✜20 幼なじみ
シュリとヤコのふたりが寝ている間、サクラが「ヒマじゃ、ヒマじゃ」とうるさかったので、将棋盤をクリエイティブで作ってみた。
基本ルールを教えてしばらく経つとすぐに追い抜かれてしまった。ゲームではCOMモードの棋力を6級に設定しても勝てるぐらいなので、結構自信があったのだが。
それからチェス、囲碁、オセロと色々と勝負したが、少し教えたらすぐにサクラが上達して自分が負けてしまうので、「やってられっかぁぁぁl!」と恥ずかしながら、感情的になって盤をひっくり返してしまった。
「ふぁぁぁ~ぁ」
「疲れておるようじゃの」
先ほどからあくびが何度も出ている。この辺りには滅多に魔物は出ないから安心していいと言われたが、たまに出るなら油断できない。シュリとヤコのためにふたりが目を覚ますまで周囲を警戒しなければならない。
「妾は寝なくていい種族ゆえ、見張りをしてやろう」
「いいの?」
サクラが「少し仮眠をとると良かろう」と申し出てくれた。お言葉に甘えて1時間でもいいから少し仮眠を取ろうと洞窟の壁に背中を預けて座ったまま目を瞑る……。
中学校の教室……放課後、なぜかひとり自分の席に座っている。
中学3年生の頃はほとんど学校へ行けなかった。1学期が始まってすぐに幼なじみの女の子が
幼なじみの子は、その後すぐに転校していったから、助け損ってヤツだった。だが、助けたのを悔やんだことはない。もう一度、同じ状況に遭遇したら、きっとまた同じことをする。
「アラタ……」
そんな幼なじみの女の子が、教室のドアを開いて入ってきた。眼鏡をかけていて図書委員をずっとやっているような地味な女の子なんだが……。
「ねぇ、ゲームをしない?」
そっと眼鏡を外す。──漫画の世界でありがちな眼鏡を外したら実は美少女だったってヤツだ。幼なじみだから彼女が眼鏡をかけ始める前から知っている自分だけの秘密……。
「ゲームって?」
「私がうしろで何をしているか言い当てるゲーム」
「……別にいいけど」
窓の外から部活動の掛け声やボールを蹴る音、吹奏楽部のドラムや金管楽器の音が教室の中に聞こえてくる。
「絶対に後ろを振り向いちゃダメだよ?」
「うん」
微かに音がするが、何の音なのかまではわからない。
急に首すじに何かが触れた。濡れてザラザラとしたもの。首の真後ろから右耳の裏筋まで這いあがっていく。
「ちょっ……」
「はいアウト―。それじゃぁ、罰ゲームはなにをされても動かないこと」
思わず振り返ったら、服をすべて脱ぎ去ったあられもない姿の幼馴染がいた。首すじを張ったのは赤く濡れた彼女の舌……。
罰ゲームを宣告された瞬間、身体が固まり、指先すらピクリとも動かせない。彼女の白い手が、学生服の第2ボタンを外し、そこから手を左脇の下へと潜りこませていく……。
「ぅぅ、ぅうわぁぁぁぁッ!?」
目が覚めた。壁を背にして座って寝ていたはずなのに横に寝かされ、サクラがお腹の上に馬乗りになっていた。
「おや、目が覚めてしもうたか」
「『目が覚めてしもうたか』じゃねぇぇぇ!」
「あ~れ~ッ!」
「人が聞いたら誤解を招くような言い方すなっ!」
マウントポジションからの脱出方法なんていう現実世界で使うとは思ってなかった動画を見ていて良かった。右袖を両手で掴み、左足でサクラの右足をロックして、そこを支点にしてひっくり返した。
サクラの顔面にアイアンクローをめり込ませる。
「妾がなにをしたというのじゃ」
「それを言う?」
「あいたたたた……夢を見せただけじゃ!」
夢をみせた? でも、さっきのはホント無しにして欲しい。よりにもよって彼女の夢を見せるなんて……。
「妾は夢の中で相手の記憶に残っているものを見せるだけで誰が出たかまでは知らんのじゃ」
アイアンクローをされたままサクラが返事をした。
ということは、いまだに彼女の記憶が強く残っている?
「それで人に夢を見せてなにをしたかったの?」
「妾はサキュバス、頂くものは頂かないと、あいたたたたっ!」
「なにを?」
サクラいわくサキュバスの中にも色々いるらしく、求めるのもそれぞれ違っていてサクラの場合は汗、彼女は汗を舐めとることで自分の魔力を増やすことができるそう。
特に恋愛中の男性から滲み出す汗が最高に美味しくていい匂いがする、とかなり変態じみた性癖を晒してくれた。
夢の中で意識している人物とウフフな展開をしている間に汗を舐め取られるって、どんな罰ゲームだよ。
「じゃが互いに気持ちよいじゃろう?」
「だぁーかぁーらぁー、誤解を招くような言い方すなっ!」
「あいたたたたッ!」
ダメだ。魔物なんかよりある意味危険だ。シュリとヤコが起きるまでは、なんとか意識を保つように努めよう。
「アラタ様……」
「気分はどう?」
「大丈夫です。私はいったい……」
「眠り属性の煙を吸ってしまったからだよ」
シュリが先に目が覚めた。そのまま地べたに寝かせるのもなんなので、枕のついたエアーベッドへふたりを寝かせていた。
「シュリ、起きてすぐに悪いけど」
「はい?」
「ゴメン、ちょっと寝かせて……あと、その『じゃろう』が口癖の人が、なんかしないか見張っておいて」
そう言って、泥の中へ沈んでいくように深い眠りへ落ちていった。
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