第30話 束の間の平穏…なんてない。




 最近はイベントが多くて疲れる。

 中学みたいに運動部には入っていないのでもう少し楽かと思ったらそうでもはなかった。


 事実、中学の頃よりも絡んでくる奴らが多すぎて付き合いとかですごく乃愛との時間が減らされている。

 別に友達付き合いが嫌というわけではない。

 カラオケは嫌だが、意外と他のだったら結構何でも楽しかったりする。

 ならなぜ俺が友達付き合いを避けたいと思うか。

 それは前にも答えが出ている。

 そう、愛しき乃愛のためである。


 今日は久しぶりに乃愛とゆっくり過ごせる日である。

 そう、そのはずだった。


 珍しく休日出勤な父さんが忘れ物をしたのだ。

 弁当とか、傘とかならまだ無視できた。

 それが無情にも忘れ物がミーティングで使う資料らしい。


 そこで家で一番権力のない俺が半ば強制的に届けに行くことになった。

 電車やバスで直接行けたならまだ良かった。

 しかし現実は無情で、微妙にそのどちらにも当てはまらない位置に父さんの会社はあった。

 実に無念だ。

 しかし仕方が無いので行く。

 文句の一つでも言いたかったが、母さんにいくら文句を言っても状況が酷くなるだけなのでグッと堪えた。否、堪える他がなかった。

 本当に現実は無常である。


 結局自転車で行くことになった。

 中学以来乗ってないのでタイヤに空気を入れるところからしないといけない。

 俺はため息を吐きながら、空気入れをし、そのまま父さんの会社へと向かった。


__________________________



 今回で父さんが資料を忘れる回数が二桁に達する。

 本当に忘れグセをどうにかしてもらいたい。

 途中、信号で止まっている間にそんな事を考える。


「あ、お兄さんじゃないですか!。今日は乃愛ちゃんと一緒じゃないんですか?」


 誰かから急に話しかけられた。

 この辺で話しかけられる知り合いに心当たりはない。

 でも聞いたことあるような?

 …あ~以前買い物に付き合ってくれた、確か…ああそうだ、羽村瑞穂ちゃんだった。

 それにしてもこの子の煽りのセンス上手いな。

 危うく泣きそうになってしまったよ。


「生憎な。で、何の用?俺は早く父さんに荷物届けなきゃいけないんだよ。用がないなら俺行くけど?」


「えっと、このあとお兄さんたちの家に行くので伝えておこうかなっと思いまして…」


「え!?そうなの!?マジか…俺、乃愛に帰ったら癒されるつもりだったのに…」


 やっぱり乃愛に癒されるのは諦めよう…

 乃愛の人間関係を良好に進めさせる方が最優先だ。


「あ、信号青になりましたよ。早く行った方がいいんじゃないですか?お父さんきっと困ってますよ。また後でじっくり話しましょうね♪」


「ホントだ。ありがとう。じゃあまた後でな。」


 この子、気遣いとかできたんだ。

 すごい身勝手な印象だったがよく考えたら俺の買い物に付き合ってくれていたし、意外と親切なのか?

 でもなあ、あれは俺も買い物に付き合ったから実質、等価交換だし。

 よくわからんな。

 今度乃愛にでも聞いてみよう。


__________________________



 会社に着く。

 幸いまだミーティングと伝えられていた時間まではまだ余裕がある。

 今まではギリギリのタイミングで伝えられていたのでまだましだろう。


 それでも遅い。だって俺が着いたのは1時間前だぞ?

 そんな大切な資料ならまず忘れるなって思うし、忘れるにしても会社に着いた時点で気づいて連絡すべきだろう。


 尊敬できる点も多いけど、この忘れっぽさですべて台無しにしている。

 こんな大人にはなりたくないなって思った。

 見習うべきは何もかもを真に普通(本人目線)にこなせる母さんだ。

 そんなことを考えながら受付まで歩いた。


「すみません。天川亮の息子です。父の忘れ物を届けに来ました。お願いできますでしょうか。………本当にうちの父がすいません。」


「才人君いつも大変だね。ご苦労様です。お父さんには届けておきますので安心してください。」


 この受付の人は優しいには優しいが何故か一番最初に届けたときにも俺の下の名前を知っていた。

 きっと父さんが飲み会とかであることないことを話している間に話題として出したのだろう。また少し俺の中の父さんの株が下がった。


「ありがとうございます。それではよろしくお願いします。僕はこれで帰ります。ありがとうございました。」


 いつ行っても緊張するな。

 だって社会人の中に一人だけ高校生って何か変な感じがするし。

 あ~疲れた。大したことではないかもだけど自転車で一時間はやっぱり遠い。

 急いで帰ろ…


 スマホが鳴った。乃愛からライムが来た。


『伝え忘れたけど今日友達来るから。』

 

 うん乃愛ちゃん、それ知ってる。

 さっきその友達にもあったし。

 まあ、帰ってくんなと言われてないからお兄ちゃん満足!

 少しくらいは気遣って欲しかったけど…

 取り合えず返信返信。

 『了解!』っと。

 …それじゃあ家まで帰ろう!


______________


 何かやけに騒がしいな…

 早く帰りたいのに厄介事とか勘弁だぞ。

 それにしてもすごい既視感。

 でも不思議と胸騒ぎはしない。


 音が聞こえる方向を見る。

 すごい人だかりができている。

 もしかして何かあったのだろうか。

 気になった俺はその方向に向かった。


「クソ兄は着いてくんな!私は友達と遊びに行くの!」


「いいじゃないか。可愛い妹に怪我でもあったら大変だろう?俺がついていくのは当然の話じゃないか。」


 二人とも見覚えが…

 あっ。会長と日野さんだ。

 そういえば名字同じだよな。兄妹だったのか。


「ウザいんだけど?クソ兄が来ても迷惑なんだって」


 …俺だったら迷惑かもしれない。

 だけど会長だったらむしろ大歓迎だと思うのだが…

 女子とかキャーキャー言うに決まってる。

 …もしかしてデートとか?


「そんなの関係ない!愛さえあれば!」


「だから!やめてって!」


 胸騒ぎはしないとか思ってたけどクソ問題が起こってるじゃないか。

 とにかくここじゃ目立ちすぎるから別の場所に日野兄妹を移動させよう。


「二人とも?お取り込み中申し訳ないけど見られてるぞ?」


 その瞬間、二人の美形は赤面した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る