第4話 転校生とは無縁である
今日は朝から情報量が多いな。
痴漢されそうになる女子がいたり、かと思えば転校生が来たり。
どっちにしろ俺には関係ない話なのでそこまで気にしていないが。
先生が入ってきた。
「センセーイ、転校生ってどんな子ですか〜?」
いきなり質問するのはマナー違反ではないだろうか。
世にいうモラハラというやつに該当しそうである。
もうちょっと自重してほしいものである。
ここが私立である以上、仕方がないと割り切ってはいるがそれでも注意したくなりそうだ。
「それは今から紹介しますので、まずは出席から…」
いつも通り朝のHRが始まった。
点呼が終わったあと、俺は先生の話を半分だけ聞いて、ボーっと単語帳を読んでいた。
「はい、みなさんも聞いているとは思いますが、今日から転校生が来ます。中野さん入ってきて下さい。」
「初めまして。
「うおー!美少女来た〜!」
「ヤベぇマジでこんな可愛い子が転校してくるとかマジ神。」
「ホントそれな!」
うるさいな。
たかが転校生ぐらいではしゃぎすぎじゃないか?
「たかが転校生で騒ぐなよ〜本当にここの教室の男子どもは…」
「いや、騒ぐに決まってるだろ?こんな美少女が転向してきたんだぞ?しかもウチのクラスに。こんなの歓喜する以外にないだろ!」
俺の友人の
どうやら俺の考えに不満があるらしい。
なぜだろう。俺の感覚は至極真っ当で普通であるはずなのに…
取り合えず黙らせるか。
「ハイハイ、うるさい。分かったから静かにしろ。」
「天川…そんなんじゃ一生モテないぞ。」
「お前もな。」
「はあ?なんでだよ。俺だって中野さんと付き合える可能性あるだろ。」
「いやないね、だってお前って俺と同じで普通で平均的だろ?ないない、よく考えてみろ。ラノベの主人公だって何か特別なところあるだろ?俺達にはない。すなわちそんなおとぎ話はあり得ない、分かったか?」
「論破すんなよ…そんなの、そんなの俺だってわかってるよ…少しくらい夢見たっていいじゃないか。」
「その後地獄を見るのはお前だろ?俺は優しいから先に忠告してやってんの、分かった?」
「おい、お前のせいだぞ!自己紹介聞きそびれたじゃないか、どうしてくれるんだよ。」
「俺は関係ない、聞かなかったお前が悪い。」
先生が軽く咳払いをした。
どうやら俺達がうるさかったらしい。
ふざけるなよ…堂川。目立ったじゃないか。
「え〜、中野さんの席は今話していた二人の比較的うるさくない方だ。」
先生。流石にそれは酷くないですかね。
せめて名前で呼びましょうよ。俺にはれっきとした天川才人って名前があるんですから。
「あれ?今朝どこかで会わなかった?」
「いや初対面だと思う。隣の席になったんだ取り合えずよろしく。」
「あ、うんよろしくね。」
どうせあまり話さないだろう。
この挨拶だってただの社交辞令、つまり名目上の仲良し宣言であって、実際にはそうならないことがほとんどである。
「これで朝のHRを終わります。学級委員長、号令を頼んだ。」
「起立、礼、着席」
そうしてすぐに俺の隣に人が群がり始めた。
その中にはもちろん堂川も含まれている。
俺はその中にどうしても入ろうとは思えない。
そもそも、こんな生きている世界が違う人とは仲良くなろうと思えない。
どうせすぐにカースト上位に君臨するようなやつだ。
中間層の俺なんか直ぐに目も当てられなくなるに違いない。
「中野さんって好きな人いるの~?私気になるんだけど。」
「えっと、まあ一応……」
その瞬間、男子たちの絶望に満ちたような声が木霊した。
ほれ見たことか。やっぱりラブコメ展開なんてあり得るはずがない。
俺は堂川にそっと駆け寄った。
「ほらな?」
「いや、まだだ、もしかしたら俺だという可能性も…」
「ないない。あり得ない。」
俺は堂川の発言を食い気味で否定した。
そうしている間にも女子の連中は転校生に夢中で質問をしていた。
「それで好きな人ってどんな人?ねえどんな人なの?」
「すっごくイケメンでかっこよくて紳士な人だよ。」
「え~いつ出会ったの?超気になる~」
「私も私も!」
「今日ね。痴漢から助けてくれた男の子がいたの。それでね同じ学校の生徒だったんだ~」
「え?なにそれ超運命的じゃん!」
「私もそんな出会いしたいなぁ…」
「あはは。それで名前を聞こうとしたんだけどね。いつの間にかいなくなっちゃってて名前とか連絡先は聞けなかったんだよね…」
「え~何それ~?なんかヒーローみたいでめっちゃかっこいいじゃん!」
あれ?どこかで聞いた話だな。俺はイケメンじゃないから絶対にあり得ないけど。
それにしても今日は痴漢が多いな~ 変態が月曜日には発生しやすいのだろうか。
どこか既視感を感じつつも俺の平穏な日常は変わらないままであった。
ただし、隣の騒がしさを除いてだけどな。
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