I Want It That Way(シャレになっていませんね)
気分爽快です。
無事、太平洋上にて核弾頭ミサイルの処理を終えた私は、久しぶりに空の旅を満喫しつつ、無事にアグリハン島近海にて待機している『護衛艦もがみ』へと到着しました。
ええ、上空を飛んでいて理解しましたよ、あと少し核弾頭の回収か遅かったら、危うく小笠原諸島に到達していましたから。
今になって考えれば、恐ろし過ぎますよ。
そもそもアグリハン島から小笠原まで、たったの900キロメートルちょいですからね。
マッハ1.2で飛んでいたとしても、僅か50分足らずで核弾頭が小笠原上空を通過していましたから。
おお、こわ。
そしてここからはアメリカ海兵隊と海上自衛隊による合同ミッション、その2。
鹵獲した海魔の解体作業の始まりです。
このアグリハン島は無人島、ゆえに誰の迷惑にもならないため、解体作業には適しているそうです。
しかも海魔はすでに死んでいるようなもの、魔力コートも剥がれています。
つまり、通常のナイフなどで解体可能……と思っていたのですが。
「なあ、ヤヨイ。こいつって、周囲の物質や生命体を取り込んで増殖進化するタイプのゴーレムみたいだったらしいな。どうする?」
「どうするもこうするも、こんなのどうやってナイフで解体するのですか」
――ゴィィィィィィン
浅瀬まで曳航されてきた海魔の上にのり、艦橋と思わしき壁に向かって拳で軽く殴ってみます。
ええ、しっかりと金属です。
つまり、ゴーレムとして機能している間は、船体である金属部分も柔軟性を得ているため、自由自在に曲がることが出来たのですけれど。
すでに魔石が麻痺しゴーレムとしての能力を失っているため、陸に上がったクジラのような姿で硬直、金属の塊となってしまったようです。
「ガストーチで穴を上げるとか?」
「それしかありませんけれど、中にガスが溜まっていたら破裂しますよ? ちょっと待っててください。七織の魔導師が誓願します。我が手に五織の魔力を与えたまえ……我はその代償に、魔力35を献上します……
これは普段使っている
まあ、基本的な使い方は、鉱山などで鉱脈を見つけたり、地下の水脈を探すための魔法なのですけれどね。おかげで、この内部についての情報が少しずつ理解できました。
生命反応なし、有機物反応あり、魔石一つ、純魔石一つ。
引火しそうなガスや燃料系は感じられませんでした。
「どうだ? なにか分かったか?」
「はい。可燃物なし、多分ですが陽光丸の乗員の遺体がいくつか。あとは魔石と、純魔石が一つです」
「純魔石だと? どうしてまた?」
「さあ……なにか、危険な予感はしますけれど」
純魔石は、一般的に魔物の体内に魔素が蓄積されて出来上がるタイプではなく、純粋に魔族が体内に保有している『心臓』のようなもの。もっとも、彼らは『魔導器官』とか『魔導心臓』と呼んでいるようですけれど、そんなのしったこっちゃありません。
問題なのは、この海魔が魔族であったということ。
そして魔石が二つあったという事実。
「つまり、この中に何者かが二人いた……ということか」
「違いますよ。魔族の体内に追加で魔石が生まれた場合か、もしくは……元々一体だった海魔が、進化して分裂直前だった可能性があるということです。つまり、この海魔は上位魔族もしくは上位の魔物……この場合は、ゴーレムだったとか……とにかく意味不明な存在なんです……ああ、もう面倒くさい」
アイテムボックスからナイフを取り出して壁面に突き刺します。
そのまま一気に切り裂いてから、さらにガントレットを取り出して装着、そのまま一気に表面装甲を引っぺがしました。
「お、
「そうですね、私は近接系の作業は苦手でしたから……とりあえず内部に先導しますので、ついてきてください……」
後方で待機している特殊部隊と海自の方々に声をかけて。
あとは内部に潜入し、一直線に魔石の位置まで進みます。
体内……というか艦内はやはり金属の塊、海魔が融合した艦船の内部そのままの形状をしていますが、あちこち捻ね曲がったり折れたりしているので移動が大変です。
それでも魔石の位置に向かい、体内中央、おおよそ魚の心臓辺りで、直径50センチほどの12面体の純魔石を確認、術的処理を行ってから一つ回収。さらに船体の腰の位置辺りまで移動して、30センチほどの魔石を一つ回収。
あとはなんというか、金属の塊なので要りません。
ええ、ゴーレムのようなものですから、魔石以外には必要価値がないのです。
なお、特殊部隊の人たちはあちこちの部屋のような場所を調べて驚いていたり、海自の方は遭難者の遺体を回収し、一旦外に戻ったりと大変そうです。
まあ、私の仕事はこれで終了しましたので、あとは本業の方に全てお任せすることにしました。
「あ、そういえば、スティーブって、追加報酬はアメリカから貰うの?」
「いや、軍人としての給料と危険手当程度だが?」
それなら、この小さい魔石はスティーブに進呈しましょう。
そもそも今回の戦いでは、スティーブがいなければ勝てなかった可能性がありますからね。
「それじゃあ、これはスティーブの報酬として渡しておきますので。好きに使ってくださいね」
「お、いいのか? いつものように何か作る材料にするんじゃないのか?」
「んー、まあ、その通りなんですけれどね。どうせ魔導具の素材にするか、粉にして魔法薬を作る程度だから、一つあれば十分ですよ」
そう告げると、スティーブが私に魔石を戻してきます。
え、必要ないの?
「それじゃあ、いつものやつを頼むわ」
「ハァ? この海魔の中で生まれた魔石ですよ? 何かできるかわかりませんよ?」
「構わん構わん。ヤヨイが作るものに間違いはないからなぁ」
そんなこと言われてもねぇ。なにが出来上がっても、責任は持てませんからね。
ということで、
この魔法、実は私のオリジナルではなくて錬金術の一種。
上位魔導師で錬金術の知識を持つものならば、誰でも使える魔法です。
ただ、魔力を込める必要があり、それを怠ると『砕けた皿』とか『欠けたナイフ』というようなものにしかなりません。
「それじゃあいきますよ……って、いつのまにかギャラリーまで出来ているんですけれど」
「ああ、気にするな、続けたまえ」
私が座っているところにシュタイナー大佐を始めとした海兵隊員や、海自のみなさん集まってきました。はい、こちらをじっと見ています。
まぁ、仕方がありませんか。
「それでは、いきます……七織の魔導師が、七織すべての理をもって誓願します。我が前に存在するマテリアルの、真の姿を取り戻したまえ……我はその代償に、魔力12800を献上します……
このサイズ、この純度なら、これぐらいの魔力は必要と判断。
そして床に置いてあった魔石が溶けて黒い液体に変化したかと思うと、一瞬で拳銃のような姿に変化しました。
「……これ、拳銃だよね?」
「ああ、手に取っていいか?」
「ちょっと待ってください。七織の魔導師が誓願します。我が目に五織の魔力を与えたまえ……我はその代償に、魔力15を献上します……
続いて鑑定開始です。
『ピッ……魔導小銃、総弾数なし、闘気および魔力変換率1.58、握り手の魔力、もしくは闘気を感知、吸収することで銃弾を形成・38口径、最大射程は意思力に準ずる』
だそうです。
地球産の魔石で、なおかつ戦艦や潜水艦内部という特殊な環境内で生まれた魔石なので、こちらの世界の法則に引っ張られたのでしょう。
まあ、私は使わないので、スティーブに渡して……って、どうしてションボリしているのですか。
「ああ、これね、銃ね……うん、剣か槍が良かったのに……」
「知りませんよ、この刀剣マニアが。闘気と魔力のどちらかが無いと使えない銃器なのですから、スティーブが持っていってくださいね」
「うん、ありがとうね……それじゃあ任務に戻るよ……」
どうしてこう、自分の趣味に関係していないことについては子供のようにしょげるのでしょうか。
異世界を救った勇者なのにねぇ。
………
……
…
――半月後・日本・習志野駐屯地
二週間の時間をかけて、海魔の調査は完了。
無事に報告書も作成し、あとは習志野駐屯地に提出するだけです。
ちなみに私が確保した『核弾頭』については、処理場の準備が出来次第、そこで解体したいそうなのですけれど。そもそも出した瞬間にどっか飛んでいきそうなのと、いつ爆発するのか分からないため、私がアイテムボックスから出すことを拒否。
このまま内部で分解作業をすることになりました。
わたしたち
解体コマンドも、基礎知識があってこそ、ということです。
おかげて、これを使いこなすためにどれたけ解体屋さんで獲物をバラしまくったことか。
「……以上、如月三曹、任務が終了したことを報告致します」
「ご苦労」
習志野駐屯地で近藤陸将補に報告書を提出。
直属の上官に出すように言われたので、私の所属である第一空挺団の上官に渡そうと思いましたら、ここまで来てしまいました。
魔導編隊の管理責任者は、近藤陸将補です。
「ちなみにだが、
「はい、全力で拒否します。そもそも今回の任務はアメリカ海軍および海兵隊が主導であり、日本国はそのための支援であるという事。結果として危険手当を現地にて請求し、それを作戦主導国であるアメリカが容認した、それだけです。なお、今回の件も踏まえて、素材についての分配は固辞し、魔石のみ私が回収しました」
堂々と告げると、近藤陸将補もウンウンと頷いています。
今頃は、海上自衛隊横須賀基地に、海魔の体半分ほどの金属製の残骸が届いていることでしょう。
ええ、魔力も何も感じない、ただの艦船のスクラップが。
それがどの程度の価値を持っているのかなんて、私は知りません。
ただ、今回の件で石動二佐から『海底に眠る、旧日本艦隊の艦船を回収し、祖国にて弔ってやりたい』という頼みごとがされまして。
ええ、その件については、また後日、色々とお話を聞かせて貰うことになりました。
私が触れてよい案件なのか、それについても話し合いが必要ですから。
ただ、この日本近海を含めて、数多くの艦船が海底に沈んでいるという事実、帰れないだろう魂たちが数多くいるという事実だけは、私も胸の中に留めておきます。
――第二部・完
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