Cutie Honey(変わるわよ!!)
仮設本部にて一連の報告を終えて。
集まっている幹部たちは、頭を抱えている状態。
「……如月三曹に問うが。現在の自衛隊の兵装を用いてドラゴン種を攻撃した場合、討伐は可能かね?」
これは大切なこと。
現代科学の粋を集めた兵器VS異世界最強の幻想種・ドラゴン。
ちなみにですれど、ドラゴンの体表面にある鱗は魔力で覆われているため、魔法もしくはそれらを纏った武器でなくてはダメージを与えることはできない。
だが、物理法則はどうか?
少なくとも毒は有効な手段として異世界でも使われているのだけれど、あの巨体を弱らせるほどの毒が、果たして現代世界に存在するのだろうか。
それも、ピンポイントでドラゴンのみを弱らせる毒。
魔術付与を行った麻酔弾でも、あの鱗は貫通しないだろう。
口から毒を飲ませるには危険すぎるし、周辺に対する被害を考慮するとリスクの方が大きすぎる。
「おそらくは、不可能かと思われます」
「なんてことだ……だから我々は、一刻も早く新宿迷宮は破壊すべきだと提案していたのだ。だが、あのくそったれの野党共が、あーだこーだと理由を付けて反対しているから……」
「そうそう、来月にはアジア方面の諸国から迷宮の視察団まで派遣されてくるそうじゃないか。どこの誰が、迷宮内部を案内できるというのだね……」
はぁ。
そんな面倒くさい話にまで発展していたのですか。
「それよりもだ、如月三曹。魔王らしきものが存在していたというのは本当かね?」
習志野の近藤陸将補が、他の幹部たちの話を無視して問いかけてくれました。
私の見たもの、サモエドさんの正体が魔王であるなど考えたくもありませんが、可能性の一つとしては否定することはできません。
「はい。形状については、先程の報告通りです。ドラゴンを召喚できるほどの魔力を持った存在は、魔王もしくはそれに準ずる力を持った魔族であると思われます」
「では、その魔王とやらに会談を申し込んで見るというのはどうかね?」
「いや、そもそも魔法陣からドラゴン種を召喚していた時点で無理ですね、話し合いが通用する相手ではありませんよ。確実に日本を滅ぼしに来ているに決まっていますが……」
――ガギガギガギガギィィィィィィィィィン
再び結界を引き裂くような音が響く。
しかも、今度は二体分と思われるような複数の音。
これは予想外に侵攻が早いです。
「ひっ!!」
「き、如月三曹。あれをどうにかできないのかね? 君の実力なら討伐ぐらいできるのだろう?」
「う~ん……端的に報告しますと、不可能ではない、ということは報告します。ただ、同時に二体というのは難しく、一体は取り逃がす可能性も否定できませんが。その場合、最悪はこの新宿、いや東京都が焦土に包まれる可能性もあります。魔力の希薄な地球上では、ドラゴンブレスの威力も低下しているかとは思いますけれど。それでもMOAB(大規模爆風爆弾)ほどの火力はあるかもしれません」
爆風半径はおおおよそ1.5キロメートル。その範囲には新宿御苑も含まれている。
たった一発のドラゴンブレスで、この東京都の、日本の機能はマヒしかねない。
そう報告して、私はゆっくりと右目だけとを閉じる。
そして結界外に置いてきたマジックアイで、ドラゴンの状況を確認してみますが。
うん、二体のドラゴンの前で、サモエドが杖を振りかざしています。
結界破壊術式を唱えているのかも知れませんが、私の結界強度はそんな半端な術式では破壊できませんよ。
ああ、ドラゴンは別ですよ、あれは例外。
「それでは、如月三曹にドラゴン討伐の任務を命ずる」
「いえ、流石に危険手当程度では割に合わないので、出撃拒否しても構いませんか?」
ここにきて、私はまさかの出撃拒否です。
すると幹部たちが真っ赤な顔で私を睨みつけています。
「自衛官というのは、国民の命を守るのが使命ではないのか?」
「そうですが、今回の件は割りに合わないと意見具申します。討伐したドラゴンの素材を全て私が得ても構わないということでしたら、喜んで討伐に向かいますが」
こう告げている最中にも、外では結界を切りつけるような高音が鳴り響いています。
さて、どう判断しますか?
「いいでしょう。では、今回の討伐任務において、倒したドラゴン種の素材は如月三曹個人への報酬に割り当てます。ただし、研究用素材として若干の提出は求めますが、それは構いませんね?」
さすがは近藤陸将補。
空挺団が所属する習志野駐屯基地の基地司令だけあって、私が求めていることを理解していらっしゃいます。
「ちょっとお待ちください。異世界のドラゴンとなりますと、それこそ研究機関にとっては喉から手が出るほど欲しい希少素材です。それをポン、と、簡単に手渡していいのでしょうか?」
「命と引き換えになるほどの危険な任務ということなら、それも止むを得ないでしょう。ということで、第一空挺団・魔導編隊所属の如月三曹に、改めてドラゴン種の討伐任務を命じます」
――スチャッ
威勢よく敬礼をして、私はテントから飛び出します。
走りつつ魔法の箒を取り出し飛び乗ってから、アイテムボックスより魔力回復薬を取り出して一気に飲み干す。
完全回復まではちょっと物足りませんけれど、魔力回復薬って一度効果を発揮すると、三時間は効果を発揮できなくなりますから。
あとは、長年愛用していた『エルダースタッフ』を取り出して左手に構えると、そのまま高速で新宿空洞を急降下。
いっきに結界の手前まで到着すると、杖をドラゴンに向かってかざします。
「さあ、そこのドラゴンを操っているサモエドさん!! 速やかにドラゴンたちを送還すれば命までは奪いません。ですがそれが聞き入れられなかった場合、空挺ハニーの名において全力で排除させていただきます!」
威勢よく啖呵を切ってみると、結界の中でサモエドさんがわなわなと震えています。
うん、日本語は通用しているようですね。
『またか……またしても我の前に立つのか、大魔導師・キサラギ……空帝ハニーよ!!』
うん、何か吠えているようですが、所持している自動翻訳スキルで日本語に変換されて脳裏に届いてきましたよ。
でも、私の名前をしっている?
しかも、大魔導師ということだけでなく、空帝ハニーという呼び名まで……。
いやいや、まさかでしょう?
そういえば、サモエドさんの所持している杖って、混沌の錫杖ですよね? 魔王の持っていたやつ。
それに首とか指にもじゃらじゃらと悪趣味なデザインの装飾品を身に付けていますけれど、どれもこれも魔王城で見ましたよ。それも謁見の間での、魔王との最終決戦で。
「あの、まさかとは思いますけれど、貴方は魔王アンドレス?」
そう問いかけてから、こっそりと通信機のスイッチをいれます。
マイクモードにして、こちらの音声を仮設本部に送るようにしました。
まあ、多分ですが私の声と犬の鳴き声しか聞こえていないでしょうけれど。
『クックックッ……その通りだよ、如月くん。我が名は魔王アンドレス。貴様たちに殺され滅ぼされた存在だ。だが、残念なことに我はあの程度では死なない。来たる日が来るまで、精神体となって眠りについていたのだ!! そして今、我はこの世界で新たな肉体を得て蘇ったのだ!!』
「な、なんですってぇぇぇぇぇぇ!!」
まあ、スティーブたちも、その辺の予想はつけていましたけれど。
それでも蘇るのは少なくとも1000年先の未来、地球に帰る私たちには関係ないからいいか、っていうことで追撃はやめたのですからね。
うん、もっと念入りに封印でもしておけばよかったと、今では後悔しています。
『さあ、まずは我がしもべにより、この日本を滅ぼすことにしよう。いくら地球の兵器が強力であろうとも、物理耐性を持つドラゴンにはかなう筈はないからな……ハ~ッハッハッハッ!』
「ふぅ。七織の魔導師が誓願して略して、破滅の閃光っっ!!」
――キィィィィィィィィィィィィィン
うん、高笑いしているところを申し訳ありません。
しっかりと攻撃用魔力の練り込みが完了しましたので、まずは雑魚いレッドドラゴンを始末させてもらいますね。
ということで、杖の先から破壊の魔力が収束したレーザーを放ちます。
私の魔力波長で練り上げた術式ですので、私が張り巡らせた結界は透過しますからね。
そして頭部に破滅の閃光を受けたレッドドラゴンは、額に穴を穿たれて即死。
ちなみに破滅の閃光の発動により消耗した私の魔力は12万、残りは8万です。
そして音を立てて倒れていくドラゴンを見て、魔王アンドレスの顔色がサ~ッと青くなっていきます。いや、多分青くなっているはず。
ホワホワの白い毛で覆われているので顔色なんてわかりませんが、目力が弱くなっているのは理解できました。
『い、一撃だと?』
「まあ、私の18番でからね。まさかお忘れじゃないですよね?」
私の保有魔力の半分を削って発動する『破滅の閃光』。
レジスト不可能、
『わ、わ、わわわ、分かっている。だが、それを発動するには膨大な魔力が必要だろうが。つまり二発目はない、そして見よ、ブラックドラゴンを!!』
杖を振り回し叫ぶサモエド。
それと同時に結界がパリーンと破壊され、スモールブラックドラゴンが私に向かって大きく顎を開きます。
「くっ、闇のブレスですかっ!!」
『その通りだ。ということて、我はそろそろ撤収させていただく。ここだけが拠点ではないのでね……ではさらばだ!』
――コーン
杖の石突き部分で床をコーンと打ち付けると、魔王アンドレスが転移しました。
ちっ、逃がしましたか。
「さてと。それじゃあ、ここにいると死にますのでね!!」
魔法の箒に魔力を注ぎ、一気に新宿空洞の上空まで上昇。
それに合わせてスモールドラゴンも首の角度を空に向けたので、私はドラゴンブレスの射線から逃れるように穴から脱出しました。
――ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
そして地下空洞と同じ直径の漆黒のブレスが、空高くまで噴き出しました。
ブラックドラゴンのブレスは瘴気と高濃度酸の混ざった物質。大抵の物質は解け落ちますし、ブレスの影響を受けた周辺は瘴気によって汚染されてしまいます。
まあ、このあたりはヨハンナの浄化でどうとでもなりますので、まずはブラックドラゴンをどうにかしないとなりませんね。
「宮廷ハニーより仮設本部。これよりドラゴンとの空中戦に移行します。民間報道関係のヘリに戦闘空域からの離脱を命じてください」
『こちら本部。了解しました』
さて、それじゃあブラックドラゴンも討伐しましょうか。
そう思った矢先、新宿空洞からブラックドラゴンが飛び出すと、そのまま上空高くへと飛びあがりました。
そして翼を広げてホバリングを始めたかと思うと、全身に稲妻を纏い始めます。
「瘴気のブレスの次は、雷撃の嵐ですか。本当に、お約束どおりの戦術ですよね」
このままだと、稲妻を纏った翼を全力で羽ばたかせ、地上めがけて大量の稲妻を伴った突風が吹き荒れます。魔力が籠っているので、その被害は甚大。というか新宿、多分ですが消し飛びますね。
「それじゃあ、次の一撃で終わりにしましょうね……と」
――キイィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
私を包む魔力が、黄色く輝きます。
そして羽のように広がった魔力膜を羽ばたかせて加速すると、一気にブラックドラゴンの背後まで飛んでいき……。
「七織の魔導師が誓願します。我が杖に、死の影を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力45000を献上します」
――ボフゥッ
左手の杖の先に、鋭利な刃が生み出されます。
外見的には日本古来の武器である長巻のように見えますが、これこそが私が空帝ハニーと呼ばれる所以となった魔術『
ブラックドラゴンは稲妻の突風を放つために魔力を溢れさせているため、私の動きには気が付いていません。
そして超高速でブラックドラゴンの首めがけて飛んでいき、飛び交う稲妻を確殺の刃で受け止め、さらに稲妻のエネルギーを確殺の刃に上乗せしてから、一気に首筋めがけて横薙ぎに振り回します。
「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
――ズバァァァァァァァァァッ
振り抜く瞬間に刃が伸び、一撃でドラゴンの首を切断。
その瞬間にアイテムボックスの中にドラゴンのすべてを収納し、血しぶきが地面に降り注がないように注意しなくてはなりません。
このドラゴンの血も、霊薬エリクサーを作るための原料になるのですから。
『こちら仮説本部。現状の報告を』
「こちら空挺ハニー。ドラゴン種の掃討を完了。引き続き迷宮内部に移動し、調査を開始します」
『了解、検討を祈る』
ということで、このまま迷宮に戻り、スモールレッドドラゴンの死体を回収。
あとは奥の広場にある召喚魔法陣を破壊しつつ、内部の状況を確認。
1時間後にはすべての調査を終えて、仮説本部へと帰還しました。
ふう……疲れましたよ、本当に。
〇 〇 〇 〇 〇
一連の事件の報告。
未だ魔王アンドレスの目的は不明ですけれど、奴はこの地球を征服する気が満々なのだろうという予測はできます。まあ、四天王も存在せず、部下である魔族のいないこの地球で、どのように地球侵略を行うのかはわかりませんが。
そのこともまとめて報告し、私は周辺の安全が確認されるまでは仮設テントで仮眠状態。
そして朝になって周辺調査でも新しい異常は発見されなかったので、再度結界を構築してから習志野駐屯地へと帰還しました。
なお、昨夜の私とドラゴンとの空中戦はしっかりと臨時ニュースで生中継されていたらしく、インターネットやらTwitterでも大騒動になっているようです。
まあ、あとのことなんて知りません。
私個人へのインタビューも、一切受け付けません。
ドラゴンを見たい、ニュースで映したいというのも知ったことではありませんよ。
まあ、これからはドラゴンの検死を行いたいとか、素材を提供して欲しいという連絡は後を絶たないようですが。
当初の約束通り、多少は提供しますが後は知りません。とっととアイテムボックスの中で解体して、素材にしてしまいましょう。
これで各種魔法薬および霊薬の補充もできますし。
なによりも、ドラゴンの魔石はとっても貴重。
いい錬金術の素材になります。
………
……
…
―― 一か月後・新宿迷宮外
魔王の再誕、そして新宿地下迷宮の危険性を訴え続けてきた結果。
一部野党の反対もむなしく、地下迷宮は破壊処分となることが可決しました。
もっとも、一回で破壊するのではなく、可能な限り調査を行った後、最後に破壊するということになったのです。
ですが、私一人だけでは、ダンジョンコアの破壊は不可能。
正確には、今回のドラゴ゜ン戦で消耗した魔力の回復が追い付いていないので、急遽『異邦人機関』に要請を行い、アメリカのスティーブとナイジェリアのスマングル、そして日本滞在中のヨハンナさんが日本に集まってきました。
「ふむふむ。これが重力変動のあるダンジョン。しかも自然発生型に手を加えたタイプ。問題ない」
「いや待ってくれスマングル、ここが地球で日本だっていうことは忘れていないよな? あっちはこっちでは様子が違うと思うんだが」
「確かに」
迷宮入り口に立っている私たち。
全員が愛用の装備に身を固めているので、なんというか懐かしいというか不思議な気持ちです。
こうやって、再びみんなでダンジョン攻略にやってくるなんて、予想もしていませんでしたから。
もうね、懐かしくて涙が溢れそうですよ。
背後で待機している、各国の特殊部隊さえいなければですけれど。
「そうね。もう少し慎重に調査した方がいいわね。それで弥生ちゃん、この地下迷宮の地図はあるのよね?」
「当然ですよ。ということで地図を配りまーす。最短で第一層のボス部屋に向かうのでしたら、赤いラインで進めばいいと思うわ。あとはまあ、宝箱のリスボーンポイントとかも書いてあるけれど、遠回りな上にミミックも発生しているから、慎重にしないとならなくて。それに……ね?」
チラッと後ろを振り向いて呟くと、スティーブたちも理解してくれました。
異邦人機関がスティーブさんたちへの要請を認可した条件として、各国の特殊部隊も調査に参加させるように命じられています。
地球に初めて出現した迷宮ということで、サンプルの回収も認められているのですが、その代わり自分たちの身は自分たちで守ること、階層を超える場合は全員で同時に移動することなどの条件が付けくわえられています。
ダンジョンにスポーンする宝箱の調査も兼ねて行うという事らしく……まあ、各国でもサンプルが欲しいのでしょうねぇ。
ちなみに日本の場合は魔導編隊が参加しているので慣れたものですけれど、そこの隊員たち、こっち見てニヤニヤするなぁ!!
「まあ、第一階層を越えることはできるが、第二階層では下手すると半分ぐらいは死亡するかもなぁ。なんというか、冒険者ギルドの依頼であった奴……ほら」
「貴族子女の護衛任務だ。パワーレベリングという名目で同行したことがあった」
「あの時は大変だったわよねぇ……と、どうやらお客さんよ?」
ミランダが回廊正面を睨む。
それとほぼ同時にスマングルが前に出て盾を構え、スティーブが剣を構えなおします。
そして私も杖を振りかざし、詠唱を開始。
「七織の魔導師が誓願します。我が友に、戦いの加護を授け給え……我はその代償に、魔力1600を献上します」
そう唱えた瞬間、スティーブたちの身体が金色に輝きます。
さあ、これで戦う準備は完了。
ターゲットは、前方から走ってくるゴブリンの群れ、およそ15匹。
更にワイルドウルフも従えているということは、上位種が存在している模様。
「それじゃあ、いきますか!!」
「おっけーーー」
「敵は引き付ける、あとは任せた」
「はいはい。ゴブリンってどうしても、私を狙ってくるのよねぇ……」
うん、懐かしい雰囲気だけれど、油断は禁物。
それじゃあ、久しぶりのパーティー戦を開始するとしましょうか!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます