第14話   よし、出発!

 泉の周りに、小さい妖精たちが集まってた。ちょうどいい、声かけるか。


「よーしお前たち、夕方には出発な」


 意外なことに、気前よく返事をするヤツと「いきたくなーい」とダダこねるヤツの二種類に分かれた。


「アルエット、がんばってー」


「おーえんしてるー」


「なんで今日に限って他人事なんだよ。俺はまだお前たちがいないと、高く跳べないんだぞ」


 自分で言っておいて、かっこわりい。妖精たちがいなくても、ある程度は移動を自由にできるようになりたいよ。だってこいつら一目散に逃げるし、俺だけ置いていかれるし、そうなったら森にも徒歩で帰らなきゃならないし。


「まあ無理にとは言わねえけどさ、いいのかなー、何か楽しいモノがあっても、お前たちには教えてやんねー」


「えー、ずるーい! ボクらもついてくー」


 へへー、お前たちの扱い方なんてとっくにマスターしてんだよ。


「でもアルエットがきもちよかったら、おいてくね」


「なっ、気持ち良くってもおねだりしてても置いてくなよ! 一緒に逃げるぞ!」


 俺はいつまでこのネタをいじられ続けなきゃならねえんだよ、ちくしょー……。


「それに俺は、手ぶらでも魔法が使えるようになったんだ。今度あのオレンジ野郎にとっ捕まったって、自力で抜け出せるぜ!」


「きもちいのに、にげちゃうの?」


「きっ、よくない! ぜんぜん気持ちよくない!」


 思い出させるな! でかいヤツらに手足押さえつけられんのって、めちゃくちゃ怖えーんだからな。


 ……さて、いつまでも妖精たちにからかわれ続けてても仕方ねえし、俺は腰ポシェットに挟んでた手配書を引き抜いて、広げた。


「さっそくだが、大ざっぱに段取りを決めておくぞ。途中まではオレンジ野郎の思惑通りに動くふりをしないとな。……で、この手配書の二人、今どこにいるんだろ。オレンジ野郎もさー、人にモノを頼みたいなら、もうちょっと情報よこせよな」


「カミのはんたいがわ、いろいろ書いてあるよ」


「え?」


 裏側まで見てなかった。ひっくり返してみると、結構詳細に書いてあった。うげえ、細けえ文字〜。矢印の絵もいっぱい描いてあるぞ。意外とマメだなあいつ。


「あ、本当だ。なになに~? ……その一、城の中に入ること。そのニ、壁に矢印を貼ってあるから、その通りに進むことぉ……? もっとでっかい字で書けよ、めっちゃ目ぇ凝らさないと読めねえじゃん」


「アルエット、じがよめるのー?」


「すごーい! ボクら、絵でしかわかんなかった」


 たしかに、矢印の絵がたくさん描いてある。たぶん、手配書に描かれた二人のいる部屋までの、道順を示しているんだろう。もしも俺が、文字の読み書きできない場合に備えて、あいつが用意したのか。


 ちなみに俺が読み書きを会得できたのは、そのへんの看板とか、街の観光施設の紹介文を、人間に読んでもらって勉強したからだ。詰まらずに読めるようになるまで三年もかかったけど、やっぱり字は読めるに越したことないよ。あの森や池が立ち入り禁止になってることも、字が読めなきゃわかんなかった。


「アルエット、よんで~! ぜんぶよんで!」


「わかったわかった、今から読んでやるから、お前らもなんとなく把握しといてくれよな」


「はーい」


 って言っても、こいつらピンチになると俺を置いて逃げるからな。あんまりあてにはしないでおくか。


 裏っかわの文章には、まだ続きがあるぞ……ふーん、女の子のほうは、サファイヤ姫っていうのか。そう言えば、街の中にある公園の花壇に、サファイヤ姫が名付けた花があったよ。花の紹介文を載せてる看板があって、そこで名前が出てた。


 もう一方の男のほうは、ノワールって名前だ。サファイヤ姫の護衛なんだってさ。常日頃からお姫様を影で支えているらしい。つまり、日中はどこかに隠れて仕事してるってことか。俺に、探せって? 隠れてる場所は……あー、ちくしょう、そこまでは書かれてないや。


 え? 一国のお姫様を、その護衛ごと捕まえて、国外に追放しろって……? あいつ、とんでもないこと俺に依頼してるよな。え~……これ、俺にできるのかなぁ、二人とも大勢の真ん中にいそうな重要人物だし、俺と妖精たちだけで、なんとかできるのか? 成功ビジョンが、全く目に浮かばない……。


「アルエット、おしごとできそう?」


「アルエット、おししょーさまのツノ、とりかえせそう?」


 うーん……なんて返事しよう。


 まあ、あそこまでコケにされて押し付けられた仕事だ、自信ねえなんて言えないよな。べつに期限とかは書かれてなかったけど、このままダラダラと過ごしていたら、一向に角が返ってこないし。


 ん? 一匹もじもじしながら近づいてきたぞ。


「アルエット、いそいでおぼえた魔法だから、しっぱいすること、あると思うの。ぜーんぶボクらにおまかせしてたほうが、いいと思うな」


「お前ら、相手を眠らせる魔法は使えるのか?」


「んっと、まだできないよ。おししょーさまと、ツノをもってるアルエットしかできないの。ボクらができることって、とうめいになって、おうちに入っておいしいおやつを食べることだよ」


「ネズミ取りに引っかかるなよ……」


 話はそれで終わりかと思ったら、まだあるらしく飛び跳ねてきた。


「おししょーさま、おめめ、紫にピカーッてなるの。アルエットも、だんだん紫になってきたの。おめめピカーッてならないとき、魔力なくなってるあいずなの。森にかえろうね」


「そうなんだ? じゃあ、俺の目の色が光らなくなったら、教えてくれよな。自分じゃ鏡とか見ないとわかんねえからさ」


「うん、わかった。おぼえてたら、おしえるね」


 おぼえてたら、って……俺的に死活問題なんだけど、わかってるのか? こいつら。


 それにしても、目の色かぁ。最近、胎しか意識してなかったから、全然気づかなかった。


「よし、これから段取りとか、いくつか作戦を立てておくぞ。ちゃんと覚えろよー、お前たち」


「アルエットが真っ先にわすれたりしてー」


 う……あり得そうだから、困る。いざ予想外の事態に陥った時、パニくる予感しかしない。


 でも俺一人なわけじゃないし、一応はこいつらも力になるって言ってくれてるし、何とかなるっしょ……うん……。


 作戦は~、俺的にはもっと細かく決めておきたかったんだけど、妖精たちが途中で飽きたとか言い出して遊びに行ったり、うとうとして寝始めたりと、けっきょく大雑把にしか決められなかったよ。大丈夫かな~……。


 まあ、行くしかないか。臨機応変に作戦も変えながら、それでダメだったら逃げの一択だ。


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