【KAC20243】おれとリクト

雪うさこ

おれと同居人


 おれはサビ猫。からだの毛の色が、色々混ざっているから、サビって呼ばれている。

 

 おれの同居人はリクト。人間のオスだ。リクトはいつも「シゴト」ってやつに行くらしい。人間ってやつはともかく忙しいみたいだ。朝起きると、ゆっくり毛づくろいしている時間もないらしい。


 リクトは朝出ていくと、帰ってくるのは暗くなってからだ。おれはその間、一人でこの部屋にいる。帰ってきたら遊んでもらえるから。それまではおとなしく待っているのだ。けれど、ここのところ、リクトはおれとちっとも遊ばなくなった。


 家に帰ってくると、リクトはすぐに電話というものをかけ始める。相手はサラという人間のメスだ。サラはたまにうちにも遊びに来る。そんな日は、決まって朝からサラにやる餌の準備に忙しい。サラは食欲旺盛みたいだ。


 二人は一緒に餌を食べた後、寝室に行く。おれは邪魔してもなんだから。そういうときは日中寝ているもふっとタワーのてっぺんで丸まることにしている。おれって結構気遣い屋だろう? えへん。


 けれど。サラが遊びに来るようになって、しばらくはニコニコのリクトだったけど。最近はなにやら考え事をしている時間が増えているようだった。大きく息を吐いてみたり、家の中を行ったり来たりのパトロールをしてみたり。サラに嫌われたのかとも思ったけれど、それも違うみたい。うーん。人間って何考えているかわからないな。


 そんなある日。リクトは「ツウチョウ」って帳面をじっと見ていたかと思うと、休みの日だというのに出かけて行った。うまいもんでも買ってくるのかと、待っていてやったというのに。奴の手には赤色の小さな箱が一つだった。


 ちぇ。食べられないじゃないかよう。


 リクトは、せっかく買ってきたその箱をテーブルの上に置いて、じっと眺めてばかりいる。顔色を青くしたり、赤くしたり。本当に変な奴だと思った。その箱、しゃべるのか? お前。箱になにぶつぶつ言っているんだか。


 おれはもふっとタワーの上からリクトをじっと見つめてから、あきらめて昼寝をすることにしたんだ。


*** 


 翌日。いつものように起きていくと、リクトはおれの頭をなでてから「いってきます」といった。あいつがいなくなると、部屋が静かになる。なんだかちょっぴり胸がきゅんとなったけど、ふとテーブルの上を見上げると、そこにはあの赤色の小さい箱が置いたままになっていたのだった。


 おれは嬉しくなって、テーブルの上にひょいと飛び乗った。リクトがいる時にやると、すっごく怒られることだけど、今はいないんだ。ちょっとくらい、いいよな~。


 赤色の小さな箱は、近くで見てみると、なんだかザラザラしているようだ。手でチョンチョンと突いてみると、表面の生地に爪が引っ掛かった。やばい。手を振り払うと、箱はコロンコロンと音を立てて、テーブルから落ちた。


(お! こいつ。なかなかやるじゃないか。おれを喜ばせる技を持っているな!)


 テーブルから飛び降りて、そのまま箱を突いた。箱は回転して、転がっていった。


(面白い!!)


 おれは夢中になって、箱を転がしまくった。そのうち、この箱が欲しくなった。


(そうだ。あそこに隠しておこう)


 おれの宝物をしまっておく場所。リクトのベッドの下。おれは手で突きながら、それをベッドの下に押し込んだ。






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