I Gotta Feeling(予感がするけれど)
初めてのダンジョン調査からの帰還。
魔導編隊の隊員の、ほぼ全員が疲労困憊状態。
まずは体調を整えるために、一旦市ヶ谷の陸上自衛隊駐屯地に用意された魔導編隊用隊舎に戻って休息をとり、明日の9時にブリーフィングルームに集合。
なお、私は回収されたゴブリンとコボルト死体の説明のため、自衛隊中央病院へと移動。
幕僚幹部立会いの下、モンスターの死体を解体しつつ、説明を行ってきました。
ええ、流石にこれは私しかできないことですので、いきなり引っ張っていかれましたよ。
地球には存在しないモンスターという存在、その素材と魔石。
解剖を行い医学的見地からの解析が始まると、医師立ち合いのもと解剖しましたよ、ええ。
「……ということで、ゴブリンとダークコボルトの素材および魔石については、地球ではどのような価値があるかはっきりとわかりません。これは科学者や医者の領分なので、そちらにお任せします。ただ、ダンジョンという資源を生み出す存在の危険性と価値については、今の説明の通りです。あとは幕僚本部および日本政府の判断にゆだねますが、資源回収に必要な戦闘力というものも、十分に考慮してください」
淡々と説明を行い、最後は私の挨拶で終了。
これでこの場での私の任務は全て完了し、明日以降の作戦についてもブリーフィングを行ってから決定ということで話は終わりました。
………
……
…
翌朝。
朝一番でミーティングルームに集合。
定刻通りに打ち合わせが始まったところまでは、良かったのですけれど。
「まず、新宿大迷宮の管理が、防衛省から内内閣府異邦人対策委員会へと移動することになった。警備その他は現状のまま防衛省が行うこととなったが、内部調査その他の方針については、今後は『内閣府異邦人対策委員会』によって取りまとめられる」
有働三佐の最初の一言がこれです。
さて、一体何があったのでしょうか。
「なお、第一魔導編隊は現状の活動を全て解除、新宿大迷宮の攻略を目的とした活動に切り替わる。正式な作戦開始は48時間後、第二次新宿大迷宮攻略作戦からとなる。ここまで質問は?」
さて、それではいくつか聞きたいことがあったので、手を上げてみます。
「如月三曹か、なんだ?」
「ダンジョン攻略における、素材およびドロップ品の所有権についてですが。私が経験した異世界では、ドロップ品および素材はモンスターを討伐した本人、およびそのパーティーに権利が与えられました。今回の討伐任務では、どのような方針となるのでしょうか?
ここ、大切。
そろそろ新しい魔法薬を作りたいところなのですが、それに必要な素材が足りなくなってしまう可能性が出てきました。
薬草関係はまあ、栽培すればどうとでもなりますけれど、問題なのは魔物由来の素材。
それがなんと、この新宿大迷宮で回収できる可能性があるのですよ。
おそらくですが2層あたりからはレア素材がゲットできるかもということで、このような質問を行ったのですけれど。
「残念だが、全て日本政府が回収するそうだ。作戦上で入手および回収した素材は全て、
「なるほど。そういう方針ですか」
「まあ、納得がいかないのは分かるが、これも国が決定した方針だ。異議申し立てがあるなら、このあとで聞く。あと、今回の作戦については命の危険が高い。よって、作戦に参加するかどうかについては、各自で決定して構わない。もしも配属変更を求めるのなら、この後で申請するように」
ブリーフィングについてはこれで終了。
私たちは48時間の休暇が与えられ、その間に今後の方針について考える時間がもらえたということですので。
ということで早速、有働三佐の元に向かいます。
だって、自分のものにならないのに、手伝う義理なんてありませんから。
すぐさま大本営に向かい、有働三佐に面会を申請。
そして執務室に案内されました。
「如月三曹か。次の任務についての質問か? それともなにか相談でも?」
「いえ、私は第二次新宿大迷宮の調査部隊から辞退します」
「……ん?」
はい、有働三佐の目が丸くなりました。
そりゃそうですよね、ダンジョンの生き字引といっても過言じゃない私が作戦を降りるって話しているのですから。
ゴブリンを始めとするダンジョンに出現するモンスターの魔法膜をはがせるのも私だけですから、それが無くなるということは最悪、全滅の危機だって考えられますからね。
「待て、君は魔導編隊の隊長だろ?」
「はい。ですから隊長も辞任します。今回の方針については納得していませんので。もしもこれが認められないのであれば、自衛隊員を辞めても構いません。その場合はアメリカに引っ越しでもして、のんびりと過ごす事にしますので」
「何故そうなる? ちょっと短絡過ぎないか……」
まあ、短絡過ぎるでしょうけれど、今回の日本政府の決定については疑問しかありません。
まず一つ目、危険な存在であるダンジョンを国が管理する、それについては問題はありません。
だだ、それが可能なのは出現するモンスターを定期的に間引けるだけの力があればこそ。
現状の魔導編隊でそれは可能ですけれど、私のバックアップありきで考えられていることが見え透いています。
そして二つ目、素材の完全回収。
モンスターの素材その他は全て、討伐した者がその権利を有するというのがあっちの世界の基本的ルール。まあ、ここは地球なのでそれが認められないというのは分からなくもないですが、それを私が使えないというのは些か問題があります。
私が倒したものは私に寄越せ、それなら手伝うってうことですよ。
この二点を懇切丁寧に説明すると、有働三佐はため息をついています。
「まあ、如月三曹の意見は理解できる。だが、自衛隊という組織としては、上からの命令は絶対だからな。今回の突然の決定についても、かなり強引に話を進めた派閥があるというのも事実だ」
「はい、ですから配属転換をお願いします。このような状態では、この先何があるか分かりません。特にボス部屋攻略から第二階層以降の攻略ですが、今回の決定では、任務というだけでは私自身のモチベーションは維持できません。ただの紙切れ一枚に命を懸ける気なんて、さらさらありませんので」
きっぱりと言います。
すると有働三佐も腕を組んで考えています。
「では、書面にて配属転換申請を提出してくれ。むしろ如月三曹からのその申し出があったことは、予測の範囲内であったからな」
「……はぁ?」
え、まさかとは思いますが、私が反対するって判っていたのですか?
「今頃は、他の隊員たちも配属転換申請を行っていると思われるからな。そもそも、欲の皮に目がくらんだ議員の自己満足に隊員たちの命を掛けさせる気など毛頭ない。腐れ議員の利権など知るものか……ということで、早めに書類を提出して、とっとと休暇を楽しむように」
「はい、如月三曹、休暇を楽しんできます」
笑顔で敬礼して、私は部屋を後にします。
有働三佐も、今回の作戦立案にはお怒りだったようで。
ということで大本営の事務局で書類を……って、うちのメンバーのほぼ全員がいるじゃないですか。
彼らの申請受理を待つこと1時間。ようやくわたしも書類を提出。
事務局の担当が顔を引きつらせていましたけれど、私はしりませーん。
さあ、北海道に戻ってのんびりしようっと。
………
……
…
――翌日・国会議事堂・第2委員会室
第二次新宿大迷宮攻略作戦を控え、内閣府異邦人対策委員会は頭を抱えていた。
先日、魔導編隊によって持ち込まれたモンスターの死体および素材の分析結果、その一連の中間報告書が届けられていた。
モンスターが所持していた金属武器の有用性と魔石、この二点の報告書が最も注目されており、現在の日本における希少資源の回収業に一躍買ってくれる可能性が出てきたのである。
「……この魔石はレアアース17元素のうち、12元素の代用が可能………。そしてモンスターが所持していた金属はタングステン含有量が高い。つまり、あの迷宮にはこれらの鉱脈が存在している可能性があるということですか」
「如月三曹の報告によりますと、鉱脈ではなく自然発生という説明がなされていますが」
「自然発生だと? それじゃあなにかね? この報告書に記されているゴブリン種というのは、このようなレアな素材を手に、何もないところから自然発生するというのかね」
単純に考えても、現代世界でそのようなことはあり得ない、あってはいけない。
無から有を生み出すなど物語では存在しても、現実にあったとするととんでもない混乱をきたしてしまうから。
だが、如月三曹のレポートでは、それが異世界のスタンダード。
ダンジョンでのモンスターの自然発生については、まだその全容が明かされていない。
それならば、この希少素材を定期的に回収できる仕組みを作り出せば、現在の日本における資源枯渇問題も一気に解決できるのではと、話が飛躍し始めるのも不思議なことではない。
「はい。現状では、モンスターの発生サイクルも不明ですが。この素材が第一層で入手できたというのが問題なのです。如月三曹のレポートでは、階層が深くなるほどモンスターの脅威度が高くなり、それに伴って入手できる素材もより上位のものに変わっていくということです」
「これよりも上位……つまり未確認元素とか、それに準ずるものということか」
「はい。それと、最下層に存在するダンジョンコア、それの支配権を書き換えられるならば、ダンジョン内で入手できる素材や環境も大きく変えられるということですが」
つまり、国でダンジョンを支配すれば、どのような素材も自由に入手することが出来る。
この説明だけで、その場に集まっていた議員たちの顔もほころび始める。
自分たちに忖度している企業や後援会にも、より強力な権力を振るうことが出来る。
そう考えるだけで、今後の展望についても明るい見通しが見え始めていると錯覚していたが。
「それで、明後日の第二次新宿大迷宮攻略作戦では、どれだけの部隊が参加できるのかね。できるだけ大量の戦力を動員して、出来る限りの資源を回収してきて欲しいものだよ、我々のために」
「はい、現時点では魔導編隊は休暇ということになっていますが。すでに大本営からは部隊の再編のために作戦期間の延長が行われたという報告が届いています」
「再編? それはどういうことかな?」
「魔導編隊の隊長である如月三曹が、今回の作戦について異議を申し立て、部隊から降りました。それに伴い、第一次新宿大迷宮攻略作戦参加者たちも、全員が配属転換を申請、それが受理されたそうです」
――ガタッ
その報告を聞いて、委員会の中心議員が立ち上がる。
「ふ、ふ、ふざけるな!! そのようなことが認められるとおもっているのか?」
「まあ、そもそも魔導編隊は陸上自衛隊の第一空挺団所属です。つまり防衛省管轄ですので、この申請は普通に認められていますね。特殊作戦における部隊の再編、及び配属転換申請は自衛官に認められている権利ですから。なお、新宿大迷宮攻略作戦については、如月三曹の魔術があってこその作戦および部隊編成だったそうですので、現状は作戦の維持は困難であるという報告も届いていますが」
「そんなこと認められるか!! いいからとっとと如月三曹を作戦に引き込め。どんな手を使っても構わん」
「ああ、もしも強権を発動して強引に作戦に参加させるようなことがあった場合、如月三曹はアメリカに移住するそうですよ。最悪の場合、魔法の箒でアメリカまで飛んでいって亡命するそうですが」
――ドサッ
自衛隊に配属させてしまえば、あとはどうとでもできる。
そう思って如月弥生を自衛隊に編入させ、彼女の持つ魔法の力を好き勝手に自分たちのために使わせようと考えていた委員会だが。
ここにきて掌を返すどころか、360度捻られた感じである。
「何故だ……我々は彼女の我儘を通すために法案まで変更したのだぞ……まあ、元々変更する予定だった部分に彼女の名前を出して強権を振るったのは事実だが……そこまでやってあげた我々に牙を剥くというのかね」
「いえ、そもそも彼女にとってはダンジョン攻略の旨味がないそうです。回収資源のすべてを国が接収するというう時点で、やってられないと」
「当然だな。任務中に入手した希少素材は国が効率よく管理する、それの何が間違っているというのかね?」
「命を賭けるほどではない、ということだそうで。そして彼女が降りることにより、生存確率が3割を切ったというシミュレートデータもあるため、他の隊員たちも転属願いを……という流れです。そもそも管轄が違うため、こちらとしては強制できません」
淡々と説明する事務次官。
結局、この日はまともな話し合いになどならず、防衛省からの追加報告を待つため会議はこれで終了した。
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