手渡し、余計な恨みを買わないようにすることは忘れなかった。
ナイジェリアが『政府管理によるダンジョン』をどのように運用するのかと、国際的に注目を集めることになったのだが。
ナイジェリア政府は公式見解として『自然保護のために利用する』とだけ伝えたという。
そして今日も、スマングルは休暇にも関わらず、草原地帯を走っている。
それは、密猟者を探し求める姿ではなく、純粋に、自然に触れて楽しんでいる一人の青年の姿であったという。
――第三部・完
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