【KAC20243】綺麗な箱

麻木香豆

第1話

 妻が死んだ。


 妻の詩織はまだ70歳。

 にこやかにほほ笑む彼女の写真の前には立派な白い箱。


 棺が横たわっていた。その中に彼女は眠っている。


 互いに30歳の時に結婚し彼女は専業主婦になった。


 子供を三人産み育て40歳になった彼女は働きたいといって俺は頑張って妻と子供三人の分まで汗水流して働いていたし、ちゃんと生活費も渡していたじゃないかと思ったのだが彼女の行動は早くもう決まっているとのことだった。


 まだ下の子も幼稚園児で甘えん坊だ。

 それに長女も小4になったとはいえ一人で家にいるのは嫌だといい、下の小2の息子といるとすぐけんかになる。

 俺の親が近くにいるので先に詩織が折り入って上の二人のお迎えを頼んでおり、幼稚園に通う二女も仕事帰りまで園で預かってくれるとか。


 その熱意に押され週に二三回の勤務ということでまぁ妻に渡していた小遣い分も減らせるかと思ったが世の中の物価高でその小遣い分は生活費に回してほしい、とこの10年近くの家計簿と現在のスーパーのチラシを突き出されてしまったから目論見は崩れた。


 また突然死ではなく病死であった。

 昔から彼女は丈夫ではなくて月に元気な時は数日しかなかった。生理の時だけでなくその前後、生理と生理の合間など年々体調も乱れずっと悩んでいた貧血やメニエールもなかなか改善されない。

 32歳ころから俺の会社での人間ドッグをうけているのにも関わらず。慢性的な病気が穏やかに彼女の体を蝕んできた。


 棺の周りを39歳になった一果とその婿と子供二人、37歳の独身の仁太と謎の女性、34歳の身重の三佳とその婿。

 


 にしてもこの棺は高すぎないか。燃えれば一緒なのになんでこんな高級なのを。

 色だって黒色が一般的なのに白色、しかも花や鳳凰があしらわれて35万っ! 


 物価高とか年金がしっかり払われないであろう未来を考えて貯金をし、三人の子供がちゃんと自分で食っていけるようにと学資保険を蓄えてきたから何とかなったわけで。


 

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