第28話   縮んできた

 俺は夕飯どきになっても、なんにも食べたいと思えなくて、助手二人から一緒に食べようとお盆で運んでもらっても、口に入れてしばらくはもぐもぐした後、ぺって吐き出してしまった。


「ごめん、なんでか食べ物が気持ち悪く見えるんだ。のどが飲み込もうとしてくれない……」


 森の水が恋しく感じる……でもきっとアレを飲み続けるのもヤバかったんだろうな、我慢しないと。


 特に空腹になりもせず、歯を磨いて顔を洗い、そして「念のため」にとあのストロベリーなベッドに縛り付けられて眠った……日本の病院で入院してたときの五百倍は過酷に感じる……。


「おやすみなさい、イオラ」


「サフとボク、ベッドの下で寝てるから、お手洗い行きたくなったら呼んでね」


 そう言って二人して、枕持ってベッドの下に簡易ベッドを広げてゆく……俺知ってるんだぞ、狭いベッドで抱き合うようにしてスヤスヤ寝てること。たまにノワールがくすぐってきて、サフィールが慌てて注意してる声とか、しっかり聞こえてるんだからな……。


 城に来てから三日目になるけど、お手洗いに、下半身がうずく気配もないし……俺の体、どうなっちゃったんだろう、元に戻るのかな……。


 寝返りが打てないだけで寝心地最悪になるけど、ベッドがふっかふかだから、案外入眠は早かった。



 で、まーたお師匠様とキスしてる夢見たよ、もう勘弁してくれよぉ。それも今度は俺から、たくましい太い首めがけて抱きついてからのディープなヤツだった……これ絶対に俺が見てる夢じゃないよ、なんか、こう、何か変な力が働いてるとか、そういう魔法的な何かで無理やり誰かの記憶を再現させられてる感じがする。


 そう言えばこの城の中庭に、アルエット王子のお墓があったよな。何度も意識ぶっ飛ばされてたせいかド忘れしてた。あの中庭のお墓のこと、三人に聞いてみないと。きっと俺の見る変な夢は、あのお墓の呪いじゃないかな。俺はお師匠様の後妻になるつもりなんてないのに〜呪わないでくれよ〜。



「イオラが食べた!」


 朝ごはんに付いてたクッキーみたいな焼き菓子を、ノワールがくれた。なんだか食べられそうだったから一口かじるなり、大騒ぎされた。


 すぐにジャージ白衣の王子と、サファイア姫に着替えたサフィールも駆けつけてきて、俺の今の体調と、他にも何か食べられそうか問診されて、ホットミルクみたいなのを持ってきてくれた。なんか、中にマシュマロ? みたいなブツブツが入ってて、しかも乳臭くてすげー飲みにくかったけど、この国の子供が好きな飲み物一位なんだってさ……そう言えばここ、異世界だったわ。うう、ヨモツヘグイとかに当てはまらなきゃいいけど……。


「なあ、あんたらさ……なんで見ず知らずの俺を、こんなに気にかけてくれるの?」


「気に病む必要は全くないよ。我々はデータが欲しいだけだから。それと、少しでも君のご機嫌を取っておかないとね。これからいろんなところの、いろんなモノを、検査のために採取するんだから」


 やっぱりかよ! なにか友情的な感情とか、ちょっとでも仲良くなれそうかなって思っちまった俺がバカみたいじゃねえかよ! 恥ずかしい事されてるんだから、少しでも安心し合える関係性を築きたいんだよ俺は!


 王子は仕事が押してるからと、姫の部屋を出て行った。昨日、風呂で俺の検査のとき参加したいって言ってたな、そのために今から午後の分の仕事も片付けたいのかも……。


 そ、そこまでして、俺の奥が気になるのかよ……。なんか、早く挿れたがってるみたいで、けっこう恥ずかしい、かも……。


「イオラ、あなたのおかげでこの世界に革命が起きるかもしれないのです」


「え? 俺なにかやっちゃった?」


「いつもすごい量を出して我々をネチャネチャにするイオラの様子を見て、お兄様がゴム製の避妊具が製作できないかと思いついたのです」


「ええ!? この世界、避妊具ないの?」


「避妊薬なら、ない事もないのですが……使用すると、かえって滑りが良くなって熱中するカップルが増えてしまい、その結果、回数が増えて妊娠率が高まっています」


「それ意味ねえじゃん。避妊薬使ってベビーラッシュ起きてるじゃん」


「迅速な解決が望まれておりましたが、あなたのおかげで、なんとかなるかもしれません。僕たちも毎度ぶっかけられて屈辱でしたので、少しでもモトが取れるなら本望です」


 屈辱を受けてるのは俺のほうだと思うんですがね。


 それにしても、俺のぶっかけが世界の文明力を上げただと……? これ後々に世界中の出生率に影響しないか? ヤバくね? 俺、知ーらねっと……。



 検査の時間だと、サファイア姫が言う。王子様も参加だ……。


 器具に印を刻んで、ここまでの距離にナニナニがあるぞと、俺にも一目で分かるように工夫してる……。おかげで奥まで突っ込まれ過ぎて激痛を伴っていた検査も、かなりマシになった。


 助手二人も、手慣れてきたな。てきぱきと数字を声に出してる。グリグリしてた検査の時間が、ほんの少しだけど短くなった気がする。


 俺もカルテを見せてもらった。以前サフィールから難しい専門用語を教えてもらってたから、けっこう理解できてしまった。現在俺の胎の中には十六センチもの腫瘍ができていて、今か今かと子種が注がれる瞬間を待ち侘びてピクピクしてるらしい。


 今までの俺が飲まず食わずで野生の森に半ば野宿のような、ありえないほど強靭的に生活できていたのは、全部この胎ん中の、卵を生成できる器官のおかげだったんだって。聞くだけでヤバイ器官だってわかる……人間を内側から人外に変身させてゆく、恐怖の腫瘍だった。


 森の主の魔力の塊が、胎に蓄積されて発生するのではないかと王子が見立てている。俺も、なんとなくだけど同感だった。


 ……んで、今日も胎のモツを調べられてるわけだが、三センチほど縮んできたらしいぞ。


「おめでとう、イオラ! このまま縮んでいけば、完治はすぐそこだ!」


 主治医気取りの王子様いわく、これからどんどん縮んでいくと、固くなって広げにくくなったり、滑りも悪くなってゆくだろうから……冷たいローションをジョウゴみたいなので注ぎ挿れられた。いきなりやると体がびっくりするから、今日から少しずつ慣れさせるんだってさ……。器具が動き回るたびに水音が激しく聞こえて、耳に全身に響いて、それで俺自身が興奮してしまうのだから恥ずかしくてたまらない。


 何度目かのぶっかけにノワールがキレだし、休憩に入ろうと王子が仕切った。


「お前、俺を診察してる間、ずっとその本見てるよな」


「うん? これが気になるのかい?」


「その分厚い本には、俺と同じく森の妖精に体をいじくられた人間の、体のいろんな部分が記載されてるんじゃないのか」


「ご名答だ。私が見比べているのは、この本に載っている人物の解剖図と、君の生殖器官だよ」


 う、生殖きかっ……言葉にされると結構クるな。三人がかりで人の胎ん中おっ拡げたり、真剣な眼差しで器具突っ込んでほじくったり……俺だって、出したくて毎回出してんじゃねっつーの……。


 ひっ……! びっくりした、変なトコいきなり挿し込むなよ 今は休憩中だろが!


 ……おい、いつまで掻き回してるんだよ ソコ、足も腰も痙攣するくらい気持ちぃから やめろ!


「おい、もう、奥やめろって……また掛けられたいのかよっ……んっ……あぁっ!」


「イオラ、今刺激してあげているココの内側は、最初に診たときはもっと膨らんでいて大きく、柔らかかった。おそらく、その柔らかい部分で優しく相手に絡みつき、大事に包み込んで離さないためなんだろう」


「それが、なんだよ」


「現在その部分は、少しずつだが縮小し、今じゃ我々三人のうち誰が中に入っても、君に締まり良く締め付けられて搾り取られてしまうだろう」


「ひっ、こんな状況で、んなこと言うなよ……こっちは縛られて動けないんだぞ……」


 患者かオモチャとしか見られてないと思ってたのに、急にそんなこと言われて、ゾクッときた。雌化が中途半端に進んでいた俺の体を、男三人が毎日好き勝手してるんだよな。なんで今まで気づかなかったんだろう……こいつら三人が結託すれば、いつでも俺を犯せることに。


 けっきょく、また出させられた……。王子のゴム製のフェイスガードがもうベタベタだ。


「君はこの世界に来たばかりの時に、あの森で何をした?」


「え……」


「正直に答えて欲しい。よその世界で生まれた君が、あの森に受け入れられた何かが、あったはずだ。妖精たちから辱めを受けたとか、なんでも良い、教えてくれると助かるよ」


 つ、疲れて、しゃべれねえ


「あの森では、繁殖行為に携わるすべての行為が禁止されている。それでも頭のゆるいカップルが、お忍びで入ってきちゃうから、いっそのこと国の管轄範囲内に指定して、一般人の立ち入り禁止区域にしたんだよ」


 うぅ……説明しなくちゃダメか、これ。泉から浮かんできた俺は、ものすごい低体温になってて、それで、お師匠様が俺を回復させようとして……それが結果的に、俺の妖精化現象を早める行為になったのか。


 以上のことを、しぶしぶ、説明した……。


 なんか、お師匠様の手と無理やり交尾させられたみたいで、めっちゃ恥ずい……それがたとえ、冷えきった俺の体を温めるためだったとしても……お師匠様との痴態を、ルナリアに知られるたび、すっごい悲しくて、恥ずかしくなった。


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