✜21 マッチョ
「じゃあ、持ち上げるよ、せーのっ!」
少し寝たらすっきりした。自分が起きるとすでにヤコも目を覚ましていたので、さっそく小舟を持ち上げ、解錠した両開きの扉を通って、次のエリアの水路へ小舟を着水させた。
先ほどのエリアと違い、水の流れがまったくない。櫂で漕いで先へ進むと、先が二手に分岐していた。
そういえばさっき地図を手に入れたんだっけ。丸まった羊皮紙の結んだ紐を解いて地図を開くと、迷路になった水路に対して赤い線と矢印で順路が描かれていたので、迷わずに済んだ。
「ちょっと待って」
1時間近く進んだ辺りで地図を見ていて気が付いた。前で舟を漕ぐヤコへ呼びかけた。
「ここになにかある」
順路から1本外れたところに丸い印がついている。わざわざ地図に書き込まれているということは宝箱かなにかではないだろうか?
ちなみに迷路の構造などはダンジョンマスターにも深い事情があるようで、おしゃべりなサクラは口を閉ざして知らないフリをしている。
✜
「ようこそいらっしゃマッチョ」
「え……」
地図の丸い印のついた場所へとたどり着くと行き止まりになっていた。だが、横にハシゴがあったので、登ってみると扉があり、鍵がかかっていなかったので開いたら、筋トレ中の上半身が人間、下半身が馬のいわゆるケンタウロスがいた。上半身はまっ
それ何キロあるの? と聞きたくなるような巨大な鉄アレイを両手に持って「フシュッ! フシュ!」と鼻と口から変な息を漏らしている。
「これは失礼しマッチョ、ミーはマッチョ鈴木と申しマッチョ」
マッチョの件は置いといて鈴木ってメッチャ日本人の名前じゃねーか、とツッコみを入れたくなるが我慢する。そもそもケンタウロス的な日本人なんていないし。
マッチョ鈴木は「ズンッ」と音が鳴る程、巨大な鉄アレイを床に置いた。聞き取れない言葉で呪文のようなものを唱えると、部屋の隅にある獅子の像の目が光り、声が聞こえ始めた。
「我が問いに正しく答えられたら、褒美を授けよう」
また頭を使うヤツか……。今度は謎かけ、正直苦手かも。質問はいっさい答えないそうで、2回間違えたら褒美は無しになると説明を受けた。
「汝が我を知るとき、汝は黙っている。しかし、汝が我を話すとき、我は存在しない。我は何?」
えーと、「我」はこの場合、ひとではないんだろうな。
……わからん。どうしよう? 当てたら褒美をくれるって言っているのでリタイアはしたくない。
「アラタ様」
「うん?」
シュリがそっと耳打ちしてきた。
「答えは秘密じゃないでしょうか」
答えは秘密……どういうこと? 当然、謎かけだから答えは秘密だけど?
「いえ、謎かけの答えが『秘密』だと思います」
シュリによると、もし答えが「秘密」であれば「汝が我を知るとき、汝は黙っている」は、ある人物が秘密を知っている時は、その人物は黙っている。次に「汝が我を話すとき、我は存在しない」のところで、その秘密を握っている人物が誰かに打ち明けた途端、それは秘密ではなくなるから答えは「秘密」ではないだろうか、ということだった。
「正解だ、では次の問いに答えよ」
1問じゃなかったんだ……そういうのは先に言って欲しいな。
「汝が我を持っているが、他者が我を使う。我は何?」
ゴメン、やっぱりわからない。ヤコは腕組みをして「ムムムムッ」と先ほどからずっと唸っているので、自分と同じレベルだ。ここはやはりシュリに聞いてみる。
「『名前』じゃないでしょうか?」
正解だった。自分の名前は自分で呼ばないが、他の人が自分の名前を呼ぶという意味だった。なんだか頭痛が……。
「それでは褒美をやろう」
やった! 金銀財宝? それとも伝説の剣とか?
「
え? 要らない、と危うく口にしかけるところだった。ちょっと待てよ……もしかして、マッチョ鈴木って童話に出てくる願い事を3回だけ何でも叶えてくれるあの有名な魔神みたいな存在?
後ろを振り返ると、マッチョ鈴木の姿はすでになく、獅子の像の足元に現れた魔法のランプに既にスタンバイしているんだと思う。
獅子の像は、その目から輝きを失っており、もう語りかけてくることはなさそうだ。ランプを手に取り、ランプの蓋を開けると、中に油は入っておらず、紙が一枚折り畳まれて入っていた。
『マッチョ鈴木の取り扱い説明書』と上の方に書かれていて、下の方を読んでみた。
ふーん、なるほど。マッチョ鈴木はランプから何度でも呼びだせる。彼は魔法は使えない。筋肉ですべてを片付ける、と大雑把にいえばこのように書かれていた。
置いていこうかな? マッチョ、マッチョうるさいし。
シュリとヤコに相談したら、マッチョはウザいが、なにかの役に立つかもしれないから、いちおう持っておいた方がいいと言われたので持っていくことにした。
──本当に役に立つマッチョか?
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