第2話

 帰省してきた初日以来、また小学生のころに親友とよく遊んでいた公園にやってきた。ここでよく虫を取ったり猫を隠して飼ったり、秘密基地を作ってお菓子を持ち寄って食べていたなぁと回顧に浸っていると、あの男の子がまた一人、木の下で体育座りをして顔を膝下に埋めていた。他に今この公園にはだれも居ないので友達や家族と来ているということは無かった。もし同じマンションの住人ならご近所さんというわけだから、声をかけないのも不自然だとも思い

「やぁ、同じマンションだよね?この、角を曲がった先のさ」


 男の子は顔を上げて、無表情に首を振る。


「あ、そっか、ごめんね、何度かあそこのマンションで見かけたから・・・あそこに家族かだれか住んでるの?中学生?高校生、かな?」


 無言でこちらを見つめてくる。酷く窶れて覇気がなく、いや、生気が無いと言ってもいい程にじぃ、っと見つめてくる目は焦点があってないようにも思えた。僕の後ろ、まるで後頭部でも見ているような遠くを見る目でずっと見つめてくるので、ぞぞっ、と悪寒がしてしまいなんだか嫌な予感もし軽く会釈をしてその場を去っていった。


 この時ふと思ったんだ。そういえばあの『親友』に似ていると。


 でも年齢的にはありえない。親友は僕と同級生な訳だし、弟が居たっていう話は聞いたこともないし見かけたこともない。親友の子供にしては大きいし、いとこや親戚にしては似すぎている。そんな変な違和感を感じたのもあってその場を離れたくなったのかもしれない。

 

 その日の夜。


≪ピンポーン≫


 自宅のインターフォンが鳴り、誰かが家にやってきた。出前を頼んだ訳でもないし新しい職場でプライベートまで交流をしようと思えるような友達はまだできてもいない。不動産やオーナー関係か何かかとも思いながら

「はい」

 受話器を取ってモニターを見てみると、先ほどの男の子だった。


「どうした?」

 と聞いてもまた何も喋らない。さっき公園で聞いた時はここに住んでいる訳ではないという風に首を振っていたけど、この子の聞き間違いか何か伝わらなかったのかもしれない。とりあえずオートロックの鍵だけ解除してあげた。


 その後、三十分ぐらいしても家の玄関のインターホンが鳴ることはなかったので、やっぱり608号室に住んでいるのかと思った。僕が子供の時もそうだったんだけど、高校生になるまでは家の鍵は持たせて貰えなかった。家庭によるかもしれないが、僕のとこは母が専業主婦で必ず家にいるので鍵を持つ必要が無かった。そんな家庭は子供に、特に男の子に鍵を持たせていても無くしてしまう危険が高くなるだけということなんです。で、よくあるのが母がトイレに入っていたりと、何か用事をしていて開けてやれないってのが”あるある”なので、それと同じことがよくあるのだろうと勝手に解釈していた。

 

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