第20話 捕獲され、いろいろ検査(性描写有)
見知った森のはずだけど、いろんな色の小さな花が辺りにいっぱい咲いてて、風が吹くと紙吹雪みたいになって、何かをお祝いしているみたいに舞い散ってて、キレイだった。
顔を包む大きな手はあったかくて、自然な流れで顔を近づけ、まつげが触れ合いそうになると、まぶたを閉じた。
たぶん、これは夢だ。
どうして、こんなに悲しい気持ちになるんだろう。おっさんにファーストキスしちゃった悲しみとかじゃなくて、これは別の人が受けるべき愛情だったんじゃないかって、そういう罪悪感というか、俺がその人の代わりにされているという複雑な悲しみだった。
ウッ! いっっっだい!!
いだだだだ痛い! ほんとに痛い! マジで痛い、なになになに!? 何が起きてんの!?
飛び起きた俺の体を、何かが押さえつけていた。手足を動かそうにも、何かが手首足首を捕らえていて……俺はおそるおそる辺りの状況を、確認した。
白い部屋、ベッドの上、縄でベッドの金具に固定された手足、そして、ドラマで観たことがある分娩室で赤ちゃんを産もうと踏ん張る妊婦さんそのものな体勢になっていた。しかも無慈悲に、全裸なんだが。
さっきの鋭い痛みは、いったいなんだったんだ……。
ベッドの傍らからカチャンと金属音が鳴った。枕にぴったりと埋まってる後頭部を無理やり動かして見てみると、ジャージに白衣姿といった妙な格好をしているあの王子サマがいた。俺と目が合うと、にっこり笑った。
「やあ、おはよう」
マスクを掛け直し、白い手袋をはめ直して、王子サマはあの輝く太陽のような虹彩で俺に微笑んでいた。マスクも手袋も妙に質の悪いゴム製で、この世界ではきっとこれが最先端なんだろうと思われた。だって王子サマですら、こんなのしか手に入らないんだから。
ジャージみたいな服も、たぶん質の良い普段着なんだろうな。洗えるし、丈夫だし、そう考えると作業着にも向いている。
王子サマがさっきまで触っていたモノを、俺は眺めた。いろいろな先端や太さの、金属の棒が、花束みたいにコップに入っていて、その隣には、消毒液かな、薬草くさい薄緑の液体が入ったコップが置いてあった。薄緑色の中には、たぶん使用済みっぽい金属の棒が何本か突っ込まれていた。
こいつ~、まーた俺の胎ん中に変な器具を突っ込んで、医者の真似事してやがるな。妖精の体に興味津々だな。
何か文句でも言ってやろうとしたが、口には太い布でがっしりと猿ぐつわが。くぐもった呻き声しか、出せなかった。
「君が突然倒れたときは驚いたよ。ざっと診察したけど、脈拍も唇の色も健康そのもので、これといった問題は見つからなかったよ。ひどい寝不足だったのかい?」
「はにゃへ、へんふぁい!」
「ハハ、元気だね」
そっか、俺はあのとき中庭で爆睡して、こいつに回収されて、またどこか知らない部屋に連れ込まれたんだ。お師匠様の角を取り返すどころか、服すら全部奪い取られて、スリープボールで戦おうにも、両手は縛られてるし……もうダメなのかな、俺はこのまま解剖されて、もともとはどんな姿だったのかもわからないくらいバラバラにされて、こいつの城の額縁の中に飾られてしまうんだろうか。
ん……? ベッドの足元のほう、頭が動かしにくくてよく見てなかったけど、誰かいる。金髪と銀髪の頭部が、並んで揺れている。
王子が俺の視線の先に気づいて、ベッドの傍らまで二人を移動させた。王子とおんなじような格好をした、白衣マスクの人物が二人。一人は、あのとき窓から王子の後ろで中庭を見下ろしていた小柄な少年だった。もう一人は……サファイア姫じゃんかよ、なんて所に呼びつけてんだよ、かわいそうだろ。
「可愛いだろう? 彼らは私の助手なんだ。これからいろいろと、教えるところだよ。君もぜひ協力してやってくれね」
助手って……そう言えば、さっき俺の足元でいったい何してたんだよ。いや足元じゃない、俺の胎に器具突っ込んでたのは、こいつらだ! 王子と違ってヘタクソだから、あんなに痛かったんだ。
サファイア姫は長い銀髪を、しっかり後ろにまとめてポニーテールしてる。お前ら医師免許とか持ってないだろ、やめてくれよ~、勘弁してくれよ~。
「お兄様、広げて固定しました」
「うん、ありがt……こらこら、広げすぎだよ。これじゃこの子が痛いだろ。貸して、よく見ててごらん」
三人そろって人の股ぐらに集まって、器具のネジを緩めたり、何本か棒状の何かを引き抜いていった。あぁ、さっきよりはるかにマシになった……けっこうギチギチに広げられてたんだな。
「さすがお兄様です。僕ももっと練習しなきゃ」
もっと犠牲者を出すつもりかよ。ってかサファイア姫の声、けっこう低いな。一人称も僕なのか。
その後、俺の見えないところで、器具が突っ込まれたり、引き抜かれたり、ベッドの横にあったワゴンも引っ張り寄せて、本格的に調べ始めた。
器具が冷てえよ、ぞわぞわしてたまらねえ。
「ここ、どうしたの? 以前診たときはこんなに腫れてなかったよね」
せめて患者が質問に答えられる状況で聞けよ、布で口が縛られててしゃべれねえよ。
腫れてるのは、その……お師匠様との特訓のせいだと思う。さんざん擦り上げられたから……。
「ここ、相当腫れてるね。痛いだろう?」
いっ――!!! だあああい!!!
やめろやめろやめろ突っつくな!! バカ!! 痛いってわかってんなら、尖ったヤツでやるなよ!!
「お兄様、暴れてますよ。やめてあげてはどうですか」
声と顔は無感情っぽいけど、王子サマより優しいな、姫さんは。もっと強く言って止めてくれ。
「んん? そんなに痛かったかい?」
「はい、泣いていますよ。目の端から涙が伝っています」
「そうかぁ、以前はこんなに暴れなかったのに。サフ、氷の用意して。患部を冷やして、感覚を麻痺させてあげよう」
そんな、氷って。学校の先輩がピアス開けたときのやり方みたいだ。しかも、胎ん中に氷入れるの? 腹下すわ!
「お兄様」
サファイア姫が、いちいち使用し終わった器具を消毒するのは効率が悪いのではと、王子サマに提案してきた。彼女の宝石のように青い瞳が一瞬強く輝いたかと思ったら、その手には器具そっくりの、棒状の氷が。
ツララじゃん!! その器具、ツララじゃん!! んなもん腹に突っ込むなよ、腹が冷えて下痢するだろ!!
「これはいいアイデアだね。これなら患部を調べながら、冷やせて麻痺させられるし、洗わずに溶けるだけだから時短にもなるね」
採用すんな!!
「それじゃ、挿れるよ。とてつもなく冷たいだろうけど、我慢してね」
泣いた。
冷たいを通り越して、痛くて泣いた。
この三人、いったい俺の体に何したいんだよ。やっぱり、解剖? 痛覚も意識もある状態で……? 氷で痛覚を麻痺させるなんて、限界があるだろ。麻酔は? この世界に麻酔ってあるのか? まさか全部氷を使って麻痺させて、とか……切開手術するときとか、どうすんだよ、急に前世の世界のがマシに思えてきたぞ。
おい、どこ行くんだよ王子サマ! 見習いにまかせっきりで部屋を出るんじゃねえええ! あ、戻ってきた。何しに戻ったんだよ、無駄な動きをするんじゃねえよ! あ、分厚い本とカルテみたいなのを小脇にしてる。カルテに何か記入し始めたぞ、その真剣な顔が余計にムカツクわ。
う……ヤバイ、氷の器具が変なとこ入ってくる……
「お兄様、腫れてますけど、熟れてるという感覚にも近いです。すごくぬるぬるしていて、抵抗なく奥まで入りました」
「交代しよう。そこから先は毛細血管と神経が集まる、大事な器官だ。少しの傷も許されないよ」
王子サマと交代された……。
ふえ……うぅ……息をこらえるのが 大変だ あったかくて豪快に動く青い指と違って、細く繊細な器具が、胎の中のどこら辺を広げてるのか、わかっちまう……。
恥ずかしくて、それ以上は奥に入らないでほしいと、王子サマを見下ろしたら――すごく真剣な顔で、ちっとも目が合わなかった。
なんだよ、その顔……俺のことオモチャ程度にしか思ってないくせに、まるで、本気で患者に向き合ってるみたいじゃないか。
無理やり指で貫かれた俺を、腫れてるとか、患部とか……ひどいことされたんだって捉えてくれたのが、なんだか……始めて共感してもらえたみたいで、すごく嬉しい。
弟子二人は痛くしてくるけど、その分、王子が気遣って繊細に粘膜を扱ってくれてるのがわかって、余計に……
ふいに飲み物を軽く混ぜるようにしてクルクルと内壁の膜を刺激された。ずっと耐えてたのに――体が 痺れた
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