Second Mission~異常進化体と未確認海魔~

All The Way(思えば遠くへ……)

 8月。


 今、全国を震撼させているニュースは一つ。

 小笠原諸島以南、マリアナ諸島との中間地点付近にて遠洋漁業を行っていた『第一陽光丸』が突然消息を断ったこと。

 現在は海上保安庁の要請を受けて、近海付近にて海上自衛隊の対潜哨戒機P-1が消息が途絶えた海域付近を調査。その結果、海上に浮かぶ船舶らしきものの残骸、燃料などを発見。

 急ぎ第71救難飛行隊に命令が飛ぶと、海上自衛隊の虎の子であるUS-2救難飛行艇による海域周辺の捜索活動が開始された。


 だが、24時間経過した現在も、船員らしき人影は発見することが出来なかった……。


………

……


――北部方面隊・札幌駐屯地

 一昨日から報道関係を賑わらせているニュース。

 北緯22°27、東経143°45の海域にて消息不明となった遠洋漁業船の捜索。

 航空自衛隊と海上自衛隊が合同で捜索を行っているものの、現在まで確認できた手がかりは洋上に浮かぶ船の残骸と思わしきものの一部と、船舶用燃料のみ。

 なんらかの事故に遭ったのか、はたまた別の要因で消息不明となったのか。


 幸いなことに、消息不明となった船舶には『AIS(自動船舶識別装置)』が搭載されていたため、AIS ライブ船舶マップにて位置情報は確認することが出来たのだが。

 最後に確認できたのが、先ほどの座標。

 そしてその30分後に消息を絶ってしまった……。


「うん、こりゃあ沈んだとしか思えませんよ。急ぎ、ダイバーに指示を出して、海底の捜索も視野に入れたほうがいいですよねぇ」


 お昼の自衛隊駐屯地食堂。

 名物であるスープカレーを食べながら、ノンビリと昼のニュースを眺めています。

 私が所属している陸上自衛隊には、海上捜索などの要請は届くはずもなく。それでもこの事故の行方を心配して見ています。


「如月三曹、貴方の魔法で海底を見渡すことって出来るのかしら?」

「いえいえ、いくら何でも、ここから小笠原沖の海底を見渡すなんて、魔力が足りませんよ。ええ、これは私の出る幕ではありません」

「そお? まあ、統合幕僚監部がどう判断するのかわかりませんけれど。最近では、陸自だけ魔術の恩恵を受けられて反則だという他の自衛隊幹部の声も上がっているそうですし、魔導編隊を新しく別枠の自衛隊として設立してはという話も出ているそうですよ?」


 はぁ?

 い、いや、それは勘弁してください。

 というか、そんなことになっても、そもそも私一人しかいない自衛隊って、意味がありませんよね。

 はは、小笠原一尉も人が悪い。


「う~ん。流石にあり得ませんね。その場合の隊員って、私ひとりじゃないですか」

「だから、新しい自衛隊の一つとして設立すれば、訓練課程も必要となるので必然的に魔術師の育成も始まるのではという声も出ているようです。あとは……魔導教導隊の設立とか」

「教導隊というと、確か自衛隊学校などで教育支援を任務とする部隊ですよね。つまり、意地でも私に、魔術を教えろというのですか……はぁ。教えるのは構いませんけれど、それを理解できる人がいるとは思えませんけれどね」


 相変わらず、日本政府は私の魔術知識を欲しているようで。

 確かに、今回のような海難事故の場合、魔術を使って海底まで潜っていき、そこで調査するほうが経費も節約できますし、なによりも早い。

 もしも私の所属が海上自衛隊ならば、否応いやおうなしに命令が降りて来ていたでしょうね。


「はぁ。陸自でよかった。私、海は嫌いなのですよ」

「え? 第一空挺団って、海上降下訓練もあったはずよね?」

「はい。だから私は、水中呼吸ブレッシング水上歩行ウォーキングの魔法を施して対応しましたので。別に泳げないわけではないのですけれど、苦手なんですよ……」


 そんなことで、よく第一空挺団に所属で来たなと突っ込まれそうであるけれど、苦手なものは苦手。

 

「うーん。まあ、如月三曹の場合、魔法でどうにかっていうのはありですからねぇ……って、え?」

「なんだ、あれは?」


 突然、食堂の空気が一変。

 大型テレビで流れているニュース映像が、明らかな異変を映し出した。


――メキィッ

 海上に浮かぶUS-2救難飛行艇、その船体に突然、巨大な触手のようなものが巻き付いた。

 懐中から伸びた幾重もの触手、それはまるで烏賊や蛸の脚のような形状をしている。

 それが二本、三本と巻き付き、しまいにはメキメキと機体を締め上げ始めた。

 その異変に気付いた隊員たちは海に飛び込み、付近の海上にて待機している設標救難船1号型へと避難を開始。

 やがて、触手により機体が真っ二つに破壊されたUS-2救難飛行艇は、海底へと引きずり込まれていった……。


「う、うそ……あれってダイオウイカとかではないわよね? 飛行艇を破壊して海中に引きこむ化け物……そんなものが、存在しているの?」


 小笠原一尉の呟き。

 それとほぼ同時に、食堂中の隊員たちの視線が私に集中する。


「はぁ、あの、私がいた異世界では、海の化け物としてクラーケンとかバハムートとかはいましたけれど、この地球にもいたなんて、私も初耳ですからね」

「あれ、バハムートって空を飛ぶ巨大な竜だよね?」


 ファンタジーな単語に反応した隊員もいらっしゃるようで。

 ええ、私も異世界に向かうまでは、その認識であっていましたよ、ええ。


「バハムートは、海にすむ大海蛇ですよ。古代魚のような胴体、左右に突き出した翼のようなヒレ、ウミヘビのように長い尻尾……ちなみに全長は200メートル程度で、救難飛行艇程度の大きさなら飲み込まれます。ついでにたこ足も持っていませんので、あれは別物ですね……はぁ」


 そう力説したのはいいのですけれど、もうね、いやな予感しかしていないのですよ。

 新宿大迷宮の時と言い、今回といい。

 私の嫌な予感の的中率は、ほぼ100%といっていいほどです。

 そんなものよりも、宝くじに当たって欲しいのですけれど。


――ポーン

「如月三曹は、至急、北部方面隊総監部へ。繰り返す、如月三曹は、至急……」


 ほら。

 こんな事なら、もっと早く食べればよかったと後悔しつつ、私は食器を下げてから総監部へと向かいます。

 うん、出撃命令ですよねぇ。

 海の上かぁ、嫌だなぁ。

 今日は夕方から、霊薬の調合を試そうと思っていたのに……。

 

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