第3話 電車にて




 月曜日。

 おそらく学校に行きたくない曜日ランキング1位になるだろう今日。

 俺もまた行きたくないやら面倒くさいやら言いながら、朝の支度をしていた。

 

「才人〜電車大丈夫なの?早く急ぎなさい!」


 本当に母さんは朝からうるさいな。

 でも間違ったことは言っていないので俺は言い返さない。

 

「はいは〜い、分かってますよ〜…面倒臭〜」


「文句は言わない!ボケっとしない。さっさっと準備して学校行きなさい!」


「もう準備できてるし〜」


「それならさっさっと行く!」


「ハイハイ。」


「はいは一回!」


 本当に母さんは厳しいったらありゃしない。

 成績もちゃんと取っているし、部活もそれなりに頑張っている。

 それに家事も女子と同じ位はしているはずだ。

 なのにこの対応は酷くないだろうか。


 でもこれが普通なのか…


「行って来ま〜す」


「あっ、ちょっと髪縛ったままよ〜」


 俺は足早に家を出た。

 もうこれ以上母さんに文句は言われたくない。

 何か最後に言われたがどうせ文句だ。

 聞かなくても問題はない。

 

 スマホを見る。

 …かなり時間がヤバい。

 これは走らないと電車に乗り遅れてしまいそうだ。

 そうなっては遅刻はしないにしても、朝の自習の時間がなくなってしまう。

 これは一大事である。

 俺は全力で走った。

 なんとか間に合ったようだ。


「はぁ、はぁ、はぁ。」


 すごい息が切れている。

 これは端からみたら変な人に思われるのではないだろうか。

 そう思うととたんに恥ずかしくなった。


 やっと息が元にもどった。

 これで恥ずかしくはなくなった。

 でも席に座われてよかった。もし座れなければ足が持たなかっただろう。


 一人の女性が顔を真っ赤にしている。

 病気でもあるのだろうか。


「すみません、あの具合悪いなら席座っていいですよ。」


「えっ!あっありがとうございます!」


 どうやら本当に具合が悪かったらしい。

 俺の勘が間違ってないことに安心した。

 危うく恥ずかしい思いをするところだったのかもしれない。

 でもしなくて後悔するよりも、して後悔したほうが何倍もマシだ。

 少なくとも俺はそう思う。


「いえいえ全然大丈夫ですよ。ここ優先席ですしね。こういうときのためにある席なんですから。気にしないでください。」


「本当にありがとうございます。」


 あ〜足が辛い。

 調子乗っちゃったな。

 でももうすぐ降りるから問題はないか。

 そう思っている間に着いたようだ。

 よし降りるか。足痛い。


「あ、あの、ありがとうございました。」


「別にいいですよ。具合が悪かったんでしょう?」


「いえ、そういうわけではなくて…実は痴漢されてたんです。なので本当に助けて下さってありがとうございました。」


「痴漢されてたんですか?それなら警察に相談したほうが…」


「今は、別にいいです。それよりなにかお礼を…」


「別に問題ないですよ。それでは俺急いでるんで。」


「あ、あの同じ学校ですよね?もしよければ一緒に学校行きませんかってあれ?いない…」


 そういえば同じ学校の制服だったな。

 あー余計なことしちゃったかな。 

 これ絶対教室で悪目立ちするやつだ。

 どうにもならない後悔が俺を襲った。

 何か打開する手段を考えても思いつかない

 なかなか思いつかなかったせいか、俺は頭を掻こうとした。


 あ、朝顔を洗ってそのまま髪上げたままだった…

 うわ〜マジで恥ずかしい…俺のブサイク(本人目線)な顔が見られてしまった…

 急いで俺は、ゴムを外して、髪を解く。


 いつも通り前髪を目の位置まで下ろし、違和感がないことをトイレで確認した俺は、恥ずかしさを原動力に一目散に学校に駆け込んだ。


 ちなみにただでさえ全力で走って疲れていた足はさっきの走りを最後にお亡くなりになられた。


「マジで電車まで全力疾走してせいで足パンパンで動かないんだけど。どうしてくれんのこれ?」


「俺に言われても知らねーよ。お前の過失だろ?諦めろ、寝坊助。」


「うわっ酷くない?落ち込むわ〜」


「嘘乙。」


「バレた?」


 自業自得なので友人に文句を言うことしかできなかった。

 それにしても一昨日から今日まで本当に騒がしいな。

 まあ、そういうこともあるか。


「それはそうと、今日転校生来るらしいぞ!誰が来るんだろうな!やっぱ美少女?それともイケメン?」


「ラブコメの読み過ぎだ。そんなことは現実で起こる確率なんて天文学的確率だ。諦めろ。」


「うわっ、そんなことはわかってるよ。少しくらい俺にも妄想させてくれよ〜」


「嫌だね。特に俺に辛辣なこと言ったお前には無理」


「真顔で言われるとマジっぽいからやめてよ…」


 だってマジなんだもん。

 嘘は善意でしかついちゃダメだろ?

 つまりそういうことだ。


 それにしても転校生か…こんな入学したての微妙な時期に転校生ってどんな奴なんだろうな…

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