第5話

 僕たちは小さな霊園にたどり着いた。

 昔から港町として栄えてきたこの村の前面には海、背後には大きな山が三つありそれぞれの山のふもとに一つずつ、広めの墓場が村のエリアごとに割り振り決められている。その三つある霊園の中で一番小さいという訳であって、一般的には十分な広さがありその墓石が並べられている一画に、トオルは眠っていた。


 僕と先生は線香と仏花を沿えて手を合わせる。色んな思いが頭の中を廻り複雑な気持ちだった。僕は家の親も今の自分と同じ「転勤族」だったというのもあり、新たな土地に馴染むことに手練れ地元に定着したり執着するという感覚は、土着する一般的な村人からすると全く違う価値観なのかもしれない。そんなといっていいそれぞれので、後悔したり人を傷つけたりしてしまう。僕は親の転勤で三回、引っ越しをして三か所に親友と呼べる友達を作り忘れることはないにしても、ために軽視し知らず知らずに傷つけているのかもしれない。


 ・・・今更そんな言い訳とかを考えても遅い。


 何かしてあげれたかもしれない。どうせ話を聞くぐらいしか出来ないんだろうけど、精神安定剤の変わりぐらいにはなれたかもしれない。


《ごめん・・・・・・》

 色々考えた挙句、最終的にはこんな一言で終わってしまう。


「・・・トオルくんも、大変だったかもしれないけど、これで少しは報われたんじゃない?多分、最後の親友がこうしてきてくれたんだからさ」


 そうであって欲しい。しかし、何もできなかった自分に少し苛立ちを覚えた。


「・・・で、この山の上にトオルくん家の神社があるんだけど・・・変なのがさ、トオルくんとそのお母さんは二人で別居していたらしいの」


「・・・変って?まぁ、そんなこともあるでしょう?」


「まぁね。あくまでも一般論なんだけど、神主さんや住職さんの多くは境内に庫裏くりって場所があってそこに住んでいるんだって。跡継ぎが居なくなった神社や寺では行事の際に神職さんを本堂から派遣したり、凄く大きなとこでは近くに社宅のようなとこを借りてそこから出勤するようにしたりね」


 だから?って顔をしながら先生を見つめていた。


「ようするに言いたいことはね、トオルくんが亡くなった時はお母さんと二人暮らしをしていたマンションの廊下で、なんらかの事情で父親から二人は距離を置いていたタイミングだったってこと。なにか関係がさるのかしら・・・・・・」


 どうでもいいが、墓前で話す内容ではない。別に僕は信心深い訳ではないが、分かることはこのデリカシーの無いこいつとは距離を置きたいということだ。どうやってこんな人が教師をやっているのか不思議になった。・・・いや、今のご時世、教師という職業は色々と大変だと聞いている。逆にこれぐらいのガサツと言うか、図太さが無いとやっていられないのかもしれない。そう思うとなんだか少し許せてきてしまう。都合よく考え過ぎだろうか・・・・・・

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