Hero(そんなもんじゃないですよ)

 アグリハン島沖合。


 そこで待機しているアメリカ級強襲揚陸艦ヴーゲンヴィルの甲板上で、私はアクティブソナーを発動しました。

 今回はとにかく広範囲、そして高深度をメインとすること、魔力反応があることの二点に特化したアクティブソナーを発動。一刻も早く海魔を確認し、作戦を遂行する必要があります。


「……それで、俺はここで何をどうしたらいいんだ? そもそも海の上なんて、おっかなくて嫌いなんだよ」

「スティーブには、水中呼吸ブレッシング海上歩行ウオーキングを付与してあるでしょう? それをうまく使って頂戴。ほら、以前にもやったでしょう、ブラスト大森林にあった大霊湖ロラントレット、あそこの『狂える水精霊捕縛』作戦と同じだからね」


 ええ、過去の実例を使ってスティーブにも説明します。

 やることは同じ、私がおびき寄せる、Steveから麻痺させる、そして私が拘束する。

 違いは、水精霊の時はヨハンナが魔族の呪いを解呪したことぐらいです。


「あ、あれかぁ。でも、そんなにうまくいくのかぁ?」

「あの時は上手くいったでしょうが……そもそも、どうしアメリカが今回の海魔関連の問題に首を突っ込んで来たのか、それについて詳細を教えて欲しいぐらいなのですからね……と、1-5-8、距離259、深度12で海魔と思われる反応あり。誘導を開始します!!」


 私が大きく叫びます。

 すると近くで待機していた甲板要員の方がブリッジに通信を行いました。

 その瞬間、作戦行動中のすべての艦隊が戦闘配備に切り替わります。

 当然、スティーブも立ち上がって、甲板のへりまで移動。

 私が示した方角を、じっと睨みつけています。

 うん、勇者なのだから、しっかりとやってください。


「ヤヨイ、海魔の速度は」

「時速36キロと推測。ソナー観測で、あと8分で到達。このまま防御魔法に移行します! 七織の魔導師が誓願します。我が前に五織の壁を生み出したまえ……我はその代償に、魔力1420を献上します。理力の壁球フォース・スクウェアっ」


――ヴン

 ヴーゲンヴィルを包み込むように、虹色の壁を形成。 

 これにより海魔は直接ヴーゲンヴィルに触れることはできません。

 ただ、この魔法は対象の表面に展開する薄い壁のようなものですから、ひっくり返される可能性はあるのですけれどね。

 そして、私がフォース・スクウェアを形成した直後。


――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン

 巨大な爆音と同時に、海魔が船体に激突。

 まさか、何も考えずに突っ込んでくるレベルの知性だったとは予想外です。

 船体が大きく傾げ始めたので、いそいで魔法の箒を手に甲板上をダッシユ、勢いよく海面に向かって飛び降りると、ワンハンドで箒にぶら下がった状態で海面すれすれを飛行。

 すぐさま飛び乗りアクティブソナーを確認すると、予想通り私に向かって舵を取り直したらしく、こちらに向かって移動を始めました。


「ヴーゲンヴィルは……と、大丈夫ですね」


 戦闘機はワイヤーで固定されているらしく、多少はずれているようですが甲板から落ちることはありませんか。でも、何度もぶつけられたら海中にドボンと落ちてしまいそうですよね。

 

「スティーブ、拾いますので飛び降りてください!」

「本気で言っているのかよ!! ええい、この糞野郎っ」


 私の声が届いたと同時にねスティーブが甲板から海に向かって飛び降ります。

 はい、水上歩行を掛けてありますので、海面に落ちても弾性が発生しはじかれます。

 その真横まで飛んでいくと、スティーブは私の後ろに飛び乗り、タンデム状態に。


「このまま少し沖合に向かいます。挑発タウント……は使えませんよね」

「待っていろ、闘気爆発オーラバースト……怒りの銛アングリィアンカーっっっ」


 スティーブは闘気を凝縮した一本の銛を形成すると、それを海中の海魔に向かって投げ飛ばしました。それは一直線に海中に沈むと、どうやら海魔の胴体に突き刺さったようです。

 そのまま海面ぎりぎりまで高度を下げ、いよいよ海魔と邂逅……と思ったのですが。


――ザッバァァァァァァァァァァァン

 巨大な船体に、巨大な爪。

 その体に当たる船体部分には、3門の巨大な砲塔。

 ええ、このまえはありませんでしたよ、あんなもの。

 この数週間の間に、海魔は海底に沈んでいたらしい船の残骸も取り込み、そのデータを蓄えて再生したということでしょうか。


「う、嘘だろ……なんだよ、あいつはインディアナポリスじゃないか……」


 スティーブが震えています。

 その瞬間に海魔が海面で魚のように大きくジャンプ。

 はい、船体下部はズールー型潜水艦が埋め込まれていますし、その左右にも小さな砲塔が搭載されていて、あちこちをぐるぐると見渡しているように旋回しています。


「インディアナポリスだかなんだか知りませんけれど、私はとっとと任務を終わらせてしまいたいのでですってば!! スティーウ、いきますょぉ!!」

「お、おおう!!」


 ジャンプ直後に海面に飛び込む海魔。

 そして船体の半分を海上に突き出すと、三門の砲塔が私たちの方向を向いて。


――ドッゴォォォォォォォォォォォッ

 いきなり、この近距離でぶっ放してきましたよ。

 馬鹿なの、ええ、本当に馬鹿なのですか!! 直線距離で砲塔と私たちの距離は100メートルも離れていないのに、いきなりぶっ放しましたよ。


「どっ……せいっ!!」


――ギュゥン

 一気に垂直降下して、砲弾……いえ、魔力の凝縮した弾頭をかわします。

 そのまま船体すれすれまで近寄ると、いよいよスティーブの出番です。


「ぶちかましてくださいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

闘気爆縮剣オーラ・インプロージョン麻痺穿孔パーフォレートっ」


 アイテムボックスから引き抜いた聖剣に闘気を込めて、そのまま船体に向かって突き刺します。

 あれは対象の体内を浸透し、魔石に直接麻痺の闘気を叩き込む技。よくドラゴン退治などで使用される基礎闘気法であり、鱗を吹き飛ばした肉体に直接ぶちかます大技です。

 まあ、魔石の大きさに比例して必要闘気が桁レベルで上がっていくので、普通はスモールドラゴン退治でも5人がかりで使う技なのですけれどね。


『グモウグゴエァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』


 スティーブの一撃を受けて、海魔が海面にジャンプ。

 体表面、すなわち艦体胴部全周囲に存在する武器を次々と乱発射しはじめました!

 そして甲板辺りから落下してくるスティーブの真下に高速移動して彼をキャッチ。

 実に危ないところでした。


「ふぅ、これでお仕事は終わりかな……と、意外とあっけなかったな」

「まあ、あとは活動停止した状態で、体内に核弾頭があるか確認。それを回収するだけですからね」


――ドゴドゴドッゴォォォォッブッバゥァァァァァァァッ

 ええ、そのまま遠巻きに飛行していますと、海魔は主砲副砲対空気銃、魚雷から巡航ミサイルに至るまで、そのすべてをぶっ放して海面に倒れ、プカーッと浮かびましたよ。

 その乱発射の影響でしょうか、あちこちの海面に着水した魔力弾が爆発し、その波を受けて艦隊がフラフラ状態ですし、ヴーゲンヴィルに至っては艦橋付近に主砲が直撃。

 まあ、その程度の魔力弾では私の魔法壁を破壊することもできませんけれどね。


「……ふう、あとは飛んでいった巡航ミサイル一発ですか。インディアナポリスって、意外と近代兵器を搭載していたのですね?」

「まさか。1958年に沈没した巡洋艦だぞ、そんなものを搭載しているはずがないだろう?」

「ああ、それじゃあ、あれは……」


――ツツ……

 私の頬を冷汗が流れます。

 ええ、インディアナポリスではないということは、あれはズールー型潜水艦に搭載してあったもの。

 そして、今回の作戦で聞いた話では、一発の核弾頭を搭載して……って、ああっ、あれは危険です、核弾頭そのもので……しかも、後部から魔力放出して飛んでいっているぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!


「空挺ハニーよりもがみへ。ターゲットの海魔をせん滅。ただし、巡航ミサイルが発射された模様。到着地点の予測をお願いします」

『10-4。予測着弾地点の割り出しは不可能。対象は私たちの知識の範囲外の推力で飛行中。ただし、目標となる方角は3-0-0から3-6-0の範囲内と推定』

「りょ……ターゲットの破壊に向かいます!!」

『もがみより。それは容認できない!!』


 通信カット。

 ええ、この場所から角度300度から360度の範囲内の直線状は、日本列島です。

 つまり、あの核弾頭は日本に向けて飛んでいっているということになりますよ。

 そんなの、どこに落下しても危険以外の何物でもありませんからね。


「スティーブ、私はあの核弾頭を追いかけるので、ここは任せていいよね答えは聞いていないからっ!!」

   

 私の言葉と同時に、スティーブはサムズアップして自ら飛び降ります。

 さて、ここからは私の本領発揮タイム。

 全身に魔力をコートし、私と魔法の箒全体を魔力で覆います。

 はい、空帝ハニー・ビーモードに変化しましたので、羽を広げて最大速度で巡航ミサイルを追尾しましょう。

 

 あとは、あれをどうやって処理するか、それが勝負です……。 

 

 やがて、私の速度が巡航ミサイルの真横まで到達。

 巡航ミサイルの推定速度は、時速1225キロ、つまりマッハ1.2。

 よし、凄いぞ私、マッハ1.2までは防御膜でノーダメージだぁ。

 あとは、この巡航ミサイルをどうするか。

 このままだと、1時間半ほどで日本列島に到達しますよ。


「……あ、そっか。悔しいけれど、異邦人フォーリナー対策委員会の話をつかいますか……」


 そっと核弾頭に触れて。


――シュンッ

 アイテムボックスの内部に収納。

 私たち異邦人フォーリナーのつかうアイテムボックスって、所有者が明白な場合は収納できないのですよ。つまり、店先に並んでいる商品とか、他人の所有物は収納不可能なのですが。


 ズールー型潜水艦に搭載されている核弾頭って、そもそもソビエト連邦解体後に記録も全て消去されているのですよね。

 つまり所有者、なし。

 ついでに進剤代わりに使っていたらしい魔力噴出も、とくに問題なく収納完了しました。

 ただし、次にアイテムボックスから取り出した場合、そのままどこかへ飛んでいく可能性あるのですけれど、それはまあ、報告書にも書いておくことにしましょう。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。これでミッション、コンプリードですよ。まったく、もう二度と、こんなミッションは押し付けないでほしいところですよね」


 ブツブツと文句を言っていても始まらないので。

 私は急ぎ、もがみまで帰投します。

 このあとの報告やらなんやらも面倒ですけれど、それよりも魔石と素材ですよ。

 こんどはなにに加工しようかなぁ。

 この前のダンジョンコアについては、削って霊薬の素材にすることが決定していますからね。


 さあ、待っていなさい魔石ちゃん!!

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