第29話 うまい違い




 カラオケとか中学の2年以来行っていなかったし、最近あまり曲を聞いていなかった。

 つまり俺は予期せず自分からピンチに駆け寄ってしまった。

 しかし一度やると言ってしまったからには、それをやり遂げるのが普通なので、俺は断ることができない。

 つまり詰み以外の何ものでもない。


 できるだけ料理の注文聞いたり、音楽入れたりする係としてその場で過ごせないものか…

 無理だろうな。

 ウェイ系が一人いる時点でもう無理だろう。

 とりあえずイヤホンで最近の曲を聞いておこう。

 記憶力には自信があるから案外なんとかなるかもしれない。

 でも歌わないのが一番だ。

 裏方に回れば歌う回数を極力減らせる。

 それならばそうするのみだ。


「みんな~何飲むか言ってくれ。とってくるから。」


「…それなら私も手伝うよ。」


 中野さんが話しかけてきた。

 正直一人で運ぶのは無理があるので助かるが、それでも二回に分けて行かないといけなさそうだ。


「じゃあお願いしようかな。僕はコーラかな。あと、周りの奴らも全員コーラだからよろしく~」


「俺らは全員サイダーで!頼んだぞ~!天川!」


「俺は普通にお茶がいいな。頼めるかな。」


「オッケー。男子はコーラ13人、サイダー4人、お茶2人でいいよな?」


「ああ。多分あってる。ありがとな。」


「じゃあ行ってくる。中野さん、そっちは聞けたか?俺もう先行ってるからな。」


「…え?あ…うん。」


「やっぱり待つよ。」


「…!、ありがと。」


 なんだこのぎこちない雰囲気は。

 すごく気まずい。

 そのまま黙ったまま俺たちは飲み物を入れに行った。


__________________________



「そんなに入れて大丈夫?一回で持ってける?」


 中野さんが沈黙を破って俺に話しかけてくる。

 やっぱりこの量のドリンクを一気に持っていくのは無理があるのだろうか?

 普通に持っていけそうな気がするけど。

 お盆があるから余裕だろ。


「幸いお盆があったからな。たぶん大丈夫。」


「そっか。…ねえ今日一緒に歌わない?」


 唐突にそんなことを言ってきた。

 危ない。

 もうちょっとでこぼしてしまうところだった。

 本当に急な衝撃発言はやめていただきたい限りである。


「どうしたの?大丈夫?…もしかして嫌だった?」


 それはズルい。断るって選択肢がなくなるじゃないか。

 …まあいっか。もし歌えなくても学校で散々にいじり倒されるだけだし。

 この際、中野さんの喜ぶ姿が見れたらそれでよしとしよう。


「全然。いいよー。俺歌下手(本人目線)だけどいい?」


「大丈夫!私がカバーするから安心してね。」


 何か中野さんって俺に甘くないか?

 やっぱ助けた時の恩をまだ引きずってるのだろうか。

 でもあれは普通のことだからな…

 面倒くさいし考えないでおこう。


「って扉開けっ放しじゃん。両手塞がってるからたまたま助かったけどさ。さすがに閉めなきゃダメだろ。」


「これ俺だわ。トイレ行くとき開けっぱだったから。でもそのおかげで助かったんならいいだろ別に。むしろこの彼女持ちを敬いたまえ。」


 堂川、あんまり調子に乗られると流石の俺でも耐えられなくなるから。

 

 そう思いながらも、華麗に堂川の自慢を無視して、みんなにドリンクを配った。

 ちなみに堂川は俺の声で慌てて扉を開きっぱなしだったことを思い出して戻ってきたらしく、すぐにトイレに駆け込んでいった。

 自慢する暇に行ってほしかったとつくづく思う。


「で、何選ぶ?」


「適当に流行りのやつ入れれば誰かしら歌えるはずだからいいだろ。じゃあそういうことで」


「適当だな全く。最近の人気のやつ順に入れていくけどそれでオッケー?」


「オッケー。」


 こうしてカラオケでの打ち上げが始まった。


「~♪~~♬♫♪~♪」


__________________________



 大体全員が歌い終わって、歌ってないのが俺と中野さんだけになった。

 これは歌う流れ…だよな。

 さすがに空気ぐらいは読めるのでごねるのはやめて、素直に歌うか。


「俺下手(本人目線)だから。嫌な思いしても知らないぞ?」


「それならむしろ私聞いてみたいかも!でしょ?宇川。」


「そうだね!いじりたい放題だからむしろ大歓迎だよ!!」


「お前な…もういいや。」


「それはそれで酷くないかな?」


 もう反応するだけ無駄そうだ。

 

 一緒に歌うか。

 うっわ、中野さん歌うっま。

 やばっ次俺の歌うとこじゃんか。早く用意しないと。


「♪~~♫♩♬♪♩♬~~♫♪♩~~~♬♪♩~~~」


 …うっわ。何だこの微妙な歌声。

 我ながら懺悔したくなってきた。

 これまだ続くんだよな…


「え?上手い…」


「何が上手くないだ。全然上手いだろ…」


 あのポテトフライそんなに美味しいのかな。

 後で食わせてもらおうっと。

 それはそうと全員がポテトフライの美味しさに酔いしれているのは明らかに異常だ。

 もしかしてはしゃぎすぎて疲れたか?そうに違いないな。


 このあとも何回か歌わされたが、その度にみんなはポテトフライの絶賛をしていた。

 これって新手の嫌がらせかなんかだろうか。

 それって誰が考えたんだよ。

 十中八九ペディアだな。

 あいつには何言っても無駄だし諦めよう。

 こうしてまったく意味のわからない形で打ち上げが終わった。

 俺まだ歌について触れられてないな。

 多分来週に一気にいじるつもりだろう。


 ほんと来週の月曜いじられるの嫌だな~

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