第9話
少し早く学校に到着した僕は、校門前に車を停めて先生を待っていた。ちらほらと部活終わりに下校する生徒たちを見ては昔を思い出す。
そこでふと思い出したことがあった。トオルと二人で埋めた「タイムカプセル」。完全に忘れていたし場所も何を入れたかもハッキリとしない。昔の少し高級なクッキーが入っていたアルミかスティールの缶箱。
『箱』のことは柄やデザインまで思い出した。いつも母に隠れてお歳暮かお中元に貰う大人が紅茶かコーヒーとセットで頂く、そんなCMも見たような記憶がある憧れの、こっそり食べては背徳感と共に味わったお菓子の『箱』。それを持ち出して二人の秘密基地で食べては空いた缶に色々と入れていた。最終的に何を入れて埋めたかまでは思い出せない。ガチャガチャで被ったキャラの消しゴム。チョコのおまけで入っていたシール。そんなのを入れていた気がする。後、女子に手紙を書いて入れるんだと聞いたからその真似をしたような。手紙の内容は全然思い出せない。どこだったか・・・学校の校庭だったか、あの公園だったか。いや、山に入って行ったような・・・・・・
ピロピロピロリン♪ピロリロリロ・・・・・・
携帯電話が鳴り響く。いつの間にか大分と時間が過ぎていて着信は先生からだった。校門前でもう待っていることを伝えると、流石に生徒や他の先生に見られると変な噂が立つのは良くないということで、校舎裏まで回ってきて欲しいと言われ車を発進させた。
先生とランデブーし、助手席に座った先生はとりあえず行先だけを僕に伝えてきた。その場所はここ周辺では一番大きい病院で、トオルの死亡診断書を書いた医者がまだ居るとのことだった。
「でも先生、そんな個人情報を他人の僕らに教えてもらえますかね」
「まぁ、ダメ元ね。診断書の開示や詳細は聞けないかもだけど、個人情報じゃなく当時の経緯や感想なんかはもしかして聞き出せるかもしれないじゃない」
「・・・先生、僕は親友だったからっていうのもあり、トオルのことを気にかけていますが先生はその、何でそんなに調べようとしているのですか?」
「・・・小学六年生の時に担任だったって言ったでしょう?その時に、助けてあげることが出来なかったの。学校側に何度も進言したんだけど当時の教頭は『明確なイジメの証拠がない』『あまり大袈裟にするな』と逆に注意を受ける始末でさ。私も自分の立場とかを優先してしまって黙認することしか出来なかった。それが今でも悔しくて・・・・・・」
昨日、公園で見た子供の頃のトオルのビジョンが僕の脳裏に直ぐ浮かんできた。あれはその時の風景だったんだとすごく納得していく。
先生は窓の外を見ながら喋っていた。その声は少し震えて泣いているようでした。
「イジメていた方の子はこの辺では裕福な家庭の子で、どうせ学校かPTAか、もしくは町会とか政治系の一定の権力者の子なんでしょうね。なんらかの圧力をかけていたと思う。そんなのに私も屈していた人間なんだったとか考えると、さ・・・・・・」
僕はもう何も言えなかった。一連の探偵気取りもただの好奇心だとか面白半分ではなかったことに安堵し、これから教師としての信頼を僕はこの人に得ることが出来るかもしれない。またこれから誠心誠意を持って先生と接していけることに少し喜びすら感じる。
「ずっと、一人で今まで悩み抱え込んでいたの。周りの人たちは・・・生徒たちはトオルくんが不登校だったってのもあってあまり馴染がないのは分かる。でも他の先生たちや大人、関係者は今では本当に無かったことかのように口を塞ぎ、まるで燻る火元から立ち上るの黒煙のように煙たがっている。一人の前途ある若者が亡くなったのよ。なのに・・・・・・」
先生は口元を押さえて口噤む。全てをもう語らなくてもいいと言いたかった。僕と同じ気持ちだったんだ。先生はこの地、この現場でずっと今の僕と同じ後悔や自責の念に駆られ関わってきたんだ。車に轢かれた猫のように誰にも気に懸けられず死んでいったトオルの事実と現実に、一人でずっと戦ってきたのだろうと想像ができる。
「ごめんなさい」
思わず僕は言ってしまった。先生のことをガサツで教師にあるまじき人物だと思ってしまっていたことの謝罪だが、何のことに謝っているのか客観的に考えて分からないだろう。けど、心から謝りたくてつい脈力も無く言葉が出てしまっていた。この先生は列記とした、今どき珍しい立派な先生であることを痛感した。
僕の謝罪の言葉で混乱したのかどうかわからないが、先生は冷静に落ち着きを見せ出した。突然、感情的になった私が悪いのよと言わんばかりに話を続ける。
「あ、いえ、ごめんね・・・で、・・・・・・」
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