We are the World(世界にゆだねる?)
無事に、任務完了。
太平洋上で起きた未確認生命体との戦いは、とりあえずドローということでよろしくお願いします。
護衛艦もがみの艦橋にて一連の報告を行ったのですが、どうにも大本営……この場合は防衛庁からの指示が、非常にあいまいな気がします。
「さて。つい今しがた、横須賀の海上自衛隊からの連絡が届いたが。如月三曹は、この報告にあった未確認生命体の鹵獲は可能かね?」
「わかりません。私が陸自にて受けた指令は、海上自衛隊所属、ひうち型多用途支援艦に乗船し、陽光丸および救難飛行艇の事故現場に向かい、魔物の調査および生存者の捜索活動を行うようにという命令しか受けていません。救助した人々については、海自にて保有している乗船名簿などで確認可能と思われます。そのうえで、リストに載っていない人物を捜索するようにという命令でしたら、このまま継続します」
淡々と説明を続けます。
だって、自分の出来る事と出来ない事については、はっきりと説明しておかないと。
ただ好き勝手に使われて終わりですから。
「現時点で、飛行艇の乗組員12名は確認できた。陽光丸の乗員は全部で20名。このうちリストで確認できているのは15名、今だ行方不明者が5名いるのだが。そのうち2名は、生存者の連絡で海底に沈んでいったらしく、おそらくは死亡していると思われる」
「つまり。生死不明者が3名ということですか。この短時間で、ここまで救助できているというのは凄いことですよね」
「如月三曹の魔法があったから、これだけの時間で救助ができただけだ。実際に目視とダイバーによる捜索を続けていたなら、まだこの半分も発見できていなかったとおもう」
おほめにあずかり恐悦至極です。
とはいえ、まだ3名の乗員が生死不明ということですか。
一般的な捜索期間は、最大で2週間程度。
残り10日ほどの猶予はありますね。
「では、未確認生命体の調査報告は、こちらの記憶水晶球を提出することで報告に代えさせていただきます。と、このままでは私以外では確認できませんよね、少々お待ち下さい」
記憶水晶球の使用許可を、【無制限】に書き直します。
これで私以外の誰でも、この水晶球に触れて『再生』と告げると、映像が自動的に再生します。
あとは『停止』『早送り』『巻き戻し』のコマンドも追加。
ビデオデッキのように再生が可能になりました。
これを石動二佐に手渡して使い方を説明しますと、まるでおもちゃを貰った子供のように目を輝かせながら色々と弄りまわしています。
「ふぅむ。これが魔法の力か。このマジックアイテムは、誰でも使えるのかね?」
「はい。余剰魔力を多めに付与しておきましたので、誰でも使うことは可能です。ただ、蓄積している魔力を使いきると、水晶球そのものが消滅しますのでお気を付けください。まあ、一か月程度は使えると思いますので」
「わかった。報告の際に、そのことも注意点として報告しておく。以上、引き続き任務に戻るように」
「はっ!!」
敬礼をして艦橋を後にして。
あとは引き続き、アクティブソナーの術式を発動し、遭難者の捜索を続けます。
うん、早く見つけないと大変ですよね。
〇 〇 〇 〇 〇
――10日後、習志野駐屯地
私の乗船していた『ひうち型多用途支援艦』は、無事に横須賀基地に帰港しました。
最終的に行方不明者は全員救助。
残念なことに、陽光丸の乗員のうち8名は死亡。
あとは海上自衛隊に任務を引き継ぎ、私はとっとと北部方面隊に帰還……しようと思ったのですけれど。
上陸後、石動二佐から命令書を受け取りましたよ。
ということで、魔法の箒でビューンと習志野駐屯地、古巣に戻ってきましたが。
「明後日、魔導編隊はアメリカ海兵隊との合同任務にあたる。任務内容は、太平洋上に出没する未確認生命体の排除・鹵獲。作戦の主導は海兵隊が行い、魔導編隊はそのサポートに入る。以上、質問はあるかね?」
第1空挺団長兼習志野駐屯地司令の近藤勇二陸将補から、ありがたくない命令書を受領しました。
それを確認すると、今回は海上自衛隊及び魔導編隊での作戦行動。
アメリカ海兵隊にはスティーブも参加しているということで、今回は彼と二人での討伐任務ということになりますが、私の任務はアクティブソナー要員。
護衛艦もがみにて指定海域へ向かい、そこでアクティブソナーをフルパワーで発動。
同時に
「魔導編隊については、私一人での参加ということになっていますが、他の隊員はだれも同行しないのでしょうか」
「未だ、魔法適性を持つ自衛官は君一人だからね。闘気適性者は第一空挺団にいるという報告を聞いているが、彼らが実践に耐えうるのであれば、魔導編隊に編入しても構わないが」
あっちゃあ。
それは無理ですよ。
彼らはまだ闘気については体内にその芽が目覚めた程度、生まれたてでお尻に殻をぶら下げているヒヨコのようなものです。そんな彼らを連れていくと、邪魔……もとい、危険でしかありませんよ。
「では、今回は魔導編隊、総員一名で参加させていただきます」
「よろしく頼む。今回の任務については、アメリカ合衆国が主導となっているが、鹵獲した未確認生命体については日米共同での解析が行われることになっている」
「はい、私はアクティブソナー要員です。任務に支障のないように、全力を尽くします」
ええ、誰が戦うものですか。
そういうのはスティーブに任せて……って、あいつ、泳げない筈ですよ!!
なんで引っ張り出されてきたのかなぁ。
命令だから仕方なく……ですよねぇ。
「それで構わない。では、健闘を祈る。ここからは個人的な話になるが」
「はっ!!」
そのまま立ち去ろうとしたのですが、近藤陸将補が数枚の写真を私に提示します。
そこには、見たことのない潜水艦が映っています。
形式もかなり古そうな白黒の写真。
でも、これって私が見た未確認生命体の本体ですね。
「これは、私の見た未確認生命体の胴体部分ですね。どこの潜水艦ですか?」
「ソビエト製、ズールー型潜水艦。第二次世界大戦後に開発された、航洋型攻撃潜水艦であり、この写真に写っているのは、その中で唯一、海洋科学研究用の実験潜水艦として登録されている……ということになっている」
「ということになっている、ですか。それで、その実態は?」
何か隠しているとしか思えません。
それなら、可能な限り情報は引き出させていただきます。
「当時としては最新型の、巡航ミサイルを搭載。そのうちの1発は、実験的に核弾頭を装備している。そしてこの件については、ソビエト連邦解体後に記録も全て消去されている……と、アメリカ合衆国からの通達があった」
「……つまり、その情報が正確であるのなら、あいつの中には核弾頭が搭載されているということですか?」
その問いかけに、近藤陸将補は静かに頷く。
うわ、危なかったですわ。
もしも私が短気を起こして、全力であの未確認生命体を攻撃していたら。
今頃は太平洋上で核爆発が起こっていた可能性があるのですか。
そして、それを鹵獲しろと。
「……史上最悪で、最低な作戦ですね。アメリカはただ、この核弾頭を回収したいだけではないですか? そんなことに日本の自衛隊を使うというのは……って、あの、この作戦って、海上自衛隊は必要ないですよね? 私が必要だから海上自衛隊を使って引っ張り出したっていうことですか?」
「
「はぁ。その
「そういうと思っていた。すでに書類は用意してあるので、安全第一で任務にあたってくれ。
まったく。
人を馬鹿にするのにもほどがあります。
ということで、今回の任務中に、スティーブを通じて色々と日本政府に苦言を呈することにしましょう。とりあえずはアメリカへの亡命方法と、私を受け入れてくれた場合の待遇について話を聞くことにしましょうか。
どうせ日本政府にも筒抜けになると思いますので、思いっきり慌ててください。
それにしても……。
はぁ。核搭載の魔物ですか。
冗談でも会いたくないものですよ。
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