Take a chance on me(とかく、欲望は尽きぬもの)
仮称モササウルスくんを討伐した翌日。
コンタゴラ・ベースキャンプでは陸自の隊員たちが孤軍奮闘の真っ最中。
後方支援部隊はモササウルスの解体、第一、第二機動部隊は今朝方から活性化した魔物たちがコンダゴラ周辺に集まりつつあったので、それの討伐任務を行っています。
もっとも、ボーダーラインの死守が日本のPKFに与えられた任務である、そこから先は多国籍軍による殲滅作戦が始まっているそうです。
ちなみに私は後方支援、モササウルスの解体の補助を行っている真っ最中。
「なあ、如月三曹。これって心臓だよな?」
「そのようですね。では、心臓に傷をつけないようにクリップで血管を止めてから、心臓を外してください……そう、ナイフに闘気を流し込んで……いいですねぇ、その調子ですよ」
PKOで参加している陸自の中には、私が闘気修練を行った第一空挺団からも8名の隊員が参加しています。ちなみに全員、闘気修練の初期過程を学んでいる真っ最中であり、今回のように実践で闘気を使える場は非常に貴重であり、何事にも代えられない体験でしょう。
「ほら、如月三曹、見てみろよ……このモササウルス、雄だぞ。こんなでっけぇチンコが付いているぞ」
「大越三曹、それはセクハラです!! 後ほど部隊長に報告されるのと、私の魔術で使い物にならなくなるの、どちらがいいですか!!」
「報告で……って、呪いなんて使えるのかよ」
「私は大魔導師ですよ? 暗黒魔術体系もお手のものです。ということで後ほど報告します。それよりも、口を動かす暇があったら手を進めてください。こいつは魔石もちです、つまり体内に魔力が浸潤しているので、通常のナイフでは歯が立たないのですからね」
そして、今回の国連平和維持軍に参加している多国籍軍でも、闘気が使えるのはわが国・日本の部隊のみ。ということですので、とっととこいつを処理してしまわなくてはなりません。
急がないと腐りますよ、この暑さですから。
「如月三曹は、手伝ってくれないのか?」
「私が」手伝うと、アイテムボックスに保管して解体コマンド一発で終わりです。もっとも、モササウルスの身体なんて見たことありませんから、ワニの応用でやるしかないのですけれどね。それよりも、私が手伝ったら訓練にならないでしょうが!! さあ、hurry upです、もっと早く、風を薙ぐように」
「鬼三曹めぇぇぇぇ」
知りませんよ。
私は今朝方、津田一佐から空き時間で構わないから、闘気修練を行って欲しいと頼まれたのですからね。その報酬として、魔石を半分ほど貰う約束になっているのですから。
そのまま二時間ほど、モササウルスくんの解体は続きました。
いゃあ、体長16メートルのモササウルスって、二時間で解体できるものなのですね。
食用肉のように部位ごとの細かい解体ではなく、魔物のサンプルとしての解体ですから、それほど時間はかかりませんよ。
ということで、分けたモササウルス君の身体はいくつもの袋に詰めた後に私のアイテムボックスにて時間停止処理を行い、預かることになりました。
あとは後方支援として何をするのやら……。
「如月三曹、今はいいかな?」
補給用の簡易倉庫前で、津田一佐が私に声をかけてきました。
その横にはナイジェリア軍の兵士が四名同行しており、どうにも物々しい雰囲気を醸し出していますよ。もう、嫌な予感しかしません。
「はい、追加任務でしょうか?」
「ムハンマド・ディバダ大統領が、如月三曹と話がしたいそうだ。私も同行するので、ついてきてくれるか?」
「はっ!! 如月三曹、同行します」
ほら、嫌な予感が的中しましたよ。
………
……
…
ナイジェリア軍に連れてこられたのは、先日、仮称モササウルス君に襲撃されそうになったカインジ湖政府機関庁舎です。
そこの責任者とディバダ大統領が待つ会議室に向かいますと、すでに大統領および補佐官が座って待っていました。
『わざわざ呼びつけてすまなかったね。座ってくれ』
「「では、失礼します」」
流ちょうな英語で話しかけてくれたので、津田一佐も会話に参加することができるようで。
私はほら、チートスキルで自動翻訳ですよ。
「それで、私と話がしたいということでしたが、どのようなご用件でしょうか」
「スマングルから報告を受けている。このナイジェリアの地下に巨大なダンジョンが出来つつあるということだが。それを制御する方法を教えて欲しい」
ほら、予感的中、その2ですよ。
日本政府と同じ要求ですけれど、あの時の報告書は国際
「はい、簡潔に説明しますと、ダンジョンコアの支配権を奪い、マスター登録することでダンジョンは自由に作り替えることが出来ます。この場合は、ナイジェリア地下迷宮の成長を止めるとか、何処か壱ヶ所に凝縮し、広くではなく深く設定するとよいかと具申しますが」
これは新宿迷宮の時と同じ報告。
「では、それを行って欲しい。マスター登録はこの私に、サブの管理権限もつけれるのならば、それは後日改めてお願いすることになるが」
「はい、大統領の体内保有魔力では、マスター権限を行った時点で干からびて死んでしまいます。この地球上でダンジョンマスターとして適合できる存在は、現時点では私たち
「また……
スマングルめ、私を売ったな……。
いや、スマングルの事だから、真剣に問いかけられたのだから真剣に答えただけでしょうねぇ。
スティーブのように、その場しのぎに私に押し付けてくるのではなく、裏表なく私が知っていると、彼の知りえる情報の中で説明しただけかぁ。
これ、日本政府にも教えていないのですけれどねぇ。
「はぁ。では、スマングルがそう告げたのでしたら、私も正直にお答えします。私たち
――ガバッ!
この一言で、津田一佐が私を見ます。
その表情から、『それは本当なのか』という問いかけのようなものを感じましたので、私も静かに頷いてから。
「制御されたダンジョンにおいて、湧き出る魔素に身を晒しつつ自らの体内を魔力にて満たすこと。そののち、適度な修練を行うことで、魔力もしくは闘気を自然に身に付けることは可能です。もっとも、そのためにはダンジョンコアが一つ、そしてそれを制御する
「そ、そうなのか?」
驚きの表情で、ディバダ大統領が問い返してきました。
そりゃあ、この事実を知っているのは、実は私とヨハンナの二人だけなのですよ。
ともに、異世界でダンジョンマスターを経験していましたので、この程度の知識はダンジョンコアから受け取っています。
「はい。現状では、スマングルにダンジョンマスターを委任し、資源採掘用ではなく魔素循環用としてダンジョンを活用することで、
「資源採掘用と魔素循環用、二つの効果を一つのダンジョンで制御することは?」
「スマングルでは無理でしょう。彼の適性は闘気と精霊魔術。そして精霊魔術は、ダンジョンコアの制御には不向きなのですよ」
ちなみにスティーブは闘気と神聖魔術に適性があり、ミランダは神聖魔法と一般魔術に適性をもっています。簡単に図解しますと、こんな感じ。
スティーブ 闘気SSS 神聖魔術A
スマングル 闘気SS 精霊魔術SS
ミランダ 神聖魔術SS 魔術一般(精霊・召喚・暗黒魔術を除く)A
如月 魔術全般SS(神聖・精霊を除く) 闘気S
こんな感じに適性を持っていたため、私たちは4人でチームを組んでいたのです。
ちなみにここに書かれている通り、これはあくまでも『適性』であり、実際にそのスキルを修めていたかというと……完全ではないのですよ。
この事も多少は含めて、私を例にあげて大統領に説明します。
「そうか……では、どちらかだけならば、スマングルでも制御は可能ということか」
「その前に、暴走しているダンジョンコアを制御する必要があります。今のナイジェリア地下迷宮は、いわば間欠泉のように地下から魔素を噴き出しっぱなしにしている状態です。一度蓋をして、蛇口を付けて制御する必要があります」
「それは、如月くんなら可能かね?」
「可能ですが、私は日本人であり、日本国陸上自衛隊第一空挺団魔導編隊所属の隊員です。指揮命令系統は日本国であり、そちらの許可を頂かずにナイジェリア政府の依頼をお受けする事はできません。そうですよね、津田一佐」
チラリと判断を津田一佐に振ります。
この場に彼がいなかったら、私は途中で手に入れられる魔石と引き換えに依頼を受けていたかもしれませんが。残念ながら、この場には津田一佐も同行しています。
「そうですね。如月三曹のいう通りです。この件は正式に、外務省を通じて協力要請していただけると助かります。ちなみに如月三曹、もしも日本国から正式に許可が出た場合は?」
「そりゃあ、こんな面白そうなものを受けない筈がないです。喜んで協力します」
「ということです」
ニイッと笑う津田一佐。
これには大統領もしてやられたっていう表情をしています。
ええ、最初にスマングルからの報告を受けた時に動いておけば、ここまで面倒くさいことにはなっていなかったでしょう。
それに、ことは急がなくてはなりません。
すでにダンジョンから噴き出している魔素の影響が強くなり始め、魔物が凶暴化しつつあるようですから。
このあとは私と津田一佐はべーへスキャンプに戻り、通常任務に就きます。
果たしてナイジェリア政府と日本国は、どのような話し合いが行われるのでしょうかねぇ。
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