I Write Sins Not Tragedies(真摯に紳士たれ、って言いましょう)

 日本政府は困惑していた。


 ナイジェリア大統領からのメッセージが、外務省を通じで日本国総理大臣に届けられたから。

 その内容は至極簡単で、現在PKOとして派遣されている陸上自衛隊の如月弥生三曹に、ナイジェリア地下迷宮のダンジョンコアの制御を頼みたいというものである。


『ナイシェリア地下迷宮が出現したので、彼女にダンジョンコアの制御を依頼したい。すでに如月弥生本人との会談は終えてあるが、彼女は日本国陸上自衛隊の隊員であり、命令なく他国のために活動することはできないという返答を貰った。今後の日本とナイジェリアの友好関係を保つためにも、彼女の協力が得られることを期待しています』


 アフリカのリーダー国の一つであり、日本との友好も深いナイジェリアからの、たっての願い。

 経済貿易関係でも日本は二国間協定をはじめ、様々な面においてナイジェリアと手を結んでいる。


 そして今。

 ナイジェリアに発生したダンジョン、そのダンジョンコアの制御を彼女に依頼したいという大統領自らの連絡に、国会と異邦人フォーリナー対策委員会は頭を抱える状態になっていた。


「このディバダ大統領からの連絡では、如月三曹はダンジョンコアの制御が可能であるということが書かれています。つまり、あの新宿迷宮もうまくいけば、日本政府の元に管理運営が可能であったということにほかなりません。彼女は日本に対して嘘をついていただけではなく、他国に魔術の恩恵を授けようとしています』


 淡々と、委員会が如月三曹に対しての追求を開始する。

 もっとも、国会においての異邦人フォーリナー大佐会員会の存在は、今となっては利権絡みの厄介議員というレッテルが貼られているため、真剣に耳を傾けているものはそう多くはなかった。


『これは特定秘密保護法違反であり、すぐに如月三曹に帰還命令を出し、逮捕拘束する必要があります。彼女のこのような暴挙を、許していいのでしょうか? 今すぐに異邦人フォーリナー対策委員会としては、彼女に与えられている特権のすべてを凍結するように政府関係者に通達します」


 国際異邦人フォーリナー機関からの報告を受けて、異邦人フォーリナー対策委員会はこれ以上彼女を好き勝手させないように手を打とうと考えた。

 このナイジェリアからの申し出を受け入れるということは、ナイジェリアのダンジョンが国際的に『安全であり、資源を生み出す迷宮である』ということを周知させることに他ならない。 

 そこに目を付けた他国はナイジェリアにすり寄り、甘い蜜を求めるだろうことも。

 そしてその利潤により、ナイジェリアは国際的強者の位置に立つことになる。


 異邦人フォーリナーの存在する日本を差し置いて。


 だが、そんな委員会の与太話など無視して、話は続く。

 今は、如月弥生一人の処分を決める場ではないということ、ナイジェリアとの今後の付き合い方においても、彼女にダンジョンコアの制御を許可したほうが得策であると政府は考えた。

 新宿地下迷宮の件についても、『あの時は制御できなかったが、今はできる』と言われてしまえばそれ以上は追及することもできない。それが嘘であるかどうかなんて、大魔導師である彼女以外には誰もわからないのだから。


 そして日本政府としての決断は一つ。


『如月弥生三曹においては、ナイジェリア政府と協力し、ダンジョンコアの制御に関する活動を許可する。その際は、第一空挺団魔導編隊として活動し、有事の際には津田一佐の指示に従う事。なお、すべての任務が完了した暁には、国会においてPKFとしての報告を頼みたい』


 以上であった。


 〇 〇 〇 〇 〇


――ナイジェリア・ラゴス州アパパ港

 連日の暴走魔獣の討伐任務で、日本のPKFの隊員たちは少々疲れが出てきていた。

 これが地球の武器では歯も経たない化け物であったなら、如月三曹のバックアップで終わっていたところ、自分たちでもどうにか対処可能な化け物が増えてきたため、連日のようにコンタゴラに近寄る魔物・魔獣との戦いが繰り広げられていた。

 当然ながら、戦いの日々が続くことで武器弾薬をはじめ、食料・医療品といった物資もどんどん減少していく。


 そんな中でも、如月三曹はいつものように平常運転であった。


――シュルルルルルルッ

 魔法の箒に乗ってゆっくりと降下開始。

 本日の私の任務は、ラゴス州アパパ港から物資を輸送すること。

 日本からのものだけでなく、幾つもの国から物資が届けられているらしく、私はそこで荷物を受け取り、アイテムボックスを使ってコンタゴラまで運ぶという任務を仰せつかっていました。

 基本的に急ぎの物資関係は空路による移送が行われ、船を使った物資輸送は日用品および保存がきく食料関係が多いそうで。


 私は竹林一尉と大越三曹、高村二曹と共に、魔法の絨毯を用いて高速移動。

 アパパ港とコンタゴラは直線距離で約400キロメートル、陸自のナンバープレートもしっかりと装着しています。

 ちなみにナンバーには『86 0825 魔編01』という文字が書かれていまして。

 簡単に説明すると、6桁の数字のうち前二つ『86』は、この魔法の絨毯が航空機材物品であることを示し、そのあとの4桁は通しナンバーになっています。

 魔編01は『魔導編隊第一部隊』の略。

 こうしてみると、町の中を自衛隊車両が走っているときに見てみると、それが何処の所属でどの部隊かも判るようになっているのですねぇ。


「如月三曹、このコンテナは全て搬出可能らしい。隣はアメリカからの物資で、可能ならば我々に運び出しを願いたいそうだが、いけるか?」

「私のアイテムボックスの容量なら問題ありません。時間停止処理も行っていますので、移送中に腐ることもないので。もっともね、一時間弱で到着しますので」

「ということだ。大越三曹、アメリカ軍の事務官にこのことを伝えてきてくれ」

「了解です」


 さて、それじゃあ一つ一つ行きますかねぇ。

 範囲を指定して、全て一瞬で収納できればいいのですけれど、私の場合は触れたものでなくては収納できません。

 ヨハンナのアイテムボックスは『範囲型』でスマングルは私と同じ『接触型』。

 そしてスティーブは反則級の『視認型』で、見たものを全て収納できる、生物・非生物を問わず収納可能という反則技の持ち主です。まあ、勇者なので……うらやましいですよねぇ。


――シュンッ、シュンッ

 私と一緒に高村二曹も収納に同行、一つ一つのコンテナをチェックしてナンバーを確認。合致したものから順に収納していきます。

 この調子で、明日の夕方まではコンテナの収納と、その翌日からはコンテナを各国の倉庫に搬入する作業がありまして。

 体のいい重機扱いですよ、ほんとうに。

 そんなことを考えつつ、作業に没頭していると。


『君が、異邦人フォーリナーの如月弥生かな?』


 どこかの国の軍人が、私の元に近寄ってきます。


「はい。今は任務中ですので、無駄話はできませんので。作業後なら時間を作れますが、どのようなご用件でしょうか?」


 ほら、私の横で高村二曹がイライラしている。


『ドイツ陸軍航空隊のルードヴィッヒ・シェルナーです。君を我がドイツ軍の士官として招待したいという本国の伝言を仰せつかってきました。まあ、用件はこれだけですので、もしも心揺れるようでしたら、ご連絡を』


 そう告げてから、私の胸ポケットにメモを押し込んで撤退しようとしました。

 しかも、そのあとで私の胸をポンポンと軽く叩き、フフンと鼻で笑うとは。

 乙女の胸ポケットに手紙を無断で差し込む暴挙、さらに胸に触れましたね、殴ってやりたいところです。というか、殴っていいですか?

 肩章は少尉ですか、でも関係ないですよね、では言葉で反撃します。

 暴力は駄目、これは大事。


「はぁ。女性に対しての最低限のマナーも知らないクソ少尉と入れ替わりなら考慮すると、そちらの責任者に伝えておいてください。もっとも、そう伝えた時点で少尉は降格間違いなしですけれどね」


 そう告げてから、ポケットの手紙を丸めて床に捨てます。

 ほら、こめかみがヒクヒクと動いていますよ。


『ほ、ほほう。この私を相手に、そのような暴言を告げるとは。異邦人フォーリナーというのは、どいつもこいつも無礼な化け物ばかりだな』

「それはどうも……あいにくと、化け物呼ばわりは魔導師にとっては勲章そのものですので。我が恩師であり、私を導いてくれた流浪の大賢者ルーラー・バンキッシュの言葉をお借りしますと。『無礼には無礼で返す』だそうです。では」


 そう告げて私は作業に戻ります。

 だが、完全に怒り心頭のシェルナー少尉とその部下二名は、ぎゅっと拳を握り銃を構えようとしたが。


『まあまあ。ドイツの皆さん、ここはおとなしく下がった方がいいですよ。あなたたちはいつも、力ずくで物事を丸めようとする。それはよろしくはないですからね』


 近くで話を聞いていらしいイギリス語の軍人さんが、私とシェルナー少尉の間に入ります。って、高村二曹は何をしているのでいるので……ああ、どこかに連絡中でしたか、はい、私の方が強いは知っているのですよね。


「んんん、イギリスのレンジャー連隊さんですか」

『ええ。ハリー・ファースと申します。階級は少尉です。それで、ドイツの軍人くんは引いてくれるのですか?』

『引くもなにも。我々が何か間違ったことをしていたとでも? 人間のフリをしている化け物に、人間に対しての礼節というものを説明していただけだが。もっとも、女性らしさの欠片もない小娘相手に、我々が大人のマナーを説明しても構わないのだけれどね』

『なるほど……しかし、ドイツの田舎軍人はどうにも、女性に対してのマナーというものを知らないようですね。我がイギリスにおける格言の一つ『礼節が人を作るManners maketh man』、これをあなたに送りましょう。では、このようなところでさぼっていないで、仕事に戻った方がよろしいのでは?』


 さて、やる気満々のシェルナー少尉と、レンジャー連隊のファース少尉。

 すでに一触即発……というか、一方的にシェルナー少尉が突っかかっているように見えますが。


『ふん、覚えていろ』

『記憶力は優れている方でして。それではまた、どこかで』

『ちっ……いくぞ』


 どうやら話し合いは解決したようで。

 ここで打ち合いや殴り合いにでもなったら、とりあえず喧嘩両成敗で魔法で眠らせるしかありませんでしたからね。


「如月三曹、ここの件は津田一佐に報告しておいた。他国からの勧誘については無視しろとの命令だ。付け加えて、三曹を勧誘した者のリストを提出するようにと」

『それでは、仕事の後にコーヒーでもと誘いたかった私も、報告されてしまいますかね?』

『いえ、如月三曹の危ないところを助けていただき、ありがとうございます』

『紳士として当然のことをしたまでです。それでは』


 英語で会話をする男性って、格好いいのでしょうけれど。

 私には全て日本語に変化されて聞こえますので。

 私もファース少尉に敬礼をしてから、再び作業を再開。

 うん、ロスタイム30分というところですか。

 どうせ今日は、こちらの簡易宿舎に泊まり込み確定ですので、早く終わらせて飲みにでもいきましょうかねぇ……お酒は飲めないのですけれどね。

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