おれはお前が好きだぞ!

 

 次の日の朝。もふっとタワーの上で毛繕いをしていると、リクトがなにかを探しているようだった。


「くそ! あれがないと……」と何度も言っていたリクト。そのうち、大きくため息を吐くと、諦めたように黙ってシゴトに出て行った。


 おれはもうすっかりと、赤色の小さな箱のことなど忘れていたから。なにをしているのかわからなかった。


 そして、夜。リクトは肩を落として帰ってきた。リクトは、おれのことを抱っこすると、静かにその頭をなでてくれた。


「ねえ、サビ。ここにあった指輪の箱、知らないかい? もうどうでもいいんだけど。あの指輪」


(指輪の箱?)


 おれはそこではったとした。あれは、そうだ。リクトの大事なもの。なのに、おれ。ベッドの下の宝物に入れちゃった。怒られる! そう思ったけれど、リクトは怒るどころか、ため息を吐いた。


「まあ、いっか。あんなもの。もういらなくなっちゃった。いや。むしろなくなってよかった。——ねえ、サビ。おれ振られちゃった。サラはユウキとも付き合っていたんだって。おれ、二股かけられていたんだよ。しかも本命はユウキなんだってさ。夏に結婚するんだって……。どうせ。おれなんて。料理しか取り柄ない男だよ。あの指輪、サラに渡していたら、惨めなことになっていたから。なくなってしまってよかったのかもしれないな」


 リクトがくれる餌はメチャクチャ美味いぜ。サラだけじゃないだろう。なにをがっかりしているんだろう。人間のメスなんていくらでもいるだろうに。お前は立派なオスだ。大丈夫だ。きっといい相手がいるって。


 おれなんて、お前に手術されたから。もうメスには用ないぜ? おれはここで平和に昼寝できればいいんだよ。そう。お前がいればいい。おれが一緒にいてやるから。


 おれはリクトの手をペロペロとなめてやった。まったく仕方がないやつだ。おれがいないとなんにもできないんだから。


 リクトは「ううう」と鳴き声を上げた。それから「ありがとう」と何度も言いながら涙を流していた。なんだよう。悲しいのか。お前。情けない奴だ。いいぞ。撫でさせてやろう! いくらでも撫でたまえ。


 その晩。リクトは珍しくおれを布団に入れてくれた。あったかいぞ。ずっとそばにいてやる。おれはお前が好きだぞ。リクト。あの赤色の小さい箱は、おれがもらっておいてやろう。







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