第8話   このままで終われるか!(泣)

 めちゃくちゃな拷問の最中、何度も眠くなって、記憶が途切れ途切れになってた。なんか、ヤバいことも口走っちまった気がする……。


「あ、おかえりー」


「しんぱいしてたんだよ、アルエットー」


「だいじょぶだったー?」


「かおあかーい、どしたのー?」


 ぐぬぬ、やっぱりだ。こいつら先に帰ってやがった。こちとら心身ともにズタボロにされたっつーのに、木漏れ日の下で眠そうにしながら出迎えてきやがった。なんとなくそうだろうなぁとは思ってたけど、いざ目の前にすると怒りで体が震えだす。


「お・ま・え・ら〜! 勝手にいなくなるから、俺は魔法が使えなくてひどい目に遭ったんだぞ」


「どんなめー?」


「どんなって、いっ、言えるかよ!」


 なんであいつガーゼだのローションだの変なのばっか持ってるんだよ! う、噂だけなら前世で知ってたけど、気持ち良すぎてクセになるって聞いてたから、興味こそあったけど試すのは怖くて避けてたのに……。


 あのオレンジ野郎、最初から俺の体をいろいろ調べるつもりだったんだな。いくらなんでも道具の用意がよすぎる。


「アルエット、ズボンはー?」


「なんでクロのシャツしかきてないのー?」


 王子サマの予備の着替えなんだとよ。着てた物は全部、あいつらに盗られたんだよ! お師匠の角まで!


 俺は「説得」されたことは秘密にしておいて、お師匠の角を盗られてしまったことを妖精たちに話した。厄介な仕事をこなさなきゃ、取り返せないらしいことも。


「てはいしょー?」


「みせてみせてー! どんなのなのー?」


 そっか、妖精たちと仕事するんだから、こいつらにも見せておかなきゃな。


 俺は片手に持ってた手配書を、しゃがんで地面に広げて、妖精たちに見えるようにした。


「きれーい」


「かわいいー」


「おメメかっこいいー」


 持ち物も着衣も全部奪われて、この変な手配書だけ押し付けられてきたけど……男の人? と女の人かな……この二人を国外まで連れ出して、そのまま二度と国に戻らせないようにするだなんて、んなこと見ず知らずの妖精の俺に頼むかあ? あんなムキムキの兵士が雇えるんだったら、力ずくでもこの二人を捕まえて、遠くに運び出せばいいじゃんかよ。


 俺にしかできないことって、どういうことなんだ? 俺はあっけなくあいつらに捕まったり、一人じゃ魔法だって使えないのに。誰にもどうにもできないこの二人を、どうやって対処すればいいんだ?


 ……って、ぐだぐだ考えてても仕方ないか。お師匠の角も人質にされてるし、こうなったらやるだけやってみるか。案外、俺の「企み」があっさりと上手くいくかもしれないしな。


 でも、この手配書の二人、ほんとに目力がすげえな。魔法で寝てくれるのかな〜。どんなことがあっても、目をカッ開いて耐え抜きそうな貫禄があるんだが。


「アルエット、おしごとがんばってねー」


「お前たちも来るんだよ!」


「えー」


「安心しろよ、真面目に仕事なんかする気ねえから。このまま言いなりになんてなるもんか! あのオレンジ野郎の頼みなんて、願い下げだね」


「じゃあ、おししょーさまからもらったツノは、あきらめるの?」


「ハッ、まさか! 角も返してもらうし、あいつの鼻っ柱もへし折ってやるんだよ」


 よくわからない、と言わんばかりに一斉に小首をかしげる妖精たちに、俺はカンペキだと自負する「作戦」を伝えてやった。


「あのオレンジ野郎からの頼みは、途中までは聞いてやるふりをして、それで追放されたと思わせておいた二人を、こっそりオレンジ野郎のもとに返すんだ。あの野郎がまんまと角を返してくれたら、俺たちだけ森の奥深くに逃げるんだ。あいつの悔しがる顔が見れないのは、めちゃくちゃ残念だけど、まぁあんまり深追いするとまた捕まっちまうからな」


「なるほどー。とちゅうで、やくそくをやぶって、にげちゃうんだね?」


「いいのー? アルエット、もっかいつかまらなくて」


 え?


「な、何言ってんだよ、捕まらないに越したことないだろ」


「そーなのー? アルエット、つかまってクチュクチュされるの、ダイスキじゃないのー?」


 ……はあ? なに言ってんだ、こいつ。あの時、妖精は全員俺を見捨てて逃げたはずじゃ……


 あー! そう言えば一匹だけ、靴屋の家具の下に隠れてたな!


 それが、こいつかよ! 俺が拷問されてるところ、ずっと観察してたのか!?


「えー? なになに? なにがあったのー?」


「えっとねー、アルエット、さいしょはヤダヤダーって言ってたんだけど、だんだん『もっかいシて』『そこきもちぃ』っておねだりしてた」


「そこって、どこー?」


 俺はそいつだけガシリと片手で掴むと、もう二度と戻ってくるなとばかりに遠くへブン投げた。


「記憶にねえ! 俺は絶対にそんなこと言ってない!」


 やべぇ、言った気がする……。こっちの世界に生まれ変わってから、全然そんなことしてこなかったから、なんか久しぶり過ぎてかなり盛り上がってた気がする……。しかも途中で寝落ちしまくってて、理性とかだいぶ飛んでた気がする。


 うぐおおお! 誰か俺を殺してくれー!!


「もう決めた! 絶対決めた! あのオレンジ野郎の言うことなんか絶対に聞いてやらない! どんなことがあっても、あの二人は国外なんて連れて行かないし、角だって返してもらう!」


「さっきとおんなじこと言ってるー」


「続きがあるんだよ! 俺はこの短時間でもっともっと修行して、あのオレンジ野郎をぐっすり眠らせて、俺とおんなじ目に遭わせてやるんだ!」


「いっぱいおねだりしてもらうの?」


「違っ! 裸でどこかの倉庫に吊り下げてやるんだよ! 眠ったままでな!」


 誰があんなヤツの体なんかいじくりたいかよ! 想像するだけで虫唾が走るわ!


 俺の体のいろんなとこ触診してるときに、けっこう体付きががっしりしてて体作ってるんだなってわかるくらい腕にも筋肉ついてるのがわかって、それを心底羨ましく思ったりとか、軽く首を絞められたときにゾクッとしたとか、「怖かったね、もう何もしないよ」ってまぶたにキスされたとき、なんかじんわり嬉しくなって腹の奥がうずいたとか、そんなこと絶対一切なかったし!


 ……え? アレとおんなじ目に、俺が遭わせなきゃなんねーの? ああああれとおんなじこと他人にするなんて、ででできねえよ! キスとか、大事な人とするもんだし!


 と、とにかく、あいつを爆睡させて外に放置して風邪ひかせてやる! あ、俺が脱がせなきゃならないのか……や、やってやる! やったことねえけど!


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