Sweet but Psycho(シャレになっていないですね)

 斥候のスマングルの報告を受けて、対策について考えることになったのですが。


 ナイジェリア陸軍の結論はただ一つ。

 サバンナトカゲ亜種を討伐している謎の人物たちとコンタクトを取り、可能ならこの場から出て行ってもらうということになりまして。

 私たちも急ぎスマングルたちの待機している小部屋のような空洞に向かいますと、そこであらためてスマングルの作戦を聞くことになりました。


「俺単独で偵察をしてきた。そこには不死王リビングテイラーと、その従者であるリビングアーマーがサバンナトカゲ亜種を殺しまくっている。リビングテイラーはそのサバンナトカゲを不死魔術ネクロマンシーで操り、不死の魔獣を作り出していた。恐らくはそれらを制御しつつ、ダンジョンコアに向かうのだと思う。だから、ぶっつぶす、以上だ」


 ハイッ、状況と対策を有難うございます。

 ええ、スマングルに作戦立案を頼んだのが間違いでしたよ。

 理性的で思慮分別のある分だけ、スティーブよりも大人なのはいいのですが。

 彼の作戦は『俺が盾で気を引く。その間に殲滅してくれ』で終了になりやすいのです。

 まあ、どういう手段を使っても、討伐することに変わりはありませんし。

 敵のヘイトコントロールについては達人級なので、スマングルの作戦も間違いではないのですよ。

 ただし……。


「スマングル、アンデット対策はどうするの? とどめを刺すためには『浄化魔術』か『聖属性付与』が必要だよ? 私はできないよ?」

『それはおかしい。あっちの世界では、ヤヨイもアンデット討伐は行っていたはずだが』

「炎属性魔術と、拳に魔闘気を宿しての打撃戦だけだからね、物理的に破壊していただけだからね。ヨハンナやスティーブのように、聖属性魔術なんて使えないからね」


 やっばり勘違いしていたかぁ。


『それなら、銃弾に炎属性……は破裂するか。そうなるとナイフコンバットになるが、この部隊分の炎付与は可能か?』

「可能かどうかといえば、可能。ただし、付与魔術を他人に施す場合は、かなり多めに余剰魔力が必要になるからね。この後のことを考えると、あまり魔術は使いたくはないかなぁ……ということでねご紹介します。闘気訓練の初期過程に片足を突っ込んだ陸自の魔導編隊です。彼らなら、ナイフに闘気を宿すことができるけれど。スマングル、いつものようにすべての敵を引っ張れる?」


 どれだけ敵がいようとも、すべてのヘイトを彼が集めてくれれば、サバンナトカゲ亜種ごときに遅れをとることはない……とおもうけれど。体長12メートル弱かぁ。


『日本の魔導師、あの巨大トカゲには、物理攻撃は効かないのか?』

「あ、シェルナー少尉。恐らくですが、この大空洞は他の迷宮よりも浮遊魔力が濃くてですね。恐らくは体内に魔石が発生している可能性があります。そうなると、体組織に魔力が浸潤するため、物理攻撃が効きにくくなっている場合があります」


 まあ、浸潤ではなく体表面に魔力がコーティスングされているような状況でも、物理兵器の威力は半減するでしょうけれど。かといって、このまま頭を突き合わせて打ち合わせを続けていると、リビングテイラーは全てのサバンナトカゲ亜種を不死軍団に加えることになりそうですし。


「スマングル、決断して。この場での隊長は貴方だからね」

『わかった。ではヤヨイはリビングテイラーを殺してくれ。陸自の魔導編隊はサバンナトカゲ亜種の殲滅を、他の部隊はバックアップを。俺がヘイトを稼いだ敵を攻撃してくれ。少しでもダメージを与えておきたい』

「リビングアーマーはどうするの?」

『それも俺が引き付ける。ヤヨイはリビングテイラーを殺した後は、リビングアーマーを破壊してくれ』

「りょ」


 そして作戦が各国の部隊に告げられると、いよいよ四天王討伐戦が始まった。


………

……


 魔導編隊の8名中、この大空洞攻略戦に参加しているのは私も含めて4名。

 この人数で、いかにサバンナトカゲ亜種を倒すのかといいますと、私を除いた3名でサバンナオオトカゲに憑りつき、頸動脈もしくは眼底に向かってナイフで一突き。そこから脳幹を破壊するという奇策を行うそうです。


「それじゃあ、いきますか……魔導編隊、闘気準備っ!!」


――ヴゥンッ

 竹林一尉の掛け声で、大越三曹と茶畑三曹も闘気を体に纏います。

 うん、あっちの世界ではひよっこレベルですけれど、これだけの闘気を纏えるのなら一撃死はないでしょう。私からの魔法によるバックアップはなし、余計なことに魔力を使いたくはありませんから。


「如月三曹より魔導編隊へ。健闘を祈ります」

「りょ……それでは、お願いします」


 竹林一尉の掛け声を聞いて、スマングルが空洞エリアに突入。

 そして盾を構えると、周囲の敵すべてのヘイトを一身に集めました。


『弥生、いけっ!!』

「おーらいっ。それではいきまーーーーーす」


 魔法の箒を右手に持ち、ぶら下がるように高度を上げて飛行すると、眼下で杖を構えて詠唱を開始しているローブ姿の骸骨……不死王リビングテイラーに向ってドロップキック!


『貴様は空帝ハニー、どうやってここを嗅ぎつけた!!』

「やっぱり四天王の骸骨担当でしたか!! あなたたち魔族は、どうやってこの地球に姿を現したのですか!  まさか異世界では飽き足らず地球侵攻を目論んだとかいいませんよね!!」


 私の蹴りをかわし、素早く杖を振りつつ詠唱を開始するリビングテイラー。

 その術式に対抗するために、私も詠唱を始めます。


「七織の魔導師が誓願します。我が前に四織の盾を生み出したまえ……我はその代償に、魔力880を献上します。魔力反射鏡リフレクトミラーっ」

『喰らえ、不死なる咆哮、怨霊鎖裂破っ』


――ドゴドゴドゴドゴッ

 リビングテイラーの放つ黒い霧。それは一瞬で4本のランスに姿を変えると、高速で私に向かって飛んできます。そのうちの2本は私の放った魔力反射鏡をぶっこわしてくれた直後に消滅。

 ですが、残った2本は私に向かって飛来するものの、闘気を宿した私の回し蹴りに弾き飛ばされて地面に突き刺さり、霧のように消滅します。


「くっそ、魔力の練度が高いわねっ」

『この希薄な魔素の中でも、小娘程度のザコ魔力に劣るはずがないだろうが』

「あ、この濃度でも希薄って言いきるところは、流石魔族よね」


 魔族にしてみたら、大空洞の魔素程度は『水で伸ばしたポタージュスープ』のようなもの。

 でも、人間にとっては『5倍希釈・業務用オレンジジュース』。

 あまりにも濃いため、魔力の制御がかなり難しいのです。

 まあ、その場合の対策もあるのですけれど、そのためには周囲のサバンナトカゲ亜種の殲滅が必要です。

 幸いなことに、竹林一尉たちは3体目のサバンナドラゴンの殲滅を完了。

 まだネクロマンサーの術式は発動していなかったらしく、トカゲの死体がゴロゴロと転がっているものの、アンデット化しているものはいないようで。


『はっはっはっ。肉体を持った人間というのは脆いなぁ。ほらほらほらほら、躱せるものなら躱しても見ろよ!!』 


――シュシュシュシュシュンッ

 杖を振り、次々とランスを作り出しては私に向かって飛ばしてきます。

 こう次々と飛ばされると、詠唱して対処する時間もありません。


「はいはい……凄い凄い……って煽りたい気分ですよ。七織が魔導師が炎の足っっっ」


――ドゴドゴドゴドゴッ

 飛んでくるランスに向かって、炎を纏った足でカウンター攻撃を開始。

 一撃でランスを蒸散させると、リビングテイラーに向かってどんどん間合いを詰めていきます。

 だが、やはり彼もランスを飛ばしつつ間合いを取るように下がるので、一進一退の状況が続きました。

 そしてどれぐらいの時間、このような攻防を繰り広げていたのでしょうか。

 突然、リビングテイラーの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がります。


「さあ、魔法陣は完成した。目覚めよ、我がしもべたち……。生きとし生けるものすべてを喰らい、魂を捧げよ!!」


――カッ!

 魔法陣が真っ赤に輝くと、それまで沈黙していた死体が一斉に活動を開始。

 ゆっくりと体を起こし始めると、一体、また一体と魔導編隊の隊員たちに向かって歩き始めます。

 ですが、その直後。


『撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


 ファース少尉の掛け声と同時に、一斉に銃撃音が響きます。

 さすがにグレネードとか手りゅう弾は使わないですけれど、この攻撃でアンデットトカゲたちは体が吹き飛び、千切れ、あるものは地面に崩れ落ちていきます。


「ははぁ。まだ体内魔石が生まれていないのね。倒すことはできないけれど、動けなくすることはできるっていうところよね……さて、リビングテイラー。あなたはどうするの……ってえええええ!!」


 私がリビングテイラーから目を離したのは一瞬だけ。

 その隙に奴は、魔法陣の中へ吸い込まれていきます。


『くっくっくっ……どうやら、ここまでのようだな。では、また会おう』


 そう笑いながら呟いているリビングテイラー。

 そして全身が魔法陣に吸い込まれる最中。


『おお、超拘束挑発バインド・タウントっ』


――ジャララララララッ

 スマングルがリビングテイラーめがけて盾を構えます。

 その刹那、闘気によって生み出された大量の鎖がリビングテイラーに向かって飛んでいくと、奴の上半身に絡みつき転移を阻害しました。


『な、なんだ、何事が起こったというのだ!! ええい、この鎖はなんだ!!』


 杖を振り回し、必死に鎖を引き裂こうとしていますが、スマングルの挑発は伊達ではありませんよ。

 あの大魔王ですら引き寄せ、地面にひれ伏させたという実績がありますからね。 

ということで、不死王リビングテイラー、貴方は退場です!!

 アイテムボックスからエルダースタッフを引き抜くと、それを左手に持ち換え詠唱を開始します。


「ふぅ……七織の魔導師が誓願します。我が杖に、死の影を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力75000を献上します」

『そ、その詠唱は……まさか、確殺の刃シュアーキリングですかっ!!』

「イエーーーーーーーース!! 貴方にこの魔法を使うのは二度目ですよね。今回は魔力も倍プッシュ!! それじゃあグッバイ魔族です」


――ズバァァァァァァァァァァァァァァァッ

 両手で杖を構えなおし、そのまま魔法陣に囚われているリビングテイラーの頭めがけて横一閃。

 その瞬間、リビングテイラーの上半身が消滅しました。

 そしてアンデットトカゲの御一行様も力なくそのばに崩れ落ちていきます。


「はあはあはあはあ……やばいです、怒りに任せて魔力を使い過ぎました。スマングル、私はここで休息を申請します」

『そうだな……』


 床に転がっているリビングアーマーを拾ってアイテムボックスに納めつつ、スマングルがそう返事をくれました。

 そして同行しているナイジェリア陸軍の指示で、この広い空洞で休息を取ります。

 私は最低でも6時間は睡眠をとらないと回復できないため、歩哨任務は免除。

 簡易テントを広げて眠りにつきます。

 なお、大量のサバンナトカゲ亜種の死体については、各国に割り当てられたのち、この場で解体作業が開始。スマングルのアイテムボックスに保管してもらい、任務が終わり次第回収することになったそうです。


 それでは、おやすみなさい。

 魔力、何処まで回復するかなぁ。

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