Our Lips Are Sealed(内緒内緒……というわけにはいきませんか)
コンタゴラ・ベースキャンプ。
私がPKF(Peacekeeping Forces)として派遣されてきて、既に10日。
日本の陸上自衛隊は、あいかわらず通信施設と補給物資の管理、そしてベースキャンプ付近に迷い込んで来た魔物の討伐がお仕事。
他国のように密林地帯に踏み込んでのモンスターハンターや、あちこちに点在する地下迷宮調査については、現在もなおノータッチです。
日本からは『とっとと迷宮を調査しろ』とか、『資源のサンプルを回収してこい』という『
もっとも、私たちのトップは内閣総理大臣であり防衛大臣。
というか、いい加減、
「それで、相変わらず大統領からのゴーサインは出ていないのですか」
「ああ。俺の予想では、エバンという町の中心に現れた大空洞が怪しいと思っているのだが。そこについてはまだ調査が始まっていない」
今日も正午に、スマングルたちナイジェリアの関係者の方々がベースキャンプを訪れては、調査についての進捗状況を確認しています。
現在までに確認できているダンジョンは12か所、そのうちの4か所は最下層まで調査完了。
魔物が住み着いている以外は特に怪しいところはなく、軍隊の兵器で対処可能ということでナイジェリア陸軍の管理下に移行しています。
つまり、PKOが調査を終えた時点で、ダンジョンの管理はナイジェリア政府に移行となるため、各国から派遣されて来た軍隊は事細かなところまで調査し、一つでも多くの資源を回収するのに必死の模様です。
「つまり、ナイジェリア政府にとっては、ダンジョンは新たな資源であり観光にも使える可能性かある。ということで、ダンジョンコアの破壊は認めない……っていうところかしら?」
「ああ。だから、俺はこっそりと単独で潜ろうと思う」
「ですよねぇ。ダンジョンなんて放置していたら、何が湧き出るか分かったものじゃないわよ。東京の新宿大空洞の報告書は、ナイジェリア政府にも届いているのですよね?」
「ああ。だからこそ、困っている。最近は、密林地帯の魔物が凶暴性を増している。そんなものを放置しておいたら、いずれは都市部にまでやってくる可能性が」
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォッ
スマングルの不安が、見事に的中。
カインジ湖方面から爆音が響いてきます。
そして私たちの元にクンロク、つまり96式装輪装甲車が走ってくると、車上から竹林一尉が顔を出しました。
「如月三曹、カインジ湖とニジェール川の接続域に大型魔物が出現。第二機動部隊はこれの殲滅にあたる。急ぎ追従してくるように」
「りょ!! ということでスマングル、またあとでね」
急ぎ魔法の箒を取り出して跨ると、そのままクンロクの後方について移動開始。
するとスマングルもオフロードバイクに飛び乗り、私の横を並走します。
「ちょっと、スマングルまで着いてくるの?」
「大型魔獣の出現報告はあまり多くはない。しかも、今回は水棲型と思われる。それなら、俺も手伝える」
「う~ん、まあ、そういうことならよろしく」
ベースキャンプからニジェール川接続域まで、距離にして約5キロ。
悪路が多いこのエリアだと、到着まで15分少々というところでしょう。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
………
……
…
――ニジェール川接続域
「鬼とか蛇のほうが、良かったのですけれどねぇ……」
ニジェール川を悠々と泳いている、巨大な魔物。
ほら、ワニのような巨大な恐竜、なんていいましたっけ。
「モササウルス……か」
「そう、それですよ!! さすがは鷹木二曹、恐竜にはお詳しいことで!!」
「そんなことを言っている場合か! このままだと、中州にあるカインジ湖政府機関庁舎まで被害が出るぞ!」
ええ。
私たちのいるニジェール川東岸には、現在は各国のPKOが集まり、仮称モササウルスを包囲しようと展開中。かたや中州にあるカインジ湖政府機関庁舎及び西岸にある医療センター付近には、PKOは立ち入り禁止と言われています。
そして現在、モササウルスは上陸地点を探して、悠々と川の中を泳いでいる真っ最中。
「ナイジェリア政府からの攻撃許可はでていますか?」
「今打診している最中だ。それよりも第三機動部隊に連絡を、河口にある水力発電所があの大型魔獣に破壊され、堰が切れ始めている」
「りょ……こちら第二機動隊、ベースワン、応答願います……」
96式装輪装甲車の中が、にわかに慌ただしくなってきていてます。
どうやら、仮称モササウルスは上流を目指して川の中を移動、カインジ湖に遡上中に水力発電施設にぶつかり、堰に向かって攻撃を仕掛けたというところですか。
それで歯が立たないため、腹いせに中州に戻りつつ、獲物を求めていると。
「スマングル、あそこの避難誘導って指示が出ているよね」
「ああ。だが、あのカインジ湖政府機関庁舎には、大統領が視察に来ている最中だ」
「スマングルぅぅぅぅぅ。どうしてこの状態で、大統領がここまでくるのかなぁ、危機管理がなってないんじゃないの?」
「各国から回収したサンプルが、あの庁舎に集められている。その視察だ」
最悪。
このままだと、大統領はモササウルスのランチタイムを彩ることになりますよ。
「スマングル!
「任せろ。この距離でも問題ない」
アイテムボックスから『聖霊の守盾』を引っ張り出して、それを正面に構えるスマングル。
それなら私も、覚悟を決めますか。
「竹林一尉、仮称モササウルスを釣りますので、攻撃許可をお願いします。こっちは東岸、許可は必要ないはずですよね?」
「大丈夫だ、思う存分にやれ!!」
「りょ……ということで、七織の魔導師が誓願します。我が周囲に三織の矢を生み出したまえ。……我はその代償に、魔力1000を献上します。
――ヴンッ
私の左右に5本ずつ、合計10本の
それを確認してから、スマングルも盾に祈りを捧げ始めます。
『大地の精霊よ、かのものを惑わし、敵となせ……
――キィィィン
大地の精霊が鼓動し、モササウルスめがけて『不調和の波動』を叩き込みました。
その刹那、器用に前後のヒレを使って上陸しようとしていたモササウルスが、突然進路を変えて川に飛び込みます。
一直線に東岸で盾を構えるスマングルめがけて高速で泳いできますが、そこはすでに、96式装輪装甲車に搭載されている12.7mm重機関銃の射程内だぁ。
「……撃てっ」
――Brooooooooooooooooooooooooooooooooom
仮称モササウルスの背中めがけて、大量の銃弾が叩き込まれる。
だが、そのほとんどが硬く覆われている鱗によって弾き飛ばされており、しかもモササウルスはターゲットをスマングルから96式装輪装甲車に進路を変えましたよ、激オコ状態ですよ。
「バックだ、後方に下がれ!」
「足止めします!」
竹林一尉の指示と私の
陸上に上がり、ふわりと体を浮かせた仮称モササウルスの背中から地面に向けて、5本の
『グヴゥァァァァァァァァァァァァァッ』
傷口から大量の血を噴き出し、その場でじたばたと暴れるモササウルス。
やがて動きが鈍くなっていくと、最後は地面にひれ伏すように動かなくなりました。
「ふぅ。七織の魔導師が誓願します。我が目に五織の魔力を与えたまえ……我はその代償に、魔力15を献上します……
安全を確認するために、仮称モササウルスに鑑定眼を発動。
はい、死んでます。
「如月三曹より第二機動部隊へ、ターゲット沈黙。繰り返す、ターゲット沈黙」
「聞こえているわ!! わざわざ通信を使わなくてよろしい」
「りょ」
おっと、すぐ後ろにクンロクが待機していましたか。
スマングルもこっちに走ってくるので、私はアイテムボックスからナイフを取り出し、今の
「うっほ~、これはまた高純度な。ここまで成長するには、眠れない夜もあったでしょうねぇ」
「推定60年というところか。つまり、このモササウルスのベースとなったのは、かなり高齢のワニというところだ」
「それが、こんな巨大な魔石をねぇ。やっばり、ダンジョンコアを破壊しないと、不味くない?」
「もう一度、申請してみる」
そうだよね。
さすがに今回は、大統領の視察のところを襲われたのですから。
しっかし、この川を遡上して来たということは、さっき話していたダンジョンコアがある迷宮が下流域にあるということですよね。
「それがいいよ。ダンジョンコアのある迷宮から遡ってきたのなら、川を使ってさらに下流域にも被害が出る可能性があるからね」
「ヤヨイ、エバン大空洞は、ここから北西の森林地帯だ。川を下っても到着しないし、そもそもエバンとニジェール川は30キロ以上は離れている」
「そっかぁ……って、ちょっと待って、それじゃあこいつは、何処から出てきたっていうのよ?」
嫌な予感がして来た。
ひょっとしたら、この自然公園の地下迷宮は、一つに繋がりつつあるような気がしてきた。
そうなると、急ぎダンジョンコアを破壊しないと、やがてはこのナイジェリアの全てがダンジョンに飲み込まれてしまう。
「……スマングルは大統領に報告を。私はベースキャンプに戻って津田一佐に報告してくるから」
「わかった、それじゃあ」
やばいやばいやばいやばい。
新宿迷宮なんて比較にならないほどの危機が、ナイジェリアに訪れ始めている。
ダンジョンの利権に目がくらんだ結果、この国が亡ぶ恐れがあるってシャレになっていないわよ。
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