第3話

 そして数日後。


 お隣さんとエレベーターで一緒になった時に

「あの、すいません、お一人暮らしですか?」

 と聞かれ、答えた。


「はい、そうですが・・・・・・」


「ああ、いえ、でしたら大丈夫です、すいません」


「???」


 更に別の日には管理人さんから


「誰かご家族が遊びに来られていますか?」


「え?いえ、ずっと一人っすけど、どうかしましたか?」


「ああ、いえ、ならいいんです。もし一緒に住まわれるとかでしたら、一声お掛けくださいね。契約書の記載の変更とかしないといけませんから」


 形式的な申告だったのかどうかは分からなかった。ただなんとなく察しは付いた。608号室のあの子がまたマンションの下の入口か玄関で”待ちぼうけ”をくらっていて、僕と同じように考察したり心配になって勘違いしているんだと思い、今度見かけたらもう少し話を聞いてあげよう。そう思った。


 そんな矢先に、実家の母から連絡があり

「あんた、成人式どうするね?」


 そういえばそんな行事があることをすっかり忘れていた。母としてはようするに「帰ってくるのか?」ってことなんだと思うけど僕は、仕事が忙しくて帰れないし、と答えると共に、こっちの成人式にでも行って小学校の友人たちとそして親友にも会って交友を深めておこうと閃いた。この時点ではまだスマホではなくガラケーの時代ではあったけど、メールや個人電話で交友関係の繋がりを維持するのは可能ではあったので丁度いいと思いました。


 少しわくわくしながらその日を楽しみにして、そして成人式の日。


 スーツに身を包み市役所へと着いた。地域で区切られた場所へ行って見ると何人かは覚えている友人や知人と会話をし、それぞれの思い出話や僕と同様に上京や引っ越しをしている者も多くみんなの行く末を聞いて回った。しかし時間が経つにつれ殆どが高校や中学が一緒だった同士で自然と集まり、僕は一人浮き出してしまいずっとあの親友を探し回った。でも全く見つけることは出来ない。流石にお互いが大人になっていて記憶と全然違う印象かもしれない。小学生の頃の姿とは僕自身も違うだろうと思うしね。だから当時の先生を探した。一人でも来てくれていればいいなと願いながら探していると、小学三年生の時の担任が後ろの方に来てくれていた。僕のことを覚えてくれているだろうか。少し不安になりながらも声をかけてみた。


「ああ!覚えてますよ。元気ですか?」


 真偽は分からないし、別に問い詰める必要もないので僕は話を続けた。


「はい、元気です。あ、あの先生、くん知りませんか?探しているんですけど・・・・・・」


「トオルくん・・・あ、○○山神社のトオルくん?」


 そう言われて、確かにそんな印象の記憶が蘇ってきた。トオルの父親に会ったことが一度だけあったが白い着物姿だったのはそういうことかと、今、合点がいった。子供の知識ではその衣装が神主や住職という認識は出来なかった。


「そう、多分、そうだと思います。トオルと僕はずっと仲良しでして、トオルに会いにここに来たようなものなんですけど、全然居なくて」


「・・・・・・あ、そうか、君は転校して知らないんだったね」


「はい、小学四年生の時に親の都合で引っ越しました」


「色々あってね・・・それで私も覚えているんだけど・・・中学の時にのよ」


「え?!・・・マジすか?」


「うん。中学時代の詳しいことは中学の先生とかに聞いてみないと分からないけど、担任だった私の所にもお葬式の知らせがあってびっくりして・・・ご家庭のは聞いていたけど、まさかねぇ」


「事情・・・ですか」


「・・・トオルくんのお墓、行く?」


「え?あ、はい。是非行きたいです。先生はこの後、大丈夫なんですか?」


 なんだか先生との密会をするかのように周囲を見渡して、成人式という会場を警戒しながら言った。


「まぁ、ほとんど顔だけ出すみたいなものだから、もう十分なのよ。なんなら帰る口実が欲しいぐらいだったし丁度いいわ」

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