【コント】賽銭箱

あそうぎ零(阿僧祇 零)

賽銭箱

 場所・時間:寂しげな裏通り・深夜


 下手から、木箱を抱えた男が歩いてくる。上手から、警察官が自転車に乗って登場。

 男を発見した警官は、自転車を降りる。


警官 そこの人。止まりなさい。


 男は、そのまま歩いて行こうとする。


警 止まれと言ってるでしょ!

男 私ですか?

警 他に誰もいないじゃないですか。

男 (ひとりごと)人じゃないんだが。

警 あなた、何しているんですか?

男 散歩です。

警 こんな深夜に?

男 暗くて寂しい道が好きなもので。

警 手に持っている物は?

男 これ? ご覧のとおりです。

警 賽銭さいせん箱に見えますが。

男 ピンポーン。

警 どこにあった賽銭箱?

男 どこでもないです。私のです。

警 あなたの? ちょっと見せて下さい。

男 とか言って、持ち逃げする気なんしょ?

警 私は警官ですよ。


 警官、身分証を提示する。


男 レプリカ、かもしれない。

警 公務執行妨害になりますよ。賽銭箱を渡しなさい!

男 くそっ!


 男から賽銭箱を受け取った警官、賽銭箱を揺する。ジャラジャラと小銭の音。


警 入ってるな。

男 小銭が少々。

警 散歩するのに、なぜ賽銭箱なんか持ち歩いてるの?

男 お参りする人が、賽銭を投げるものでね。

警 どこかの神社かほこらにあったんだろ?

男 くどい人だな。私のだと言ってるでしょ。

警 ならば、署でじっくり話を聴こうか。

男 私は神様だよ。神仏あれば賽銭箱ありだ。さ、賽銭箱を返しなさい。

警 いや。これは押収する。


 警官、自転車の荷台に賽銭箱をゴム紐で括り付ける。


男 神をも恐れぬ所業である。お前は、天罰が下って死ぬ。

警 訳の分からないことを言ってないで、一緒に来るんだ。

男 (重々しく)最後にもう一度言う。私は神様だ。名をアシナガノヒメタラシノジンジロゲノミコトという。

警 何だそりゃ。死神か貧乏神か?


 そのとたん、閃光が何回か発光し、雷鳴が鳴り響く。

 警官、その場に倒れる。


男 神を冒涜する者の末路はこうだ。


 男、自転車から賽銭箱を取り戻す。


男 おや?


 警官の腰から拳銃を抜き取る。


男 うむ。この奉納品は使える。


 暗転

 






 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【コント】賽銭箱 あそうぎ零(阿僧祇 零) @asougi_0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ