第11話 先生の話

 この町、村だったころと言えばいいかな。この村の人は昔、今よりもっと豊かな自然と共存していたような場所で、山と海に面しそれぞれの幸が豊富で争いも無く平穏な毎日を送っていたそうよ。


 ある日、ここの海産物が豊富なのに目を付けた人たちが居て、海の向こうからぞろぞろと一族を引き連れてやってきた。

 現地の人、先住民って言えばいいのかしら?この場所で平穏に暮らしていた人たちは当初、賑わい栄えていく村の全体の為にも人が増えることは良いことだとも考えていた。閉塞した村や国では血縁関係の結婚が増えて血が濃くなり、出生率や産後の成長に影響を与えることを長老や巫女といった有識者には長い歴史と受け継がれてきた教えにて知っている場合も多く、外部の人間の到来は歓迎であり重宝していた。特に島国であり四季にも恵まれ干ばつも無く自然が豊かな土地では略奪や侵略もする必要もなく、陸続きの大陸のような資源の枯渇問題や土地という占領意識による争いは殆ど無かった。稲作が盛んになり土地概念が出来てから人類は争いだしたという説は、世界中の歴史や考古学を嗜む学者の間では通説となっているのも基本のように、この場所も例外では無かった。


 古い生活をしていた先住民は争う意味も分からず、寛容な心で接してきたにも関わらず後にやってきた人たちは主権を謳い、仲間同士ですらも争い始めた。

 先住民はそんな世間が嫌になり、山へ、奥へ、高台へと逃げるように追いやられていった。


 海域の後発民は海産物を無限と言わんばかりに取り付くしては廃れ、また数十年して自然は治癒しそしてまた浅ましく群がる。そんな自然との共存とは無縁で破綻した繰り返しのこの土地に先住民は呆れ返り、交流やアドバイスをする意思すら失いどんどんと山からも周辺から去っていった。


 この地に残る必要性がある家族だけが残り、殆どの村民を後発民が占める中、トオルくんの父方の家系はその先住民の唯一の生き残りだったことが後で判明するの。


 そのきっかけはトオルくん一族が代々守ってきた神社がある山の開発計画。

 どこかの資産家がこの土地周辺を買い漁っていて、山ごと買い取り商業施設か何かを作りたいんだそう。それに応じないトオルくん一家はその資産家やその権力と圧力に準ずるこの土地にやってきた後発民たちから、半ば「村八分」のような扱いを受けていて、さっきのイジメとの繋がりは子供たちにすらトオルくと付き合うな、と言っていたかもしれないって意味ね。


 私も君と同じ「外部」の人間だから、この土地のそんな土着なんて聞かないし知らないし、感じることすら無かったと思う。また最近、海産物の収穫が激減して廃れてきたといっても養殖で何とかしている人や水産丁の取り締まり、水産資源保護法にてバランスを保ちながら継続しているのもあってそんな差別が無くなることはなかったみたい。


 ここまでがちょっとしたここの歴史と私の推察。ここからは例の現町長に聞いてみた話と、また私の考察を含める。


 継続的な港町としての意地が続くにつれ私たちのような更にも増えて、何代かの子孫を経由し先住民だの後発民だの垣根も無くなってきてはいるけど、政治的な偉いさんや地域的な資産家のはまだ燻るように残っているみたい。まぁ、要するに頭が上がらないとか逆らえないとか、そんな関係性で不正なやつはあったりなかったりみたいなね。ある程度、世話になったとしてもそれは祖父や曾祖父の世代であり、今の世代の人からしたら内心「関係ない」って思うような人や私たち「部外者」が民主を制してきている現在ではそんな古い繋がりも薄れて効力を発揮しなくなってきている。だからこその今の町長が着任できたようなものらしい。


 こんな話をしてくれたのも、私(部外者)だからこそだとも思うし土着がある地域に未来はないと、真剣にこの町のことを考えている姿勢だからだと思うのよ。

 私は個人的にもこの事件をもっと掘り下げて公にしたいし町長の今後の活動の一端にでもなればいいなって思っているのよ・・・・・・

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