Be the light(勝ち筋をください)

 はい、無事に太平洋上の現場海域に到着しました。


 ちなみに移動方法は『ひうち型多用途支援艦』による海上移動、現地までの到達予想時間は40時間。

 ということで、私は途中から時間短縮のため魔法の箒にて移動。

 現地近海にて待機している『護衛艦・もがみ』と合流し、付近の調査を先行することにしました。

 ええ、急いで調査を行わないと、犠牲者が増えるだけですから。

 ということで、もがみ後部甲板に着地すると、出迎えてくれた石動二等海佐にまずは敬礼。


「陸上自衛隊、第一空挺団魔導編隊所属。如月三曹、任務を受けて到着しました」

「ご苦労さまです。さて、畠山陸将から説明は受けていると思われますが、如月三曹の任務は、魔術による周辺海域の調査、及び人命救助です。すぐに任務に就けますか?」


 魔法の箒による移動は、それなりに魔力を消耗します。ですが、私の自然回復力の方が高いため、移動程度だけならば、なにも消費していないに等しいです。

 まあ、これが異世界なら、魔力が減ることすらありえないのですけれどね。


「はい、ただちに任務に入ります」


 そう告げてから、私は後部看板のさらに最後尾に立つと、両手を広げて詠唱を開始します。

 探知系魔術は、その範囲の大きさにより消費魔力は著しく変化します。

 都市部や陸地で使う場合は、ある程度の目安も出来るのですが、ここは海上。

 平面だけでなく、海中にまで探査範囲を広げなくてはなりません。


「七織の魔導師が誓願します。我が体に五織の超感覚を与えたまえ……我はその代償に、魔力12500を献上します」


――キィィィィィィィィィィィン

 体内に魔力が満ち溢れる。

 それをゆっくりと、体全体から周囲に放出する。

 これはアクティブソナーからヒントを得た、私のオリジナル魔術。

 私を中心に球状に魔力による感知膜を広げていき、それに触れたものを簡易鑑定することができる。


「ん……んんん~。ん~、んんふっふーん」


 反応する物体を一つずつ認識し、それが人間であるか、人間だったもの・・・・・であるかを探ります。そして5分ほどで、いくつもの反応が確認できました。

 

「ええっと、方位0-0-0がこっちだから……対象感知、方位0-3-8、距離128。浮遊物体の下、生命反応あり、数は4つ。引き続き、方位0-5-5、距離135、深度12。数は1つ、死亡者と認識。続いて方位0-0-8、距離123、浮遊物体の上、生命反応微弱、数5つ……続いて……」


 次々と反応をチェック。

 生存者の反応を最優先として、傍らで待機している海自隊員に告げていきます。

 すると私の報告を受けて艦橋に連絡、急ぎ周辺海域にて待機している艦船による救助活動が始まります。

 方位は三つの数字からなり、対象物への角度をしめし、距離は10メートルにつき1単位。

 0-3-8なら北に向いて38度の方角、距離128は1280メートル。

 そもそも、この荒れた海原で米粒大よりも小さな反応しかみえない状態では、目視観測でもかなりつらいところがあります。かといってアクティブソナーでは人間を見つけることなど不可能。

 海上や海中に漂っている浮遊物に掴まっているのなら、どうにか見つけることは可能かもしれませんが、それも穏やかな波ならばの話です。

 

「……方位1-6-8、距離358。浮遊物の中、生体反応微弱。数5つ……」


 すでに、アクティブソナーで確認した人数は、US-2飛行艇の搭乗員の数を超えています。

 つまり、沈没したと思われる陽光丸の乗組員も確認できているかと推測できます。

 ですが、そちらの搭乗人数については、私は知らされていません。

 飛行艇はマックス11名が搭乗していることは知らされていますので、あとは救助した人の身分を確認し、自衛官か陽光丸の船員か調べるだけ。


 そして、それは私の仕事ではない(きっぱり)。 


 私の任務は、この海域にいるであろう生存者を探し出し、それを海自の方に伝えるだけ。

 ですので、方位3-3-8、距離558、深度25、超大型物体1が高速でこちらに向かっているという事実は、あまり信じたくないのですが。


緊急アラートっっ。方位3-3-8距離550、深度22にて移動する超高速物体を確認。生命反応ありっ。対応をお願いします!!」


 私の仕事は、人道的支援任務だったはずなのに。

 まるで誰かがフラグを立てたかのような、超強力な魔力反応が接近中。

 これはやばい、かーなーり、やばいです。

 あの新宿地下迷宮のドラゴンよりも、危険です。


「ターゲットから魔力反応を確認。未確認生命体かと思われます!!」

『コントロールより、ハニー・ビーへ。第一目標は救助隊の安全、第二目標は迎撃。できるか?』

「空挺ハニー、了解っ!!」


 素早く傍らにおいてあった魔法の箒を手に取る、そのまま高速フライトを開始。

 ターゲットは海面下の未確認生命体。

 水面ギリギリに移動しつつ、まずは相手の敵意ヘイトをこちらに向けなくてはなりません。


「七織の魔導師が誓願します。我が魔力に二織の意思を宿らせたまえ……我はその代償に、魔力25を献上します……挑発タウントっ」


――ピッキィィィィィン

 私の全身から魔力が放出されます。 

 ると突然、未確認生命体は私に向かって姿勢を変えると、一直線にこちらに向かって進行してきました。ですので、引き続き、高速詠唱を開始します。


「七織の魔導師が誓願します。水中呼吸の発動を承認、引き続き、我が体に一織の鎧を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力2500を献上します。超硬鎧ハード・ガイっ」


――ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ

 私が防御鎧を身にまとったタイミングで、海底から何かが飛んできました!

 それは魔力の塊、俗にいう『魔力弾』。

 ただし、その大きさが尋常ではありません。

 全長3メートル、直径30センチほどの円柱形、つまり魚雷型。


――ドプワァッ

 それは私の前方1200メートルで海面から飛び出すと、まるで私をロックオンしているかのように翼を広げ、飛来してきました。


「嘘ッ!! トビウオじゃあるまいし飛んでこないでくださいっ、冗談じゃありませんよっ!!」


 飛んでくる魚雷型魔力弾をかわすために急上昇を開始。

 すると今度は、未確認生命体から大量のミサイルのようなものが飛び出してきます。

 いえ、あれはミサイルそのものじゃないですか!! 一体、あの未確認生命体は何者なのですかっ!!


――ドッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ

 はい。

 一瞬だけ未確認生命体の姿をとらえられましたけれど、同時に2発のミサイルが海中から飛び出し、私に向かって飛んできます。


「迎撃しますっ!! 高速詠唱、七織の魔導師が超収束レーザー発射っ!!」


 右手を伸ばし、指先から超収束されたレーザー状の魔力波を射出します。

 これにより水中から飛んで来た『翼を広げた魚雷』も、対空発射してきた『スカッドミサイル』のようなものも一気に薙ぎ払い、爆破します。


――シュンッ……チュドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン

「はうあっ!!」


 これはやばい、大爆風に巻き込まれて姿勢制御がうまく取れませんっ。

 錐もみ状態で海中に飛び込むと、そのまま姿勢を取り直して水中に潜む未確認生命体を見ますと……。


『ゴブウンッ、ゴブゥンッ……』


 未確認生物は、口らしき部分から泡を吹き出し、海底へと潜っていきました。

 ええ、あれは尋常ではありません。

 巨大な潜水艦の姿に、金属製のロブスターのはさみのようなものが付いていましたよ。

 そして後方にはU-2飛行艇の翼のようなものが上下に生えているという、なんというか獲物を寄せ集めたかのような、いびつな形状をしていました。

 そしてそのハサミや船体には、一瞬ですが文字らしきものが見えましたよ。

 これは後で記憶を抽出して、確認作業が必要です。


「急ぎもがみに連絡を……って……しまった!! 無線機まで気が回らなかったです!!」


 胸元に装着していたF80式無線機が水没状態。つまり故障している可能性が大。

 これは一旦、戻るしかありません。 

 といいますか、あんなの相手に戦いたくなんてありませんからねっ!!


………

……


 海中から飛び出し、そのまま魔法のアクティブソナーを発動。

 残念ですが、先ほどの未確認生命体の消息は途絶えてしまいましたか。


「ぷっはぁっ……はあはあはあはあ……」


 最上後部甲板に着地すると、急ぎ右手を前に差し出して詠唱を開始します。


「七織の魔導師が誓願します。我が手の前に一織の水晶球を生み出したまえ。……我はその代償に、魔力1200を献上しますっ……記憶水晶球メモリーオーブっ」

 

――ブゥン

 これは、私の記憶を再現する水晶球。

 この中に、先ほどまでの戦闘データを転送すると、ここに駆けつけた石動二佐に掲げます。


「如月三曹、無事だったか。それで、先程のあの爆発は、一体なんだったのだ?」

「わかりません。ですが、これを見てください。私にはよくわかりませんが、ひょっとしたら海自の方ならご存じかもしれません。現時点での私の見解ですが、未確認生命体は襲った陽光丸やUS2-飛行艇を取り込み、同化していると考えられます。ただ、その場合でも、これがなんなのか、私には見当がつきません」

「わかった。では、ここではなく艦橋まで来てほしい……と、先に着替えた方がいいかね?」


 ああっ、急いでいたので全身ずぶぬれ状態ですか。

 まあ、この程度なら衣類乾燥の術式を使って……服が塩を拭いて、肌がベタベタですわぁぁぁぁぁ。   


「……すいません。シャワーをお借りしてよろしいですか」

「許可する。誰か、如月三曹をシャワーまで案内してくれ」

「はっ、こちらへどうぞ」


 そのまま隊員に案内されて、私はシャワー室へ。

 そしてひと汗かいてアイテムボックスから取り出した陸自の制服に着替えたのち、艦橋へと向かいます。

 はたして、鬼が出るのか蛇が出るのか。

 どっちも出てきて欲しくはないですよ、全く……。

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