第5話 シスコン




 騒がしく、うるさい平穏とは程遠い時間になってしまった今日。

 そんな一日がやっと終わると思うとせいせいする。

 こんな日にはさっさと家に帰ってベッドに突っ伏すのが一番いい。

 

 さてと、そうと決まれば早めに帰るか。今日は部活もないわけだし。


「お、ちょうどいいとこにいた。天川、これ生徒指導室まで運んでくれないか。運ぶものが多くて困ってるんだ。やってくれるか。」


「もちろん構いませんよ。確か生徒指導室に運べばいいんですよね。他にはありませんか?」


「あ~そういえばバスケットボールを新しく補充したんだった。それ運び終わった後、第二体育館に来れるか?」


「もちろんですよ。少し壊れているボールと交換すればいいんですよね?」


「本当にすまないな。手間かけさせて」


「別に好きでやってますから気にしないでください。」


「そうか。助かる。」


 少し面倒くさくは思ったが、人から頼まれてその時にこれといった用事がなかったならば受けたほうがいいのは確かである。

 たとえ先生が仕事を押し付けたいだけだったとしてもやることに価値があるのだ。

 嘘を言ってまで断るのは変だろう。

 これが普通の感覚だと思う(本人視点)。


 それにしても先生は人使いが荒い。

 たった一人にここまでは普通させないだろう。

 俺も余計なことを言ったのは悪かったが一人に押し付ける量にしては多い気がする。

 とは言え引き受けた仕事だ。今更無理だというのは少々自分勝手が過ぎるだろう。

 仕方がない。


「え~っとこの書類は生徒指導室に届けるんだっけか。お、重い。よいしょっと。」


 よし行くか。

 

「えっと書類を運んだあとは第二体育館だよな。」


 一人でボールの仕分けをするのはなかなか骨が折れる。誰かもう一人手伝ってくれる奴がいないものか…


「お、もしかして君かい?先生が言っていたもう一人の手伝いって。」


「え…生徒会長、何でここに?」


 わが高校の誇る生徒会長、日野ひの 誓也せいや

 俺とは住む世界が違う、言わば特別側の人間だ。

 全国模試でいつも二桁前半、あらゆるコンクールで優秀な賞を取り、全生徒からの憧れの存在だ。

 普通な俺が関わってはいいいような人間ではない。


「とにかく、早く作業を進めるぞ。早く家に帰りたい。」


「そうだね、早く終わらせようか。」


 その後、俺と会長は黙々と作業を進め、20分ほどで作業が終わった。

 別に俺はなれ合う気がなかったので先生にすぐに報告し、すぐに家に帰った。

 これ以上普通から逸れるのだけは勘弁である。


「ただいまーのあ~疲れた~」


「お兄ちゃんお帰り。今日はいつになく疲れてるじゃん、どうしたの?」


 さすが乃愛のあ。至高の天使。マイシスターは世界一可愛い。間違いない。異論は認めない。


「それが学校でいろいろあってさ~お兄ちゃんを慰めて~」


「うわっ普通にキモ。」


 いつからこんな俺に対して素っ気無くなってしまったのだろうか。

 もしかして…これが噂の反抗期?それならお兄ちゃんすごいショックだよ…


「うぐっ…ぐはっ…」


「あーわざとらしい反応はいいから。で今日学校どうだったの?」


「あー何か転校生が来た。そして隣の席がすごいうるさかった。あと先生に仕事押し付けられた。」


「大体把握。最後のが本命でしょ?どうせ早く帰りたかったのに仕事押し付けられたことが不満なだけなんでしょ?」


 さすがわが妹。俺のことをちゃんと理解している。


「そうだよ~お兄ちゃんを…」


「あっそういうのいいから。あっそうそう、私今日告白された。どう?すごい?」


 え?そいつ誰?俺のかわいい乃愛に告白?許せん。成敗してくれる。


「え…それ誰、ちょっとしないとね。」


「うわっキモ。普通に断ったから。安心して。」


「本当だな?本当なんだな!?」


 それならよかった。まだ乃愛はお兄ちゃん子でいてくれていることに安堵する。


「ちょ近い。うざいからやめて」


 相変わらず辛辣である。まだ俺のことを"お兄ちゃん"と呼んでくれているだけマシなのかもしれない。

 それはともかく、妹ともっと距離を縮めれないものだろうか。

 少しでも多く一緒に過ごしたい。

 そんなことを思っていると鬼…じゃなかった母さんが帰ってきた。

 まだ母さんは俺のことを怒ってこない

 それもそっか俺はまだ怒られるようなことはしてないもんな。


 そんなことはどうでもいい。

 今日の夕飯の当番はわが愛しの妹、乃愛である。

 乃愛の料理が食べられると思うとそれだけで頬が緩んでしまう。

 

「うわっお兄ちゃん本当にキモいんだけど。ニヤニヤするのやめてくれない?」


「う~ごめんな俺の、のあ~」


「いやお兄ちゃんのじゃないから。私は私のだから」


 やっぱり、俺に対して乃愛は辛辣である。

 それでも俺はこんなかわいい乃愛のためにも平穏な学校生活を確立することを強く思った。

 だって、お兄ちゃんと同じ学校に通ったときに俺の評判は重要だからな。

 あくまでも妹が目立つように俺はあくまでも普通で、これといったこともない日常を過ごそう。

 まあそもそも普通だから、問題はないかもしれないけど。


 あ~乃愛の料理美味いな~ さすが俺の妹。さすが俺の乃愛。

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