✜19 謎かけ


「ダンジョンの中は、この小舟で移動することになっておる」


 ヴァールギュントの第3試練のダンジョンマスターで、和装サキュバスのサクラから説明を受けた。


 小舟と言っても詰めたら20人くらいは乗れる広めな仕様で、舟の前後に平たい台が横へ張り出している。櫂がいくつかあるのでこの平たい台の上に乗って、漕いで舟を進めるタイプのようだ。


 ダンジョン入口から入ってすぐの正面は行き止まりになっている。右から左へと洞窟のなかをゆっくりと川が流れており、小さな桟橋に係留してある小舟に乗って、洞窟のなかへと進む造りになっていた。先の方は薄暗いため、懐中電灯で照らすと右へ緩やかにカーブを描いていたので、その先は見えなかった。


「前はヤコ、自分が後ろ、シュリは真ん中に座ったまま魔法で援護、ピコンは危なくなったメンバーへ結界を張ること」


「ああ」「はい」「ピッ!」とふたりと1羽が返事をしたが、問題がひとつある。


「そこに居られると邪魔かなーって思うんだけど?」

「要らぬ心配じゃ、戦闘が始まったら上へ飛ぶので良かろう」


 背後霊ってのが、視えたらきっとこんな感じなんだろうと思う。なぜかサクラが自分の背中へおぶさっている。どういう原理か知らないが浮いているので、重さを感じるわけではないが、気が散ってしょうがない。



 しばらく洞窟のなかを流れに任せて下っていると目の前に壁が現れた。川はその壁の下に水面から数センチのところで開いているように見えるが、小舟ごと潜る訳にもいかないので、素直に左横の方にある両開きの扉に目をやった。


 左手前に桟橋があり、小舟をそこへ置いて、岸へ上がると床にそれぞれ色のついた宝箱が埋まっている。両開きの扉の隣に石板があったので、文字をステータスウインドウ越しに日本語へ変換して書かれている内容を確認してみた。


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 4つの宝箱……青い宝箱、赤い宝箱、緑の宝箱、そして黄色い宝箱。それぞれの宝箱には、それぞれ異なるアイテムが入っている。横の扉を開く鍵、この場で1日待機する券、次のエリアで役立つ地図、そしてダンジョン島のどこかへ無作為に強制転移する球の4つ。宝箱は1日待機券または転移球の入った宝箱を開いた場合は、その場で効果が発動する。ヒントは以下の4つ。


 1.鍵は赤と緑の宝箱に入っていない

 2.1日待機券は赤と黄色の宝箱に入っていない。

 3.転移球は赤か黄色のどちらかの宝箱にある。

 4.地図は青と黄色の宝箱に入っていない。

 ────────────────────


 頭使う系か……やだな、正直苦手だが、止むをえまい。


 まずひとつ目のヒントから鍵は青か黄色の宝箱に入っている。次にふたつ目のヒントだが、赤と黄色の反対なので1日待機券は青か緑色の宝箱に入っている。


 3つ目のヒントで転移球は赤か黄色の宝箱に入っているので、なるべく赤と黄色の宝箱を開くのは避けたい。


 4つ目のヒントで地図は赤と緑色の宝箱に入っているのがわかった。


 この中では地雷は転移球と1日待機券だが、最悪、転移球さえ引かなければ何とかなる。もし鍵が青い宝箱に入っているならそれでいいが、仮に待機券だったとしても1日この場に留まれば済む話なので試してもリスク的にはそこまで重くない。


 これ以上考えてもわからないので、思い切って青い宝箱を開いた。中にお札のようなものが入っていて、開けたと同時に白い煙がボワンっと吹き出した。その煙を吸ったヤコとシュリが急に倒れたので、ふたりの背中を支えてゆっくりと床へ寝かせる。シュリの肩に止まっていたピコンやそもそも人外なので心配もしていないサクラは何ともなそうにしている。


 危ないガスの類かと心配になったが、ステータスの名前の横に「睡眠」と書かれていたので、とりあえず胸を撫で下ろした。おそらく強力な催眠ガスのようなものでその効果が1日くらい持続するので、1日待機券という名にしたんだと思う。


 そうなると消去法で行けば黄色の宝箱に鍵が入っていることになる。それとできれば地図もゲットしたいので、もう少し考えてみる。


 1日待機券は青か緑に入っていると書かれていた結果、青だったので、緑にはもちろん入っていない。一方、転移球は赤か黄色のどちらかという条件だったが黄色が鍵なので、転移球は赤色の宝箱。残り緑色が地図となる。


 黄色と緑色の宝箱を順に開いて地図と鍵を手に入れて、ふたりが起きるのを待つことにした。




「ヒマじゃ」

「はぁ……」

「それにしても、その肩に乗っておるの、古龍じゃぞ?」

「うん、まあ知ってるけど?」


 ピコンはたしか種族はエンシェントドラゴンで今は封印されてて鳥に姿を変えているんだっけか?


「人間なのに古龍を恐れないとは豪気な男じゃの」

「そうなの?」


 古龍……エンシェントドラゴンは、神話の時代から神々や魔神側のどちらの陣営にもつかず、第3の勢力として、両陣営に莫大な被害をもたらした存在だという。元々個体数が少なかったこともあって、ほとんどの古龍は神々の戦争の中で命を落としたという古代の人が残した文献がいくつか発見されている。現在ではダンジョン島の近くにある大陸よりもはるか西方に1頭だけ禁足地となっている霊峰の火山口に棲まう古龍が確認されているそうだ。人間たちからその存在自体を神として崇めている尊い存在らしい。


 そうなんだ。こんなに可愛いのに……。


「よしよしッ」

「ピッ!」


 肩に止まっているピコンを撫でると可愛らしい声で鳴いて返事した。──どうみても可愛い小鳥にしか見えないのだが。




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