Someone Like You(或いは、閑話ともいう)
日本政府、
世界で4人目の、異世界からの帰還者。
それが我が国・日本人であったという事実を聞いて、小躍りしていた。
国連機関の一つである、国際
アメリカに帰還した異邦人、スティーブ・ギャレツト。
彼はこの地球上に存在するどの生命体よりも強固な肉体を持ち、超人的な力を奮うことができる。
また、
まさに、銀幕の世界から飛び出してきたスーパーヒーロー、それがスティーブ・ギャレットである。
バチカン市国に帰還した異邦人、マザー・ヨハンナ。
彼女は神の加護を得ており、この世界のいかなる病も癒す力を有している。
清廉にして潔癖、そして慈愛に満ちた聖女。
間違いを許さず、それでいて罪を憎み人を憎まず。
バチカンをはじめとしたカトリック教会は、日々、彼女の姿を一目見ようと、彼女に奇跡を与えて欲しいという願いを持った信者で溢れている。
その彼女もまた、幾つもの国を訪れては、多くの人々に神の奇跡を施しているという。
まさに現代の聖女、それがヨハンナである。
ナイジェリアはラゴスに帰還した異邦人、スマングル・バコダ。
スティーブ・ギャレットと対を成す超人であり、スティーブが技術面においての最強ならば、スマングルは力においての最強である。
超感覚に優れ、人間のもつ五感覚だけでなく第六感と呼ばれる超感覚を身に付けている。
その能力を有用活用すべく、彼は麻薬捜査官としてナイジェリア全域で活動を行っている。
また、彼は様々な動物と意思を通わせることができ、その能力を駆使して『カインジ湖国立公園』にて密猟者たちから動物たちを守っているという。
自然の守護者、それがスマングル・バコタである。
そして4人目の存在。
国際異邦人機関からもたらされた報告では、それは日本人・如月弥生という少女である。
異世界最強の大魔導師であり、大空を制する魔女。
錬金術にも秀でており、マテリアルという物質からいかなる素材を生み出すことが出来るという。
そんな彼女の存在を聞き、いつか日本に帰還した暁には政府要人として迎え入れ、その手腕を存分に発揮してもらおう。
そう
すべては自分たちの利権のため。
他人にこれを渡してなるものか。
そう思っていた矢先に、届けられた吉報。
北海道に
この報告を聞いてすぐ、
そのためなら、どのようなことをしても構わない。
ようやく手に入れられる『生きた利権』。
だが、国際
『私は空を飛びたい。それが叶わないのなら、海外へ亡命します』
この報告を聞いて、
それならは、彼女の両親兄弟親類に圧を掛けて、いうことを聞かせるべきではないか?
家族を人質に取られれば、彼女はいいなりになるのではないか?
そう思ったものの、実際にそれを実行したとなると、彼女は家族ごとアメリカに亡命する。
それならはいっそ、彼女の希望をかなえつつ、国家として監視できる状態を作り上げればいい。
その思いで、超法規的にいくつもの法律および条令を変更。
彼女が空を自由に飛べるように配慮もした。
その直後に起こった、新宿地下大迷宮の出現。
異世界の素材を、いや、いかなる素材も生み出すダンジョンがこの地球に出現したのである。
これを日本が手に入れることができるとしたならば……。
その思いで如月弥生を任務に就けたものの、結果はドラゴンなどの素材は全て彼女が保有。
ダンジョンコアは破壊され、新宿地下迷宮は消滅。
結果として、東京が二度と危機に陥ることは無く、平和を取り戻したことになった。
「あの時、ダンジョンを我らの手に納めれなかったのが失敗だったのかもしれぬ」
「いや、終ったことはいい。此度のアメリカ軍との合同作戦、あの如月三曹は現地で危険手当を請求し、まんまと魔石を手に入れたらしいではないか。しかも、二つあった魔石の一つはアメリカ軍に渡されたというのに……我らは未だ、まともな魔石をひとつも有していない……」
机の上に置かれている素材。
それは新宿地下迷宮の発生時に、如月三曹からもたらされたもの。
その中には確かに小粒ではあるが魔石は存在する。
だが、誰もそれを変異させることはできない。
それが出来るのは如月三曹のみ、しかも未だ彼女以外の魔導師手製保持者はゼロ。
国際
たが、アメリカ海兵隊の闘気修練のように、外的要因により才能を開花させることができることもあるという。
それならば、彼女にも強制して見てはと考えたものの、それについても危険であるという理由で拒否されてしまう。
「何故だ……どうして彼女をコントロールできないのだ」
「これ以上の自由と権利を彼女に差し出せば……いや、すでに我々の信頼はゼロに近い……」
「それでは、この日本を救えないではないか。数多くの資源を諸外国からの輸入に頼り、食料自給率すら低下の一途をたどっているこの日本を、我々が救わねばならないのだ。それをなぜ、あの女は理解できない!!」
「まあまあ、いくらこの場で怒鳴り散らしたところで、現状はなにもかわりません。なにかこう、起死回生の一手を考えだすことにしましょう」
その一言で、この日の会合も終わる。
彼女が戻ってこなかった時代、いくつもの想像だけで終わっていたころが懐かしい。
夢は、夢であるからこそ美しかった。
それが現実となり、そして自分たちの手に届かなかったものであると知ったときから、彼らの迷走は始まっていた。
そして、委員会室に最後まで残っていた瀧山新次郎議員は、周囲に彼以外の気配しかないのを確認すると、机の上で頭を抱えている。
「はぁ……魔王アンドレスさまは、新宿地下迷宮から逃走したのち、連絡が届かず……他の四天王が何処にいるのかも不明。まったく、こっちは必死に大魔術師・如月を日本国内に縛り付けるのに必死だというのに、どこにいるのですが……」
魔王アンドレスの四天王が三席、『権謀のコデックス』こと瀧山新次郎は、無事に潜入して如月弥生の活動についての妨害を続けているのだが。
残念なことに、委員会に所属している他の老害議員たちにより、なかば内側から邪魔をされているという状況であった。
そして懐から胃薬を取り出してそれを一気に飲み干すと、委員会室を後にした。
〇 〇 〇 〇 〇
――ナイジェリア・カインジ湖国立公園
ナイジェリアのナイジャ州とクワラ州にまたがって広がるカインジ湖国立公園の一角、南東側のズグルマ野生動物保護区でスマングルは腕を組んで考えている。
動物保護区であるこの地帯では、日夜、密猟者たちによる乱獲に頭を悩ませている。
スマングルはこの地の管理の手伝いも兼任しており、休暇の時などはオフロードクルーザーでパトロールを続けていた。
ある日、スマングルは考えた。
このズグルマ野生動物保護区を、魔法による結界で包むことが出来れば、密猟者たちはこの地に足を踏み入れることはできなくなると。
だが、密猟者たちのみを侵入できなくさせるような結界を、どのように作り出せばよいのか。
そう考えた結果、スマングルはある方法を思いついた。
満月の夜、ズグルマ野生動物保護区を訪れたスマングルは、その大地にダンジョンコアを埋め込み、儀式魔法を唱えた。
それは魔石の活性化。
冒険者たちがよく行う一般魔法であり、いくつかの魔石を活性化することで簡易的な結界を作り出すことができる。
これにより夜間、体を休められるセーフティーゾーンを作り出すことができるのだが、スマングルはそれをダンジョンコアによって作り出そうとしたのである。
その結果。
ズグルマ野生動物保護区は一夜にして巨大な樹木に覆われた密林にその姿を変貌し、さらにいくつもの洞窟が出現したのである。
「……しまった、術式を間違えたようだ」
いつものようにスマングルは冷静さを欠かすことなく、密林と化したズグルマ野生動物保護区へとパトロールに向かい、そして撤退を予期せなくされてしまった。
保護区全体がダンジョン化し、さらにいくつもの地下迷宮が出現。
生態系は地下迷宮からあふれる濃厚な魔素により変化を開始し、そこはまさに異世界の自然型ダンジョンへと変貌してしまったという。
そしてスマングルは考えた結果、この件は自身だけではどうにも解決できないと判断。
国際
その報告が日本国の陸上自衛隊第一空挺団魔導編隊所属、如月弥生の元に届くのは、実に3日後の事であった。
そして、国連から【国連平和維持軍(Peace Keeping Forces)】の派遣要請が日本にも届けられる。
その中には、陸上自衛隊第一空挺団魔導編隊への協力要請も含まれていたという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます