第29話   開き方(性描写有)

 どうしてさぁ、毎回毎回あんなに臭くて熱くて、ぬるぬるしてて、とてもリラックスなんてできないお湯に浸からなきゃならないんだろうって疑問に思ってたけどさぁ、聞いてみたら、サフィールがあっさり教えてくれたよ……。


 どこの誰ともわからない、何を食って生きてきたのかもわからない、半分妖精に侵食されてる得体の知れない人間から、いろんな体液を採取したり、ぶっかけられたり、それが髪に付着したり、目に入ったりして、それらにどんなバイ菌が入ってるかわかったものじゃないから、検査に参加した三人は、薬草風呂に丸ごと体を入れて、消毒してたんだってさ。ついでに気絶した俺も洗ってた。俺たちが脱いだ服は脱衣所にて使用人が回収して、薬草で黄緑色に染まったお湯で何度も洗濯してくれてるんだそうだ。


「あなたと初めて中庭で会ったときのドレスも、洗われてるうちに型崩れしました」


 サフィールが口をとんがらせて愚痴ってきたけど、それ俺のせいじゃなくね? 不可抗力じゃんかよ。


 検査が一段落して、今回は意識もちゃんと保ってて、眠ってもいなくて、俺も自分の成長を感じた。この後は、どうせあのくっさい風呂なんだろ? じゃあ俺のこの手足を固定してるロープも、解いてくれるんだよな。


「二人が勝手に作ったこのカルテは、その後、手を着けていないようだね」


 え? おい、もういいだろカルテは。助手に確認させんな。片付けて俺の拘束を解けよ。


「はい。検査対象で遊んではいけないと、お兄様に言われましたので」


 そう言えば、俺の変な数字をメモしたカルテを作ってたんだよな。で、それがバレて王子に締められたんだっけ。アレ以来、助手二人はおとなしく普通(?)の検査に従事している。


「お兄様のために、調べたんです。きっといつか、近いうちに、お兄様に必要になると思います」


「なんでだよ、要らねえだろ、どう考えても」


「ふふ、どうして私とイオラをくっつけようと考えてるのか、よくわからないな」


「俺もだわ」


「僕たちは遊んでいたわけではありません。もう一度、僕達に調べる許可をいただけませんか」


 目をうるませてお願いするな! なんなんだよ、この助手どもはよ。一挙手一投足の意味が全くわからんわ。


 王子も悩むなよ! 「うーん」じゃねえよタコ!


「イオラの例の臓器も、少しずつ縮んできてるから、このカルテの数字も古くなってる。参考にしちゃダメだよ」


「もちろんです、お兄様。再度僕とノワールで、一ヶ所一ヶ所丁寧に、グリグリと圧を掛けて調べ直します」


 ぜってえ痛え。すでにその擬音が痛え。


「どの器具が一番気持ち良がるかも、しっかり書き記します」


「おい王子、そのカルテは医療行為に必要ないんだろ。お前も仕事で暇じゃないんだし、助手の遊びに付き合う暇あったら、横にでもなっとけよ」


 俺なりに気を遣って言ったつもりだった。だって、本当に忙しいって言ってたし……。


 ……おい、なんでみんなしてシーンとなってるんだよ。何か言えよ、不安になるだろ。


「イオラ……」


 金色の眉根を寄せながら、王子が俺の顔の横まで来て、枕の横に片手を付けて俺の顔を覗き込んだ。


「な、なんだよ……」


「……」


「ちょ、怖えよ、何か言えって」


 ……ん? ちょっと待てよ、俺は今、どんな顔してる……?


 なんでこいつは、こんなにも嬉しそうに笑って……あああああ!! しまった! こいつは俺が泣いたり嫌がることするのが大好きなんだった!!


「サフ! ノワール! 私が間違っていたよ。イオラも、自身に起きている異常は深く知っておくべきだ。そしてそれらを安全に調べる事ができる人材は、我々三人の有志を除いて他にいないだろう。この巡り合わせには、双方ともに感謝しないとね」


 早口! ノンブレス!


「ちょうど私も同席してることだし、今ここで調べ直してしまおう!」


「はあ!? 今ぁ!?」


「はい、お兄様!」


「ふっざけんな! おまっ、時間は!? 忙しいんじゃねえのかよ! 王子様だろ!?」


「ああ、目が回るほど忙しいよ。でもイオラが癒してくれるんなら、今日は朝までたっくさん仕事が捌ける気がするんだ」


「徹夜すんな! 寝ろ! 今すぐ!」


 力の限り暴れてベッドをギシつかせる俺の口に、ノワールが包帯を丸めたヤツをズボッと突っ込んで噛ませてきた。


「医療従事者への暴言・暴力はおやめください」


「むぐぐー!!」


 素人ヤブ医者集団が、医療従事者だぁ!? くっそ、これじゃしゃべれねえ!


「サフ、このカルテには一番の器具を使った記録が無いけど、何か理由があるのかい?」


 え? 一番の器具???


「はい。二番目に太い器具でも痛がるので、一番のは挿れませんでした」


 太さの数字かよ!


「そっかそっか。一番をまっすぐ突っ込むだけだと、そうなるだろうね。一番と十二番、用意して」


 何番あるんだよ! おい、なんで両手持ち……うーわ! 一番の器具ゴボウくらい太さあるじゃん! それもう細かい作業に向かないだろ、怖えよ!


 だあああ! サフィールはネジを広げ直すなー!


「ネジの締め具合、上達したね」


「はい! 練習しました」


 あっ……二本ともいっぺんに挿れるな、そして別々に動かすなぁっ……んっ……そ、そこやだ、変な感じがする、金属の棒が冷たいんだよ〜!


「まずは十二番を使って、卵の出口前に密集してるヒダを掻き分けて……見えてきたピンクの粘膜を、一番の先端で丸く縁取るようになぞってあげると――ほら、だんだん奥が開いてきた。もう少しなぞってあげようか…………イオラ、中が痙攣してるけど、まだ大丈夫だね? ゆっくり息して、じっとしててね…………はい、開いたよ。これで一番が、奥深くまでしっかり挿いった。なぞるときに引っ掛かると痛いだろうから、潤滑油をたっぷり使おうね」


「お兄様、イオラが激しく吹いているせいで、一番の先端のハマり具合がよく見えません。もう一度引き抜いて、ヒダの辺りからお願いいたします」


「サフ、王子……イオラが白目剥いて痙攣してるから、やめてあげよう」


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