Top of The World(世界最強の特殊部隊)

 ザッパァァァァァァン


 高波を切り裂くように、『駆逐艦もがみ』は大海原を進みます。 

 アメリカ海兵隊との合流地点は、北マリアナ連邦アグリハン島沖。

 日本人にとっては忘れられない、とある事故で有名になった島。

 今は無人島であるこの島の沖合にて、海上自衛隊はアメリカ海兵隊および海軍と合流し、未確認生命体の鹵獲もしくは排除を行います。


 ちなみに現地に到着するまでの時間、私は定期的に魔法の箒による海面すれすれでの偵察任務を行っていたのですが、到着するまでは実に平穏そのもの。

 未確認生命体の影どころか、痕跡すら発見できませんでした。

 そして。


「うわぁ……マジですか」

「ああ。あれが最新鋭強襲揚陸艦だな。アメリカ海兵隊との合同演習とかで噂には聞いていたのだが、まさか実戦でお目にかかる時が来るとはなぁ」


 アグリハン島沖合に待機している艦船。

 アメリカ級強襲揚陸艦、その三番艦であるヴーゲンヴィル……だそうです。

 なにぶん、私が地球に居なかったときに配備された最新鋭だそうで、詳しくは分かりません。

 しかも、F35BライトニングⅡ……というS/vtol戦闘機まで搭載している、まさにアメリカ海兵隊の最新鋭装備だそうです、そう石動二佐が楽しそうに説明してくれました。

 他にも、名前の知らない駆逐艦……うん、第七艦隊とか第一海軍特殊戦部隊とか言われてもわかりません! ということで聞かなかったことにします、まとめてアメリカ海軍、それでオッケー。


「まったく。君は第一空挺団のエースなのだから、他国の軍事情勢ぐらいは頭の中にとどめておけ。おそらくは、如月三曹がアクティブソナーでターゲットを捕捉。その後、あの艦隊で無力化したのち、鹵獲というところだろう」

「はいっ、如月三曹は帰還を希望します!! 相手は核弾頭を飲み込んだ化け物です、どうやって無力化するのでしょうか!!」

「さあ、な。それを今から聞きに行くところだ。ということで、魔導編隊所属、如月三曹も同行するように」


 はぃ? 

 あ、このヘリコプターでヴーゲンヴィルに移動するのですね?

 はぁ、ここが強襲揚陸艦ヴーゲンヴィルですか、そしてあれがライトニングⅡですか、私の魔法の箒とどちが早いでょうかねぇ。垂直離陸も可能? それは私も負けていませんよ。

 ああ、艦内も清潔でいい匂いがします。ちょうどランチタイムですか、帰りに食べて帰っていいですか? もがみのお昼ご飯はなんでしょうか。生姜焼と酢豚、海苔の味噌汁、サラダもついているのですか。ヴーゲンヴィルのお昼は……バイキング? これは本格的に亡命も考えないといけませんね。


「……よく来てくれた。そして久しぶりだな、石動二佐。今回の日本の協力に感謝します」

「こちらこそ、シュミツト大佐もお元気そうで。早速ですが紹介します、彼女は如月弥生三曹、今回の作戦に於いて魔導補佐を担当する、第一空挺団魔導編隊の隊長です」


 私が妄想をこじらせている間に、ブリーフィングルームに到着。

 大勢の海兵隊員と、そこに紛れて申し訳なさそうな顔をしているスティーブも発見しました。

 そしてキャプテン同士の挨拶の後、私が紹介されましたよ。


「はっ、如月三曹です、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ……ああ、プレジデントからの伝言だが、『海兵隊は、いつでも君専用のポストを用意しているから』だそうだ。おっと、伝言ではなく独り言……だったかな」

「また、お戯れを……」

「はっはっはっ。では、早速だが作戦について説明しよう」


 軽いジョークののち、作戦の説明が始まります。

 今回の日本政府からの命令は、未確認生命体、コードネーム『海魔シー・デヴィル』の排除及び可能なら鹵獲ということになっています。

 そしてシュミット大佐の口から出た作戦内容も、海魔を私がアクティブソナーで発見、のち海上まで誘導。

 海魔が海面に上がってきたら、魔術により強化されたスティーブが海魔に取り付き、そこで必殺の『スタンアタック』を叩き込み相手の動きを封じる。

 あとは私が魔法により拘束し、アンカーを撃ち込んで海魔を捕らえると、そのままアグリハン島まで曳航。現地で待機している特殊部隊が、解体作業を行う……と。

 穴だらけにも見える状況ですが、万が一のことを考えて海軍の特殊部隊とか駆逐艦も待機しているということですか。

 はぁ、確か私は、アクティブソナー要員だったはずですか。


「……と、ここまでの説明でなにか質問はあるかね? すでに海軍と海兵隊ではすり合わせは終わっているので、あとは日本サイドから質問が無ければ作戦を開始するが……如月三曹、どうかね?」

「私はアクティブソナー要員です。スティーブに対する魔法付与についてはご協力しますが、術式拘束は担当外です」


 きっぱりと言いますよ、ええ。

 これだと現地での作戦変更ではなく、私の協力ありきの作戦ではないですか。


「ふむ……日本サイドには、あらかじめ如月三曹のバックアップも要求している。その許可を受けて、君はここに来ていると思ったが?」

「はい、大きな間違いです。日本政府の指示以外の協力が必要でしたら、海魔の素材を半分、それと魔石を私にください。それが駄目というのなら、私は一度日本へ帰還し、亡命先をアメリカから共産圏に移しますので」


 堂々と宣言していいですよね?

 日本側が私をだまし討ちしたのですからね、そしてアメリカもそれに乗っかる形を取っているのなら、私も手加減なんてしませんよ。

 あっちの世界でも、複数の貴族に同じようにだまし討ち受けたことがありましたので。

 なお、その貴族たちは全て当主が交代するという喜劇に見舞われたそうですよ、私にはナンノコトカワカリマセンケレド。


「さて。ちょっと時間を頂けるかな? 海魔討伐作戦については、今回の作戦の要である如月三曹とスティーブ・ギャレット上級曹長がいなくては失敗はほぼ確定なのでね。ということなので石動二佐、日本での彼女の待遇については、国連を通じて苦言を入れるつもりなので、覚悟するようにと……委員会に伝えてくれたまえ」

「了解しました……」


 うん、ここは絶対に譲れないって、私は前にも話していますよね。

 それに、ここに来る前にも近藤陸将補との密約も交わしていますので。


「しかし、異邦人フォーリナー対策委員会はなにを考えているのやら。あのご老人たちは、この報告を受け取って猛反省するどころか、さらに意固地になるだろうからなぁ。今後の如月三曹の立場も微妙になる恐れがあるが」

「知りませんよ、そんなことは。とにかく、私を利用して自分たちの懐を温めようとしている限りは、そのツケはその都度、清算してもらいますので」

「わかったわかった。私だって、ここで作戦の詳細を確認するまでは誤魔化されていたようなものだからね」

「そのようで。では、ちょっと失礼します」


 そのまま石動二佐に敬礼をしてから、こっちを見て困った顔をしているスティーブの近くに移動。


「や、やあ、ヤヨイも元気そうでベシッ!」


──スバァァァァァァァァァァァァァァァン

 魔力を板状に薄くのばし、折り曲げて作ったハリセンでもくらえっ!!

 

『あんた、私を売ったなぁ!! 魔石の件、ちゃんとアメリカ軍に説明していないでしょうが!!』

『待て待て、俺は、俺の知っている限りの事しか説明していない。そもそも、弥生だって魔石があれば何でも作れるっていう話だったろう?』

『魔石に含まれている属性と魔素濃度と、その所持者の環境によって生産できる物質は大きく異なる……とも説明したよね? それを説明しなくて、私が魔石さえあればなんでも出来るっていうことを話したんでしょう?』


 異世界の大陸後の一つ、ゼルド・ベンス言語での話し合いが始まりました。

 これはオードリーウェストの公用語ですので、当然私たちも覚えましたよ。

 チートスキルの自動翻訳なんていつ使えなくなるか分かりませんからね。

 ということで、ここからは、話し合いという名のどつき合いです。


『あ、あれ……そんなこと話していたフベシッフバシッ!!』


──スパーンスパーン

『スティーブは本国に戻ってから、そのあたりのことについてしっかりと報告してください。ヨハンナに聞いてもいいですから』

『それなら、ヤヨイがアメリカに来て説明すればいいじゃないか』

『私は、日本の自衛隊員で、好き勝手に外国になんていけないの、分かる? 休暇申請して通ったとしても、有事の際にはいつでも出動できるようにって仰せつかっているのよっ!! そもそも私たちが海外に行くときは、海外渡航承認申請っていうのがあってね、私はこれで不許可出されているから海外に行けないのよ……』


 ええ。自衛隊員は海外旅行一つするにしても細かい申請が必要でして。

 私の場合、この『海外渡航許可申請』を何度か提出しましたけれど、すべて不許可。


・政治的中立性の確保

・ 渡航する隊員の安全確保

・情報保全の確保

・部隊等の即応態勢の維持


 この4つの項目のうち、三つ目と四つ目が問題だそうで。

 ようは、『旅行先で魔法についての知識及び技術を暴露するな』『国内有事の際、魔導編隊として即時対応できない海外へ向かうのは得策ではない』という二つの理由があるため、私の海外渡航は許可できないそうです。

 だから、これ以上グダグダいうのなら自衛官を辞めてもいいと思っていますよ、ええ。

 今回の私に内緒で作戦活動に参加させるという異邦人フォーリナー対策委員会のやり方はマイナス1点です。

 3点溜まったら除隊して外国にいきますので、覚悟してください。


『そりゃあ、面倒くさいなぁ……』

『ええ、貴方が魔石について余計なことを言わなければ、ここまでこじれることはなかったのですよ……と、戻ってきたようですね』


 シュミット大佐が戻って来たようなので、私も石動二佐の元に戻ります。


「如月三曹、今回の君に対しての協力費として、『鹵獲した海魔の素材を半分』、および『魔石を全て提供する』ことで本国と話はついた。日本の異邦人フォーリナー対策委員会にも、今回の件を含めて追加連絡をおこなってあるので安心してくれ」

「ありがとうございます。魔導編隊所属。如月三曹、喜んで作戦にご協力いたします」


 よっし!!

 これで怖いものはないです。

 作戦の主導はアメリカ合衆国という話でしたので、日本政府がどうこう文句を言える立場ではありません。ここで『作戦中止、如月三曹は帰還するように』などという腐った命令を飛ばしてくるとも思えませんからね。


 そのあとは海図を広げて詳細についての確認を行ったのち、私は護衛艦もがみから強襲揚陸艦ヴーゲンヴィルに移動。いよいよ作戦開始です。


 さあ、待っていなさい、私の魔石っ!!

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