第25話   埋まってゆくカルテ(性描写有)

 ノワールが「煮沸消毒したヤツ」とか言いながら、作業着のでかいポケットから竹の筒みたいなのを取り出して、スポンと蓋を引き開けた。うーわ、あの尖った器具がいっぱい入ってる……。


 俺の怯える視線など気にもせず、色鉛筆を選ぶかのように何本か引き抜いて確認していた。器具の先端から少し下がった部分に、赤いインク? で印のような線が書いてあるぞ。


「なあ、その赤いの、昨日は無かったよな」


「これはイオラの深さや長さだよ。王子が調べて、印を着けた」


「ええ……(ドン引き)」


「気づかなかったんだ。ずっと調べながら、印をつけてたんだよ。これ以上突っ込んだら、ケガするから危ないよって目印になってる」


「お前らマジで守れよな、その線の基準」


 二人にとってルナリア王子は、お師匠様なんだな……ずいぶん面倒見の良いこって。ひとまず、あの過呼吸になりかけたほどの激痛は避けられそうで、ほっとした。でもサフィールが言っていた「気持ちよくする」ってのは、嘘だと思う。昨日よりはマシかもって程度には、痛い思いさせられるだろう、まだ二人とも研修中みたいだし。


「では脱がせていきまーす」


 俺はバスローブみたいな着衣を丁寧にはぎ取られた。ベッドが二人分追加された体重で軋みを上げて、人の股座に、絵本でも読み聞かせる兄弟かのように寝転んで、手袋越しの手でさっそくいじくりだす。


 あーあ、またここでこいつらに好き勝手されるのか……。


「ここから出たいですか」


「へ? なんだよ、いきなり。出たいに決まってるだろ、こんなことされてるのに」


「自由にしてあげてもいいですよ。条件次第ですけど」


「え……マジでか? その条件って、なんだよ」


 どうせろくでもない内容なんだろうが、聞くだけならタダだしな、今は少しでも情報が欲しい。


「それはおいおい説明しますね。まずはデータを取るのが先です」


「そこ一番大事な話だろうがよ! ごまかすってことは、やっぱ良くねえ内容なんだな!?」


「そんなことはありませんよ。イオラにとって、とても幸せなことだと思います」


 こんな所で、どう幸せになれって言うんだよ〜!!



「ああっ! いやあ!」


「僕たちの体には、このような不思議な臓器はありません。でも、あらかた我々と変わらない体の作りをしているから……気持ちいいところも同じか、調べます」


 甲高い悲鳴を上げた自分に、恥ずかしくなって、意味もなく舌打ちした。


「ちょ、なにやってんだよ、同じとこばっかグリグリすんな! ほ、他のとこもやれよ!」


 がっつり墓穴を掘った。


「んっ……ああっ! いやだ! そこほんとダメ! ノワール見てないで助けろよ!」


「サフ、ここ耐えられないってさ。すごく暴れてる」


「カルテに書いておいてください。長さと深さはこのくらいです」


 器具を引き抜いて、指さして長さの位置を示す、サフィール……。ノワールは淡々と、それを書き記してゆく。よく見ると器具には、定規みたいな細かい線が彫ってある……アレで長さを測ってたのかよ。


「では、今度はもう少し太いので広げていきますね。臓器の中に差し込んで確認します」


「いっ……痛い! そこ痛いってば!」


「あ、すみません。深く挿れ過ぎてしまいました」


 謝罪とともに、器具の先端が移動して浅い部分がぐにぐにと押されてゆく。最初は弱くだったのに、だんだん強く押し込んできて、ふいに足が跳ねるほどの快楽が走った。


「っ! ……なんで……昨日の検査と、なんか違うぞ」


「お兄様に言われたとおり、謎の臓器の大きさと深さ、それと、イオラが気持ち良いと感じる場所を、全て調べますのでご自分でも把握しておいてください。それがあなたが自由を手にする条件です」


 これが、条件……?


「サフサフ、中すごいうねってるよ」


「滑りも良くなってきました。お兄様の見立てどおり、刺激されたら誰とでも発情するようですね」


 なっ! なんてこと言うんだよ、こんなの仕方ないじゃんかよ……。俺が、悪いんじゃない……。誰とでもいいわけないだろ、だから森に帰るの嫌なのに。


「誰とでもじゃイヤみたいだよ。ずっと王子の名前、呼んでる」


「お兄様じゃないと嫌だと? ノワール、カルテに書いて」


「はーい」


 な、まえ……? 俺、ずっと誰かの、名前を……?


「イオラ、しっかりしてください。お兄様をココで受け入れる際は、あなたが耐えられない部分にお兄様のが届かないように、上手に腰を動かして位置を調整してください」


「ひぃっ! ヤダ……もうやめて、ルナリア、やだぁ、ルナ来てぇ! なんでいないのぉ……ふええぇん!」


「サフ、イオラが泣いちゃった」


「イオラ、泣かないでください。ちゃんとその口で、どこが良いのか教えてください」


 何度目かのぶっかけに苛ついたノワールが、手でぎゅっと掴んで押さえた。出したいのに出せなくなって、暴れる俺にベッドが絶え間なく軋む。


「もうやだぁ……気持ちぃの怖い~……」


「イオラ、頑張ったらご褒美にお兄様に会わせてあげます。今日の夕方なら、ちょうどお仕事の休憩に入られていると思いますから」


「ルナ……? 来てくれるの?」


「そうですよ。お兄様にたくさん褒めてもらいましょうね」


「うん……」


 俺、どうなってんの。さっきから反応が赤ちゃんみたいになってる……もう誰か俺を殺してくれ……。


 ルナリア王子、なんとかしてくれよ、この二人をよ……。



「サフ、イオラが痙攣したまましゃべんなくなっちゃった。目の焦点も合ってない。喉がヒューヒュー鳴ってる」


「しまった、こんな時間まで。お兄様から、しっかり時間を測って加減もするようにと言われていたのに。僕のミスです」


「でも、いっぱいカルテの欄が埋まった。データ取れたよ」


 ノワールが嬉しそうに、金色に輝く両目で弧を描きながら、カルテの束を見下ろす。


 ズタボロにされた俺は、目が回って最悪な気分でベッドに沈んでいた。だるくて、頭も、動かせない……


「イオラ、可愛い。サフみたい」


「ノワール……浮気したらこの他人のケツ穴をほじくった使用済みの金属棒で目玉を掻き出しますからね」


「ご、ごめんごめん、嫉妬しないでよ。自由になったら、城下町でおやつ買ってあげるから」


 な、に、人の股ぐらで、イチャつい、て、やがんだ、このガキんちょども……


 もう無理 意識が……


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