伝えたかったのは

藤 ゆみ子

伝えたかったのは

 

 美和は小さな箱を大事に抱え大きく深呼吸する。


 今日、隣の家に住んでいる幼なじみの大志に告白する。直接言うのは照れくさいから『言葉の箱』を使って告白することにした。

 『言葉の箱』とは箱の中に自分が言った言葉を閉じ込めることが出来る箱だ。


大志たいしが好き」


 そう箱に言葉を込めて、隣の家までやって来た。美和は前髪を整えゆっくりとインターホンを押す。

 今、家に大志しかいないのは窓から確認済みだ。

 玄関のドアを開けて出てきた大志は美和を見て不思議そうな顔をする。


「どうかした? 何かあったなら連絡くれたらいいのに」


 いくら幼なじみといえどもうお互いの家を行き来し合うような年ではない。


「大志、これ。部屋で開けて」


 美和は顔を赤らめながら箱を大志に渡すと自分の家へ足早に帰っていった。


「箱?」


 渡された箱は手のひらほどの小さな木箱で木目がそのままあるだけのシンプルな箱だった。


 大志は自分の部屋へ戻ると言われた通り箱を開けようとするがなかなか開かない。この木箱はスライド式の蓋だった。

 

「開かないんだけど……」


 大志はその小さな箱を耳元で振ってみた。

 何も音がしない。


「空っぽ?」


 不思議に思っていると振ったからか少し蓋がずれている事に気が付く。


「なんだ、スライド式か」


 大志が蓋を開けると箱の中から美和の声が聞こえてきた。


「す、し、い、き、た、が」


「ん? 寿司? 行きたが?」


 美和は寿司でも食べたいのかと思ったが、わざわざこんな手の込んだ言い方しなくても、と大志は箱の蓋を閉め美和に連絡をしようとスマホを持つ。

 その時、箱を落としてしまった。


--カコンッ、コロコロ


 落とした拍子に蓋が開いた。


「 、 、 、 、 、 」


「っ!!」

 

 大志は美和のその言葉を聞いて家を飛び出した。


「美和っ」


 名前を呼ばれた美和は急いで玄関のドアを開けた。


「美和、俺もだよ」

「本当に?」

「ああ」

「ありがとうっ」


 大志は美和をぎゅっと抱き締めるとそのままキスをした。



「き、す、が、し、た、い」


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伝えたかったのは 藤 ゆみ子 @ban77

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