第14話 買い物




 まず俺たちは、美容家電のコーナーに来た。

 ヘアアイロンはあったが、どれを選べばいいのか正直言って分からない。

 この子がいなければきっと俺は苦渋の決断の末、結局勘で選ぶことになってしまっていただろう。

 本当にこの子と来てよかった。


「予算ってどのくらいなんですか~?それによって私が薦めるのも変わりますけど…」


「結構あるぞ。ちょっと前にバイトで稼ぎまくったからざっとヘアアイロンだけでも2万5千くらいは出せるな。」


 妹のためにコツコツと貯めてきたものだ。

 基本的に趣味はネットで完結しているため、バイト代は交際費と妹の誕生日プレゼントにかけられる。


「うわあ。本当にお兄さんってシスコンなんですね…普通妹でもそこまでは出せませんよ…」


 何を馬鹿なことを。これくらい普通だって父さんが言ってたぞ?

 むしろ2万5千じゃ足りないくらいだ。

 やっぱり妹がいない家庭だとそこの感覚がわからないのか…そりゃ当然か。

 知る必要ないもんな。


「そうなのか?俺は普通だと思うけど… ともかくこの予算ならどれがいい?」


「これとか良くないですか?すぐに温まるし、低温でもしっかりツヤが出るみたいですし、それに摩擦も少ないらしいですよ!」


 そうか、そうなのか。でも女子って学校でもヘアアイロンとかは使うんじゃないか?やっぱりそう考えると持ち運びできたほうがよさそうだな。


「う~ん…確かにそれはいいかもしれないけど、もうちょっと持ち運びしやすいやつのほうがいい気がする。」


「難しいですね…それなら結構予算ぎりぎりになりますけど、これとかはどうですか?さっき言った特徴のほかに持ち運びもしやすくて、結構な高温も出るみたいですよ?普通にデザインもいいので結構いいと思いますよ?」


 確かにそれだと十分に良さそうだ。思ったよりも早く終わりそうだな。


「じゃあそれにするか。2万5千3百円か結構いい値段だな。」


「高いですよ~何でそんな飄々としてるんですか…」


「え?そりゃあ普通のことだし。乃愛のためになら当然だろ?」


「…はあ。分かりました。さあ次行きますよ!」


 何故か呆れられた気がする。だってでっかいため息吐かれたもん。

 俺普通のことしてるだけなんだけどな。

 全然納得がいかない。

 でもそんな気にしていてはダメな気がする。

 よし、気にしないでおこう。


「次は化粧品見に行きますよ!すぐ近くにそのコーナーありますから。」


_____________


「とりあえず良さそうなのあったら言いますね。何か意見があったら言ってください。あと自分でも探せるだけ探してくださいね。」


「了解。でどういうのだったらいいのか?俺化粧品とか全然わからないんだけど。」


「このネイルとかどうですか?結構綺麗ですけど。」


「ネイルか…一応候補に入れておこう。他に何かないか?」


「じゃあこのアイコスメは?このマスカラもいいと思いますけど。」


「学校で流行りのやつとかない?そのほうがいいと思うんだよな…」


「あ!それならこれとかどうですか?このリップとか普通にうちの学校で流行っていますよ。きっとこれなら乃愛ちゃんも喜びますよ!」


「じゃあそれで。ありがとな。」


「別にいいですよ。私も楽しいので。」


 楽しい?俺の買い物につき合わせているだけなのに?

 何で?さっぱり理解できない。


「それならいいが…」


「本当に気にしないでいいですよ。…ほら次はお菓子を選びに行きますよ!」


 本当によくわからない子だ。

 でも不思議とその子の感情からは不快な感覚はなかった。

 昔の乃愛も昔はこの子と同じ感じで天真爛漫な性格だったな~

 そういえばこの子、昔の乃愛に似ている。

 なんか守ってあげたくなるな…

 …ダメだ。乃愛に怒られる。変なことを考えるのはよそう。


_____________


 化粧品のプレゼントも決定した俺は、友人さんに腕を引っ張られながら、スーパーの近くにあるスイーツのコーナーについた。

 そうしたら急に乃愛の友達の子がもの欲しそうな顔をし始めた。

 本当にこの子は乃愛にいろいろと似ているな。

 こんなに性格が似ていたからこそ乃愛と仲良くなったのかもしれない。

 本当にこの子が俺の可愛い乃愛の友達になってくれてよかった。

 ただし、常識が欠けている点ではマイナスだが。

 そんなことを思ってると物欲しそうな声が少しずつ大きくなってきた。


「あ~このチョコレートとか美味しそうですよ!このクッキーも…いいなぁ食べたいなぁ」


「そんなに食べたいなら一つ二つくらいなら買うよ。大事な乃愛の友達だしな。これくらいはお安いもんさ。」


 天使な乃愛と今後も長く仲良くしてもらうための必要経費だ。

 俺の可愛い乃愛のためにならこの程度の出費どうってことない。

 他の妹をもつ人も同じだろ?


「え!?もしかして聞こえてました?…あの、忘れて、ください……あ〜恥ずかしい…」


「別に恥ずかしがる必要ないだろ。乃愛のプレゼントもそれにするから、ついでだ。」


「…ありがとう、ございます…」


 なんか不満そうだな。どうしてだろう。

 それにしても思ったより買い物早くて助かった〜

 これで家に帰って存分に乃愛を可愛がることができる。


「次は私の買い物ですね!いっぱい付き合ってあげたんですから、私のにも付き合ってもらいますよ!」


 え?なにそれ俺聞いてない…

 でも確かに俺だけ付き合ってもらうのは申し訳ないな。


 はぁ。

 乃愛、ごめんな。

 お兄ちゃん今日帰るの遅くなりそうだ。


 その日は乃愛の友人に日が暮れるまで買い物に付き合わされた。

 ちなみにその時に名前を聞いた。

 羽村 瑞穂というらしい。

 名前を知らなかったことに若干呆れた目で見られて傷ついたのは秘密だ。


______________



 帰りが遅かったせいで乃愛に白い目で見られた。

 乃愛。

 誤解だから、お兄ちゃんを信じてくれ、頼むから。お兄ちゃん乃愛に嫌われたら…

 次の日も乃愛は俺に口を利いてくれなかった。

 本当に辛いよ…

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