閑話 ある週末の誕生会



 今回の話は主人公の妹、乃愛の誕生日の特別話です。

 と言っても結構物語とつながりがあるのでぜひ読んでみてください。

 大体第19話と第20話の間の話になっています。

 忘れた方は申し訳ないですが読み返してくださるとありがたいです。

 ちなみに少し長めになっています。悪しからず。



______________




 今日は乃愛の誕生日である。

 しかし、うちの両親は薄情なこと誕生日はプレゼントと外食、それとケーキだけでいいだろうと考えている。

 それが俺の誕生日だったならいい、むしろ嬉しいくらいだ。

 でも乃愛の誕生日となれば話は別だ。


 盛大にお祝いする準備をしなくては。

 といっても、大体そういう飾りであったり、パーティーグッズであったりは以前何故かひったくり事件遭遇した日に買ってある。

 後はどう飾り付けるかだ。


 とりあえず、昨日の夜に自分の部屋で大量の風船を膨らませたからそれから飾るか。

 乃愛はその友人の羽村と同じ部活の稲城さんに頼んで夜まで遊びに行かせた。

 これでサプライズの準備をする用意はできた。


 ということで家近い友達でも呼んで手伝ってもらおうかな。


『今から俺の家に来てくれ。手伝って欲しいことがあるんだ。前にやりたいって言ってたゲーム貸すからいいだろ?』


 送信っと。

 以前一緒に途中まで帰ったことがあるので多分家の場所は分かるだろう。

 既読は…午後には付くか。

 それまでは一人で作業頑張ろう。

 どうせ両親は手伝ってくれないだろうしな…


 普通、こんなにも可愛い可愛い娘の誕生日なのにここまで薄情な親がいるだろうか。いやいない。

 うちの両親が特別、心がないに違いない(迫真)。


 そんなことを考えつつ、乃愛の喜ぶ姿を想像する。

「ありがとうお兄ちゃん!大好き!」

 うん、こうなるに違いない。

 思わず頬が緩んだ。


「才人…何だらしない顔してるの…もっとシャキッとしなさい!」


 なぜ母さんに怒られなければいけないのだろうか。


「母さん!俺は今、乃愛の誕生会の準備してるの!手伝わないならどっか行って!」


 すかさず俺は反論する。

 乃愛のためだ。例え鬼母だろうが一つも怖くない。


「そんな口聞く子に育てた覚えはありません。」


 これは少しマズイか?

 いや諦めるな俺。全ては乃愛のためだ。


「可愛い乃愛のためだよ?そりゃあこのくらい言うって。逆に何?俺のやってることは間違ってるとでも?兄として微笑ましいことじゃないか。」


 流石に言い過ぎた…


「本当に…もう好きにしなさい。」


 あれ?意外とあっさり引いてくれた。

 案外ガツンというのもアリだな。


「ああ、そうさせてもらう。乃愛の誕生会は俺が絶対に成功させる!」


「はあ~………」


 思いっきりため息が聞こえた。

 聞かせるようなため息はやめて欲しい。

 言うことを聞かない息子のためにわざとしているのだろうが、それでもテンションはダダ下がりだ。


 いけない。今は会場設営に集中集中!

 え~っと、先ずはリビングにでっかくHAPPY BIRTHDAY NOA !って風船を並べるとこからか…

 中学までやれる小遣い稼ぎが限られていたからこんなことはできなかったが、今では短期バイトのおかげで乃愛を盛大に祝えるくらいの資金がある。

 誕生日プレゼントを買う分にも余裕は持たせたが、軽く5000円を超えてしまった。

 でも後悔はしていない。

 むしろ晴れやかな気分である。


 よし、風船頑張って並べるぞ~


______________


_ピンポーン…


 チャイムが鳴った。

 どうやら助っ人が来たらしい。


「堂川いらっしゃい。いきなりで悪いがそこの天井からあっちの右側の天井までこの旗をつけるに手伝ってくれ。」


「いやいいけどな!?この状況なんだよ!?アメリカ人とパーティーでもするのか!?」


「いや?乃愛の誕生会だけど?無駄話している時間が勿体無い。ほら、早く手を動かしてくれ。」


 そうしてくれないと困る。

 乃愛の友人の羽村と稲城さんがどこまで乃愛と遊んでくるのか分からない。

 案外早く帰ってくるかもしれない。


「このシスコンめ…」


 誰のことを言ってるのだろうか。

 まあいい。とりあえず準備頑張ろう!



____二時間半後…


「ふぅ。ようやく終わったな。ありがとう堂川、今日だけは感謝しとく。」


「ヘイヘイ。それで?カセット。」


「はいはいどうぞ、一週間後には返せよ?」


「わかったって。てかもうすっかり昼過ぎてんじゃん。クソ疲れた~」


「昼飯食っただろ?昼食代も一応かかるんだからむしろ感謝してくれ。」


「いや手伝った俺に感謝すべきだろ!?」


「それもそうだな。改めてありがとう堂川。」


「別にいいってことよ!」


「お前それ言いたかっただけだろ?」


「うっせ。じゃあな。」


 本当に調子のいいやつだ。

 まあ面白いし過ごしていて馬鹿話ができる貴重な友人だからな。

 それくらいは許してやるか。


 後は乃愛が帰ってくる前に俺と両親が外食にピックアップしてそのまま外食、家に帰ってきてサプライズ成功って算段だ。

 とりあえずは羽村か、稲城さんからライムが来るのを待とう。


______________



『お兄さん!もう少しで解散になりそうです!』


『場所はモールです!正面入口で待っていてください!』


 ナイスタイミング!時刻は六時前、外食の予約の時間につくことを考えるとバッチリである。

 調整をここまでしっかりとしてくれた羽村には感謝である。


『了解。すぐ行く。』


 俺はすぐさま両親に声をかけて、乃愛を迎えに行った。


「乃愛ぁ~今日は外食だからお兄ちゃんたちが迎えに来たぞぉ~」


「分かった。でもその語尾キモイからやめて。…瑞穂ありがと!今日はとっても楽しかったよ!じゃあね~!あと、楓花先輩もありがとうございました。今度また一緒に遊びましょう。」


「うん!また明日ね。」


「全然敬語じゃなくていいのにな~…うん!今度も一緒にあそぼ!」


 …なんだあの可愛すぎる乃愛は。

 思わず失禁しそうになった。

 本当に危ない。


「で?外食ってどこ?私行くところ知らないんだけど。」


「どうせ焼肉だろ。毎年の経験が物語ってるだろ?」


「それは確かに!」


 その後、俺たちはやはりというべきか焼肉に行った。

 でも乃愛が楽しんでいたので俺としては満足である。


 乃愛の笑顔サイコー!!

 …いけない。サプライズを忘れるところだった。


 今頃俺の家には羽村と稲城さんがくつろいでいることだろう。

 二人とも乃愛と仲良さそうだし。適当に呼んでおいたのだ。


『もうすぐ帰る。俺は予め置いておいた自転車で先に帰るつもりだけどそっちも準備しといてくれ。』


 ライムでそう送った。


『了解だよ~任された!』


『当然です。準備して待ってますね。」


 二人共からライムが来た。

 既読の速さが尋常でなかった。

 でもこれなら安心できそうだ。

 俺も急ごう!



______________



「ただいまー。早く準備しなくては!」


「お兄さんお帰り。そこまで焦らなくていいですよ。すべて終わらせてます!」


「才人君お帰り!ほらほら、早く着替えて!時間はないぞ~?」


「分かってる。さっ急いで最終準備だ!」


 乃愛の驚く顔が楽しみである。


_____________


「ただいまお兄ちゃん。先帰って何してた…」


 パンっ


 クラッカーの音がなる。


「え?何急に…え?瑞穂に楓花先輩まで…どうしたの?」


「せーの、「「乃愛(ちゃん)(ぁ~)誕生日おめでとう!」」」


 すごい目が点になっている。

 余程驚いたに違いない。


「えっと…ありがとう?」


「乃愛ちゃん、疑問形じゃなくて素直に喜ぶのが吉ですよ!こんなことしてくれるお兄さんってなかなかいませんから。」


「お兄ちゃん…その………ありがと。」


 照れてる乃愛ちゃん最高。

 写真を取らなくては。


 閑話休題。


 その後、リビングに入った乃愛はリビングの飾り付けの本気さに驚いていたが、それよりも片付けの心配をしていた。

 素直に今を楽しんで欲しかったな…

 ちょっと残念。

 そのままケーキを食べて、ある程度の馬鹿話をした後、ついにプレゼントを渡す時間がやってきた。


「乃愛ちゃん、これ私からのプレゼントです!きっと似合いますよ!」


 前に乃愛が欲しいって言ってたブローチだ。

 あまりにも高かったので断念した。

 …どうして羽村さんはそんな高いものを?

 やっぱり親友だからか。


「じゃああたしからはこれ。前に肩掛けカバンほしいって言ってたから。喜んでくれると嬉しいな。」


 え?何それ。おれ知らない。


「二人とも本当にありがとう!」


 あの乃愛が目をウルウルっとさせている。

 これはいい流れだ。


「俺からはヘアアイロンを。羽村から聞いたぞ。すごい欲しがってるって。」


「…お兄ちゃんにしてはやるじゃん。開けていい?」


「もちろん!」


 心臓がバクバクいってる。

 これで酷いことを言われようものなら俺のライフはゼロになるだけでなく、最大体力まで一になってしまう。

 緊張の瞬間。


「これホントに!?え?最新の評判いいやつじゃん!ありがとお兄ちゃん大切に使うね!」


 ………うおおおおお、乃愛が…デレたああああ

 はあ、はあ、はあ、落ち着け俺。

 こんな事では台無しだろう。


「…あ、ああ大切にしてくれ。そうしてくれるとお兄ちゃん嬉しい。」


「最後の一言がなければ最高だったのになあ…」


 へ?俺、最後の最後でやらかした?

 何を?

 お兄ちゃんしょんぼり。


 こうして初めての乃愛の誕生会ははっきりしない結末で終わってしまうのだった。







「あれ、からかっただけなのに。お兄ちゃんの鈍感。」


______________



 余談ですが、天川乃愛の誕生日は5月7日の設定です。

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