Third Mission~地球産ダンジョンと星の意思~
Let It Go(いつもどおりでいいですよね?)
ナイジェリア・ナイジャ州カインジレイク・ナショナルパーク。
今回のミッションでは、このカインジ湖南方のコンタゴラという町をベースキャンプとし、ここから東方に広がる大密林地帯の調査及び害獣の討伐が主な作戦となっています。
私は国連からの要請により平和維持軍として出向。
軍隊を持たない日本はPKF(Peacekeeping Forces)、つまり平和維持隊という立場での参加となりました。これによりコンタビラ地方行政区においてのベースキャンプ設営および通信システム、医療チーム、物資輸送班としての活動がメインとなり、私もPKOの証であるブルーのベレー帽を着用しています。
ええ、今回は前線ではなく、後方支援。
私のアイテムボックスを使った大量輸送と通信が届かない地域への、魔法の箒により高速移動からの伝達業務が主として割り振られています。
しかし、スマングルからの電話を受けた時は、どうしたものかと頭を抱えましたよ。
これがスティーブのやらかしたことなら、いつもの事なので説教からの飯奢れで済むのですけれど、まさかのスマングルの失態とは、どう責めてよいものか分からなくなっていますよ。
「まさか、こんなことになるとは思っていなかった」
コンタゴラベースでスマングルと再会した私は、彼から細かな事情を聴いている真っ最中。
それにしても、異世界の言語自動補完訳スキルって、本当に便利ですよね。
諸外国語は全て日本語として伝わってきますし、私の言葉は日本語で話しかけても『意思』として伝わっているようですから。
『まあ、事情を一通り説明してください。現状、密林地域と市街地の境界線で多国籍軍が防衛ラインを展開、同時に密林地域に飲み込まれた都市部や町、村落からの避難民の救助および誘導を行っているようですけれど……』
『このズグルマ野生動物保護区をセーフティーゾーンで囲もうとした。だが、それでは密猟者は侵入してしまうため、ダンジョンコアを使った疑似迷宮の結界を作り出し、それで悪意あるものを退けようとしたら、儀式に失敗して暴走した、以上だ』
はぁ。
頭を抱えたくなってきましたよ。
『ちなみにですけれど、スマングルはセーフティゾーンを構築する術式はご存じで?』
『ヤヨイやヨハンナが作っているのを見て覚えた。ヨハンナからはお墨付きも貰っている……こういう術式だが、あっているか?』
地面に複雑怪奇な術式を書き上げていくスマングル。
うん、術式はあっているけれど、このままだと魔石が24個必要。それも、直径1メートル以上の、伝承級の魔物の魔石が。
それをダンジョンコアで賄おうとしたらしいけれど、うん、暴走する確率は殆どないんだけれどなぁ。悪くても大爆発、直径100メートル程度のクレーターが生まれる程度で、大抵は失敗してダンジョンコアが砕けるだけ。
それなのに、ここまで巨大な大密林が生まれるとは。
『あっているわねぇ……ということは、土地の力かなぁ。ちょっと失礼。織の魔導師が誓願します。我が手に五織の魔力を与えたまえ……我はその代償に、魔力2500を献上します……
――ヴン
大地に魔力を浸透させて、その波長を頼りにこの周囲一帯の地形状況を確認。
はい、その結果ですけれどこの真下に星の伊吹・魔力の奔流、つまりレイラインが流れていました。
それも巨大な
こことダンジョンコアが接続し、このあたり一帯を大密林に変容させたようですね。
『うん、この真下に魔泉瘤があるようですね。そことダンジョンコアが直結して暴走したみたい。ということで、スマングルもギルティです。こういう術的作業を行う場合は、私に声をかけてください。今回のケースは、場所についての調査をしないで儀式を行ったことによる人的ミス。あとは多国籍軍に任せて……っていうわけにはいきませんよねぇ』
『どうすればいい?』
さて、ここからが問題。
まずは、私自ら調査をした方がいい。
この密林地帯では、元々生息していた生物がダンジョンから噴出する魔素の影響により変異している可能性が極めて高い。というか、スマングルが捕獲したサンプルを見る限りでは、かなりやばい。
そのうえで、まだ変異したての生物ゆえ、体内の魔石から発せられる魔力コートがない。
つまり、地球性の武器が通用する。
ということは、私の出番はダンジョンの攻略のみ。
『スマングルの埋めたダンジョンコアを回収して、レイラインから分離するだけでいいと思うんだけれど。最悪、自然洞としてのダンジョンは残ると思うし、細いけれどレイラインは繋がったままになると思う。最善策はダンジョンコアの分離とレイラインの修復による密林と迷宮の消去で、最低でもダンジョン踏破っていうところかなぁ』
『では、そのことも踏まえて報告してくる。俺には作戦の決定権はない、今のヤヨイの意見も説明したうえで、ムハンマド・ディバダ大統領の判断になる』
『それでいいと思うよ。それじゃあ、私はベースキャンプに戻るので、何か分かったら連絡をくださいね』
そう告げてから、私は魔法の箒に乗ってコンタゴラ・ベースキャンプへ帰還。
そこで待機している平和維持隊責任者である津田一等陸佐の元に向かい、周辺偵察の報告を行いました。
すでに多国籍籍軍は変異した動物たちを倒し、サンプルとしてベースキャンプら持ち帰っています。
ええ、体高4メートル4本腕のゴリラとか、金属質な鎧を身にまとった銀色のサイとか、体高2メートル体長6メートルのラーテルとか……。
本当に、あっちの世界でも有数の危険地帯、レディウス廃墟森林のような雰囲気でしたよ、上級冒険者でなくては調査許可が下りない禁断の土地でしたよ。
そのような魔物を次々と倒し回収している多国籍軍を見ていますと、うちの平和維持隊のなんと平和なこと。
「……なるほど。では、スマングル氏の連絡によっては、如月三曹はダンジョン討伐に赴くということでよいのだね?」
「はい。もっとも、私たちの任務は後方支援であり、現地での私の戦闘参加については津田一佐の判断と言われていますけれど」
「まあ、その場合は作戦参加については許可をするよ。委員会のご老人たちは、君をこの平和維持隊に参加させることについては反対だったらしいけれどね。国防の要である魔術師を海外に派遣するなと、委員会でも酷い剣幕で抗議していたらしいから」
あはは。
まったく、
今の時点ではマイナス1ポイント、今回の件ではイーブン。
さすがに国際情勢を鑑みて、私を派遣しない訳にはいかなかったようです。
それにしても、多国籍軍にはアメリカからも派兵されているようですが、スティーブの姿は見えませんねぇ。
「では、指示あるまで後方作業に移ります」
「はい、ご苦労さま」
ビシッと敬礼をして後方待機、つまり通信施設と補給物資の収めてある倉庫に移動。ここの警備がお仕事です。
現場には大勢の陸自隊員も待機していますので、そこに加わって私は魔法による探査を開始。
あとはそれを維持しつつ、のんびりと雑談など交えているとしますか。
倒した魔物については、各国の回収した部隊が即時解体し、必要に応じてサンプルを国連に提出、財その他は本国に持ち帰っていいことになっているようですけれど。
実際は検疫やらなんやらで、それほど持ち出せないでしょうねぇ。
どうせ、私に鑑定依頼がくることも分かっていますから。
はぁ。
純正の地球産動物の魔石が手に入ると思っていたのに、体内に蓄積されていないからなぁ。
やる気も半減ですよ。
はぁ。どうして私はここに……Tell Me Why?
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