第16話 やらかし




 俺は乃愛を連れて今日は映画館に来ていた。

 というのも昨日俺が稲城さんに誘われたからだ。


 ではなぜ妹を連れてきているのかって?

 それはもちろん仲直りをするためである。

 一昨日からなぜか一方的に無視されていたのでどうにかならないかと思って今回は誘った。

 誘っても無視されるかと思ったが、俺が映画に誘ったら喜々として付いてきた。


 これってもう仲直りできたのでは?

 それなら行く意味なかったわ。

 でもせっかくの兄妹デートだ、全力で楽しむぞ〜!


_______


「お待たせ~才人く~ん。待った?って誰その女…」


「俺の可愛い天使たんを女呼ばわりするな!…全く。」


 失礼なやつだな。

 今度、乃愛の可愛いさを徹底的に教え込んでやろう。

 それにしてもちょっと取り乱してしまったな…


「お兄ちゃん?これどういうこと?」


「どういうことって?」


「…とぼけないで!私はお兄ちゃんと二人だけで映画を見に行くと思ってたの!マジ最悪…」


「それはあたしも聞きたいかもな~」


 二人の視線が痛い。

 俺、やらかした?

 そう言えば…乃愛には稲城さんが、稲城さんには乃愛が来ることを言ってなかったな~

 そりゃあ怒るか。予定にない人が来たんだもんな…

 俺だって怒る自信がある。

 事前に連絡しておくべきだったな。

 本当に申し訳ない。


「事前に連絡するの忘れててごめんな。でもそれでそこまで怒らなくてもよくないか?」


「それ本当に言ってるの?そうだったとしたら相当救えないけど…」


「はぁ。忘れてた。お兄ちゃんって相当鈍いんだった。」


「乃愛?流石にそれで鈍いはよく分からないよ?俺普通に足はクラスで2番目に速いんだからね?」


「ほら鈍い。」


「あ~確かに才人君ってそんな感じあったからね~そっか才人君って鈍いんだ…」


 二人して酷いな。

 俺はそんな亀みたいに遅くなければ、ナマケモノみたいに怠惰な訳でもないぞ?

 そんな俺のどこに鈍さがあるのだろうか。

 いやない。

 客観視してもそれは明らかだろう。

 でも二人に今ここで文句を言ったところで意味ないだろうな…

 仕方ない。

 せめて話をそらそう。


「ハイハイ。分かったから。映画、行くんだろ?」


「露骨に話題をそらしたね~」


「うっさい!モタモタしてるなら置いてくぞ!」


「お兄ちゃん。流石にそれは酷い。」


「ごめんな乃愛っ。お兄ちゃん絶対置いてったりしないから。な?」


 だから許してくれ。お願いします。こんなお兄ちゃんを許してください。


 閑話休題。


「お兄ちゃん。聞いてなかったけど、今日見る映画って何?」


「確か最近話題の恋愛映画じゃなかったけ?確かそう言ってたよな、稲城さん。」


「稲城さんだっけ?後で話があるんですけどいいですか?」


 乃愛。怖いぞ。せっかくの可愛いがもったいない。乃愛はもっと天使であるべきだ。いや今でもかなり天使だけれども。


「えっと~妹さん怖いですよ?」


「誰が怖いだって?誰が?乃愛は天使だろ?」


「っちょっと止めてよお兄ちゃん!人前でそういうこと言わないで!いつも普通とか常識とか言ってるけど、これ非常識だから!」


 え?父さんは普通って言ってたけどな…

 周りの視線が痛い。

 もしかしたら父さんの言うことは間違っているのかもしれない。

 これからは母さんの言葉だけを信じることにしよう。


 ってことは俺ってもしかして相当非常識な態度をとってたのか?


 …クソ恥ずかしいな。

 ヤバイ。穴があったら入りたい。


「お兄ちゃん。止まってないで早く行こ。」


「そうだね~始まっちゃうもんね〜急いだほうがいいかもよ!」


 あ〜恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしい。

 ん?なんか言ってた?

 そんなの今はどうでもいい。

 これじゃあ最近普通じゃないことが怒ったのも納得だ。

 妹に対する接し方を間違えただけでこんなことになるなんて…

 本当に最悪だ。


「…さっさと行く!」


「えっ?痛い痛い!突然引っ張るなよ!全く、乃愛じゃなかったら許してないぞ。」


「ごめんごめん。はい行くよ。」


 蛋白。俺の扱い雑になってない?


「それじゃあ、レッツゴー!」


 本当に稲城さんってテンション高いな。

 そういえば稲城さんテンション無理やり上げてるだけだったわ。

 そっか、高校デビューだもんな。

 よくわからないけど大変そう。


______________


「私、お兄ちゃんの隣に座りたい。ダメ?」


 急な上目遣い。

 もちろんいいとも。

 この可愛い天使のためなら何だってできる気がする。


「それならあたしも〜隣座るから!良いでしょ?」


「ダメ。」


「もう。勝手に座るからね!」


 稲城さん。無理やり過ぎない?

 強引にも程があるだろ…


「「…」」


 ん?何だこの空気。

 ん〜何か…居づらい…


 てか何だよこの状況。

 重い。本当に重すぎる。

 どうして二人とも睨み合ってるんだろうか?

 さっぱりわけが分からない。


 取り合えず映画に集中しよっかな。

 俺が入ったら余計面倒になりそうだし。


 そして映画の上映が始まった。

 その間もちょくちょく二人が睨み合っていたので、気になってあまり映画に集中できなかった。

 そもそも興味なかったからいいけどさ。

 なんかお金を無駄にした気分だ。


 で、何で二人ともまだ睨み合ってるの?

 いい加減仲良くしようよ。


 頼むから俺の話を聞いてくれ…

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