第32話 カオスな我が家。
俺は乃愛のために台所に立っていた。
小学生の頃、俺は母さんから「料理できない男子は甘え、普通の男子なら料理できる」と言われ続けた。
だから俺が料理できるのは普通のことである。
とはいえ乃愛と比べるとそこまで上手くは作れない。
精々名前に知られてる料理を一通り作れる程度で、味付けの具合とか、そういうのはよく分からない。
でもこうやって手伝い程度なら余裕だ。
「お兄さんって料理男子なんですか?」
「ん?世の中の男性って大体そうじゃないのか?家は交代制だから全員が料理できるけど、普通はそんなもんだろ。」
「その偏った情報はどこから仕入れてるんですか…」
偏ってる?偏ってるとはどういうことだ?
これが普通じゃないのか?いやそうに違いない。
乃愛の性格が普通から遠ざかったのも、もしかしたら妹が通っている中学に問題があるかもしれない。
だって二人とも普通の感覚から離れてるじゃないか。
はぁ。こうやって治安が悪くなるのか…
乃愛とこの子だけでも魔の手から守ろう。
「偏っていない。断じて常識的な話だ。」
「…これ何言っても無駄なやつですね……
そうですね。分かりましたから、お兄さんは料理に集中して下さい。」
最初に小声でなにか言ってなかったか?
怪しい。
「今何か言ったよな?もう一度言ってくれるか?」
「お兄さんは料理に集中して下さいですか?」
「いや、それじゃない。その前だ。」
「そうですね。分かりましたからですか?」
「その前だ。」
「その偏った情報はどこから仕入れてるんですかであってます?」
「行き過ぎ、その直後だよ。」
「私何も言ってませんよ?」
そんなはずがない。
絶対に何か言ってる。
俺に対する文句だったような気がする。
「そんなわけない。俺は聞こえたからな。」
「あんまりしつこい男は嫌われますよ〜良いんですか?可愛い妹さんに、乃愛ちゃんに嫌われても良いんですか?」
うぐっ…そう言われるとこれ以上は聞けないな。
全く乃愛を掛け合いに出してくるとは卑怯だぞ…
「いや…だ…」
「何言ってるの?お兄ちゃん馬鹿な話してないでそっちの野菜切っててくれない?」
おっと。つい本音が出てしまった。
今のを乃愛に聞かれたかと思うと流石に恥ずかしいな。
…それにしても量多くないか?
こんな量の食材食いきれないと思うけど…
「こんなたくさん使って何作るんだよ。絶対に少し余るぞ。いくら可愛い乃愛だろうが流石にこれは両親に怒られるぞ。」
「え〜っと…あれ知らない?まだ人呼んでるんだよ?」
何その初出情報。
乃愛が呼ぶ友達なんてもう一人くらいしか思いつかないんだけど…
「え?何それ俺聞いてない。」
「それ口癖なの?やめたほうがいいよ。というか言ってなかったか〜…まあいいやお兄ちゃん取り合えず料理!」
それは酷いぞ。
教えてくれたっていいじゃん。
お兄ちゃん傷つくな〜
「無視しないで欲しいな。取り合えず誰が来るのかお兄ちゃんに教えて?」
「う〜ん…確か、高坂さんだっけ?あと堂川さんを楓花先輩が呼んだって言ってました。堂川さんって人がもう複数人呼ぶ可能性があるらしいので少し多めに作っていただけだよ。」
どんな修羅場だよ。
堂川、呼ぶなよ。絶対に呼ぶなよ。
ただでさえめちゃくちゃになりそうなんだぞ?
確かに家はそれなりに裕福だから家も広めだけど流石にその人数+αは結構窮屈になりそうだ。
「サラッと言うのやめて欲しいな。高坂先輩と堂川という最悪な組み合わせもまたな… はぁカオスだよ。」
本当に。特にこの場で振られでもしたら……
その空気感に耐えられる自信がないし、慰められる自信もない。
「今更だけどさ、そのお泊り会ってやつやめない?」
「え?無理でしょ。もう呼んじゃったし…私もそんなカオスになるなら呼ばなかったよ…」
「そんなって乃愛は知ってるのか?どれだけカオスなのか。乃愛はわからないだろ?もしかして稲城さんにでも聞いた?」
「ん?お兄ちゃんの反応で分かるけど?」
マジか。やっぱり乃愛ってメンタリストか何かか?
本当に兄のことをよく知ってくれていて何よりだ。
「そっかぁそんなお兄ちゃんノコト好きなんだぁ〜」
「変な言い方しないで変態…」
…くっ…キツイ…
ヤバい…壊れちゃいそう……
_ピンポーン…
あ、もしかして稲城かな?
それとも堂川か?
取り合えず羽村に出てもらおう。
「お〜い、羽村ぁ〜玄関見てきてくれ。」
「了解しました〜それじゃあ見てきま〜す。」
まるで昔の乃愛のような返事だ。
関心関心。
「あ、忘れてました!私の名前ただの呼び捨てで呼ぶのはやめてくださいね〜今度からはちゃんと瑞穂って読んでください!」
「はいはい。わかったよ瑞穂。本当に頼んだからな?」
「……何で少しもドキっとしてないんですか…
わかりましたよ馬鹿なお兄さん♪」
馬鹿は余計だろ。
普通に傷ついた。
俺、傷心です。
「馬鹿なこと思ってないで早く手を動かして、お兄ちゃん。」
「わかったよ乃愛。任せなさい!」
あはは、乃愛に情けない姿は見せられないな。
頑張らないと。
「お兄さ〜ん!楓花先輩たち来ましたよ〜」
声が聞こえる。
堂川と…ペディア…ペディアはカオスだろ。
ってことは本当に大勢いそうだな…
何人来るんだよ、全く。
人の苦労も考えて呼んで欲しいものだ。
特に堂川、ペディア、お前らな。
はぁ、疲れる…
「了解。上げてくれ。」
「入っていいよ〜」
「ねぇ堂川、ここどこなの?」
「いや、そりゃああれだろ」
「あれじゃわからないよ〜ウチ知ってるから!確か、何だっけ?」
「先輩のそういうところも素敵!」
うわ…何だよ…めちゃくちゃクラスメイトとかいるじゃん。
カラオケの日の半分はいるぞ…
あと高坂先輩と堂川の掛け合い普通にムカつく。
ここはデートスポットじゃありませんよ。帰って下さい。
…後で堂川には説教だな。
というか日野さん友だちと遊ぶってここなの?
マジかよ。
絶対にあの会長になんか言われる。
あ〜胃がキリキリする…
でもそれより確認しておかないといけないことがある。
「ていうかこれ全員うちに泊まるの?」
「いや?私と楓花先輩だけですけど?みんな多分遊びに来ただけですよ。安心して下さい。」
あっ、そこは普通なんだな…っ…
って稲城まで泊まるのかよ。
あ〜俺の平穏が…潰されていく……
まあいっか。何とでもなるだろう。
__だって乃愛が誘ったのだから!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます