第57話 リターンがないはずの勝負の結末。




 えっと、なんか対決することになった。

 でも受けた勝負だし。

 俺が確実に勝てるだろう勝負を受けないわけないだろう。


 バットをボールに当てればいいのだ。

 それだけだったら誰だってできる。

 秘技バントがあるのだから。

 当たらないわけがない。


 負けるわけにはいかないし、カッコ悪いといわれても知ったことか。

 

「それじゃあ才人くんから先に打つのでオッケー?」


「いや、同時にやればよくないか?」


「そしたら打ったのか打ってないのかよく分からないじゃん!」


「あ……そうか。分かった」


 バント作戦が意図せず禁じられた。

 流石に稲城に見られている中でバントをするわけにはいかない。

 絶対文句を言われてやめさせられるし。

 最悪罰ゲームとか持ってこられるに違いない。


 あ~~憂鬱だ。

 まさか作戦を封じられるなんて。

 まあ打率っていうのか? は稲城よりは高いみたいだし。

 まあ勝てるだろ。


 個人的にかなりできたつもりだ。

 20回中、19回だ。

 もう勝ったも同然だろう。

 稲城には悪いがかなりのプレッシャーをかけてしまったな。


 ……と思っていた時間が俺にもありました。

 結果的に言うと負けた。

 惨敗ってわけではないが稲城は多分実力を隠してたんだろう。

 さっきまでの調子とは全然違ってポンポンとボールを打っていった。


 最初の方はギリギリ当たってる感じだったから安心していたのに、ちょっと経った瞬間に確実に当てるようになりやがった。

 ペディアは勉強面では天才だがほかの面では普通だ。

 それに比べて稲城は多才というのが最もあっている気がする。

 以前に表彰伝達式で有り得ないほどの賞をもらってたし。

 その中には運動に関するものもあった。とはいえ敢闘賞とかばかりだったけども。

 でもそれをもらえてるだけで才能があるのは確かだったんだ。

 それにペディアとテストでいつも4、5点しか違わないから勉強面でも十分ペディアと並ぶ天才だろう。

 そんな雲の上の存在に勝負を挑むこと自体が間違っていた。

 俺みたいなミジンコが神に届くはずがないし。

 思い上がりもいいところだ。

 少しでも調子に乗った俺がバカだった。

 何もかも平凡(本人目線)で人並みしか才能のない(本人目線)な俺が敵うはずもない。

 何思いあがってるんだろ俺、本当に馬鹿じゃないか。


 本人曰く、

「さっきのはホームランを狙ってたから当たらなかったのかな? もしかしたらあたしって案外うまいのかも!」

 らしい。


 俺が打ってるときは、

「ヤバい! 負けるかも!」

 とか言ってたくせしてちゃっかり勝ってくるんだから本当にやめてほしい。


 それに対して、

「俺一応ボールには当てれるからな」

 とか言って調子に乗っていた俺を本当に呪いたい気分だ。


 何が当てれるだよ。

 結局負けてるじゃないか。

 俺めちゃくちゃかっこ悪い奴じゃん。


 ……でもよく考えたら負ける勝負をわざわざ相手に吹っ掛けるのはアホのやることだもんな。

 俺のほうが考えなしだったのかもしれない。


 でも俺だってかなり頑張ったんだぞ?

 稲城が天才肌ってだけか。

 もうお前文芸部じゃなくて野球部行けよ。

 思わずそう言いたくなるくらいである。


「で? 何してもらおっかなあ~」


 え? 何かされるの?

 条件つけてなかったよな。

 俺の気のせいだろうか。


「えっと……何されるんでしょうか……」


「う~~ん……秘密!」


「またそれか? モヤってするからやめてほしいんだけど。」


「ダメ!無理で~す!」


「分かっててそれやってるだろ。マジでやめてくれよ」


「やめませ~~ん。」


 本当に調子が狂う。

 どうしたら俺の調子に持っていけるだろうか。

 どうもその映像が思い浮かばない。

 考えるだけ無駄だし、こんなこと考えるのはやめよう。


 結局俺は稲城に何度も尋ねたが終始「秘密」の一点張りで何をされるのかを教えてくれることはなかった。

 俺はこのまま何されるか分からない恐怖を抱えて学校生活を送らなければならないらしい。

 そう考えると途端に面倒くさくなってきた。

 俺はもっと普通(本人目線)の学校生活を送りたいっていうのに。

 どうやら俺の理想からはどんどんかけ離れていくらしい。


 まだかろうじて普通の学校生活(本人目線)を送れてるから良いものの、このままだと本当に普通(本人目線)の学校生活が送れなくなる気がする。


 まあ。俺の気のせいか。

 普通(本人目線)な俺がほかと違う学校生活なんて送るはずないもんな。

 考えすぎか。

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