第7話   説得(性描写有)

 太陽みたいなオレンジ色の両目が、ぎょろりと俺に振り向いた。


「……どうしたの? もしかして、アレとっても大事な物だったりする?」


「そ、そんなこたぁ、ねえけど」


「じゃあ割るけど、いいよね」


「あああ! だめだめだめ! 絶対だめ!」


 あ


 しまった!


 ヤツがにんまり笑ってやがる……。


「それじゃあ、とっても大事に、そして厳重に、我々で管理させていただくよ」


 あああああ! もう俺ってなんでこんなに頭悪いんだよ、もう。


 さて、と短く言って話題が切り上げられた。暖かい不思議な両目が、一気に冷たくなる。


「君は仕事を引き受けてくれるね?」


「やだっつっただろ。さっきも言ったけど、俺は――」


 いきなり胸に手ぇ伸ばされて、びっくりした俺は、その先の言葉が続けられなかった。


「まだ本気出さないんだ」


「ちょっ、くすぐったいん、だけど……」


 ときおり指が触れる、ピンク色した先端部が、その、くすぐったさの上位版っていうか、気持ちいい、かも……? 上手く言えないけど、変な感じする。


 きゅっと摘まれて、息が漏れそうになったのをぐっと飲み込んで耐えた。


「っ……あんた、マジでなにしてんの」


「ん〜? 雌雄同体なのかなぁと思って。でも、乳腺の発達は確認できないな。あ、そもそも君の体は成熟してるの? 何歳から大人なの?」


「え? えっと……わかんねえよ、そんなの」


「私の持論だけど、下半身がしっかり反応するようになったら、大人の仲間入りができてると思ってるよ。君はもう大人なのかな」


「わ、わかんねえよ、俺まだ、三歳だし」


 こっちの世界に来てから、そういうの、全く意識して生活してなかった。あんなにあった俺の性欲、どこいったんだ? 前世の世界に置いてきたのかな、性欲って置けるんだ。


「へえ、三歳でここまで大きくなるのか。この機会に、いろいろと調べさせてもらうよ」


「はあ? 俺の体なんか調べても、なんも変わったことなんかねえよ」


 なっ!? え!?


 なんのためらいもなしに、あいつの手が……


 や、やだ、怖い……! 手ぇ離して、お願っ……!


 しっかりしろ俺、泣くもんか、絶対にこんなド変態どもの言いなりになんか……うぅ……


 ふええ……なんで他人の手で、しかもこんな知らないヤツら大勢に凝視されながら……もうやだ、涙が堪えきれねえ……


「ああ、もう泣いちゃった。やめてあげてもいいよ。その代わり、私のお仕事を引き受けてくれるね?」


「お、まえ! なんで、こんなことがっ、平気でできるんだよ!」


「断るなら、私のために心変わりしてくれるまで、この人間そっくりの肌にし続けるけど、構わないよね」


「え……ど、どういう、意味だよ、肌に説得って……」


 ほんとはもう、半分くらい、意味わかってる。


 こいつだって、気付いてるだろ、ガキじゃないんだから。なのに、丁寧に体に教え込んでくる……


 ……満足そうに手のひらを眺め、戦利品に鼻を近づけてゆくド変態。


「なんだ、この色も人間と変わらないんだ。量も匂いも。つまんないな」


 ああまたっ……なんで俺、こんなことされて……俺が何したって言うんだよぉ!


 怖い、もうやだ ほんとに怖い 誰か 助けて――


「震えてる。怖いのかい? 誰もいない夜道や、寝不足で弱ってる人間相手しか、強気に出られないのかな?」


「は……? んなわけねえじゃん! 俺は弱い者探しするために夜道を歩いてるんじゃねえ! 俺はただ、たくさんの人間をぐっすり眠らせてやりたいだけで――」


「そう、怖くないんだ。君は強いな、そしてとっても優しいんだね。みんなが君を好きになる日も近いだろう」


 な、なんだこいつ、急に褒めてきて、気持ち悪い。


「それじゃあ私の願いも叶えてくれるかな。毎日の悩みが減って、安眠できるからさ」


「い、いやだ!」


「それじゃあ、君の体の気になる部分、ぜーんぶ調べさせてね」


 ひいっ!


 目隠しされた!


「手がべたべたでふやけてきたから、道具を使うね」


「ど……」


 全身の血の気が引いて、言葉が、出なくなった。


 この日、俺は初めて羞恥で泣き叫んだ……。



「もうやめてください! たとえ相手がバケモノであろうと、やはり子供相手に拷問して泣かせるだなんて反対です! 私は最初からこの作戦には乗り気ではありませんでした!」


 部屋の外から、扉が激しく叩かれている。靴屋のおじさんの声だ。


「子供だってさ」


 目隠しが取り払われた。


 床に転がる俺の上に、オレンジ色に輝く両目が弧を描き、俺の首に手をかけるような素振りをしながら、口角を吊り上げてきた。


 息も絶え絶えになっている俺には、誰かが手足を押さえつけている必要も、なくなっていた。


「このはしたない姿を見ても、彼の目には子供に見えるかな?」


 もう、誰か殺してくれ……。そして二度と転生なんかしたくないぃ……。


「わ、か……た……引き受け て やる……」


「ありがとう、イイ子だね」


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