✜26 最終試練


「やられたのか?」

「ぷぷっ、ダッサw」

「……」


 帰還石を使い、本拠地である城の一室へ戻ってきた。座って寛いでいたふたりから話しかけられたが、返事をしない。それより他のメンバーが帰還石を割って帰ってこれたか確認すると自分をあわせて3人しかいない。あとのふたりは捕まったのか?


「……マスターはどこだ?」

「ちっ無視かよ」

「この奥だ」


 留守番役のこのふたりと悠長に会話なんてしていられない。一刻もはやく対策を講じないと手遅れになる。


「失礼します」


 ノックをしたが返事がないのでドアを開ける。難しい顔をした男が、テーブルに広げてある地図を見下ろしていた。


 地図には、自分達アタッカーの現在位置が名前とともに表示されていて、赤いバツ印のついた者がすでにやられてしまった状態を表している。地図によると一緒に行動していた残りふたりは赤いバツ印がついていた。


 彼らの名前のうしろに髑髏のマークがついている。このマークは初めて見た。「軍師」のスキルでこの地図を映し出しているマスターが、ようやく口を開いた。


「いったい、あのサーバーにがいた?」


 高レベルのプレイヤーの存在とプレイヤーに味方している階層主級と最終迷宮主級の魔物について報告する。


「たしかに厳しい相手だが、それだけではないようだ」


 赤いバツ印が、話している間にも地図の複数の箇所で増え始めている。


「やられた連中が帰ってこない・・・・・・……」


 向こうのサーバーで、命を落としてもこちら側で復活するはずなのにリスポーンできていない!?


「侵略を中止する。ただちに全員引き上げるよう通知を出す」


 速やかに海の上にあるゲート、境界線のこちら側のサーバーへ戻るようマスターのみが使用可能なチャット通知を全員へ送った。


 ──3時間後、生存者全員が帰還したので、ストラテジーモードからタワーディフェンスモードへ切り替える。サーバー同士はあと10日以上もつながったままなので、向こうからの侵攻に備えて、最大限の警戒体勢を敷いた。


 ディフェンスモードであれば、回復薬や蘇生魔法も使える。これまでこのサーバーの防衛戦において、すべて境界の近くにある入江の砦で食い止めており、砦を抜かれて島の中央に位置する本拠地の城まで侵攻を許したことはこれまで一度もない。


 守りに集中すれば、異質な存在だったが、負ける要素は皆無といっていい。ひたすら、敵がサーバー間の境界を越えてくるのを見張り続けた。


 しかし、10日以上経っても、サーバー「S462」のプレイヤーはその姿を見せなかった。ここまで何もなければ侵攻してこないのかもしれない。


 仮に攻めてきたとしても、残り1日と少しでサーバー間の接続は途切れる。砦の精鋭がいつも通りに仕事をすれば、すぐに時間切れとなるだろう。互いに勝利条件を満たさなければ、引き分けで終了とする。


 まあ、向こうでやられた後、帰ってこない連中は気になるが、これ以上何も起きずに終わったらそれでいい。──そう願っていたが、どうやらそうもいかなくなったようだ。


 遠くに見える砦が爆発して一瞬で消失した・・・・……。






【12日前】


 あ~あ、せっかく捕虜にしようと思ったのに……。


 襲撃者は脱出するための石を持っていた。石を握り潰すと、身体が光の球に包まれ、砲弾のような速さで飛んで消えていった。


 3人は取り逃がしたが、ふたりはヤコの手にかかった。彼女が手加減できないほどの手練れだという証でもある。


 そういえば先ほど向かい合っている時に魔法の干渉を受けた。どうやら自分のステータスを覗き見ようとして失敗したらしい。ステータスウインドウ上で「スキル『観察眼』による干渉への抵抗に成功しました」と表示が流れていた。


「ヴァールギュントの最終試練を開始します」


 おぉ……いきなりいつもの機械の声が聞こえたのでビックリした。って、ここ普通の森の中なんだけど? 


 などと驚いている間にスタータスウインドウへ見慣れない文字が並ぶ。


 ───────────────

 サーバー「S016」の吸収・・状況 0%

 プレイヤー数:30/32

 達成条件:全プレイヤーの殲滅および全拠点の吸収

 制限時間:13日9時間11分19秒

 ───────────────


 ──なにこれ?


 守る、じゃなくて攻める?


 あとサーバーとかプレイヤーって、めっちゃゲームっぽい単語だな。やっぱりさっきの連中って自分と似た境遇……転生してきた人たちかもしれない。ステータスにノーマルモードじゃなくて「ストラテジーモード」と表示されていた。あれって戦略系ゲームに出てくる単語だよね?


 そうすると、この島にも自分以外にプレイヤーがいるのか? もしいるなら協力してサーバー対抗戦みたいなものをやらないといけないんじゃ。


 でも、一度もそれっぽい人と会ってない。なぜかと言うと先ほどいきなり襲いかかってきた連中のステータスには、名前の横に「プレイヤー」って、はっきり書いてあった。そういう人はこの島では今までひとりもいなかった。

 

 いるかどうかもわからなったら探すのは時間の無駄だな。それならいっそ自分ひとりと考えて行動に移した方がいい。仮に途中で合流できるならその時はその時考えたらいいと思う。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る