箱に入らないもの全部入れた話

水長テトラ

箱に入らないもの全部入れた話




 まず光、箱を閉じても真っ暗にならないように。

 次に水、箱がひび割れて中身がこぼれ落ちないように。

 それから琥珀こはくの元になる虎。


 琥珀は大事です。琥珀と琥珀が擦れ合うときの黄金の輝きを浴びて、たくさんの物が姿かたちを変えて、あなたの想像を超えた新しい物が誕生します。

 しかしここで問題が発生しました。


 琥珀は虎が長い時間をかけて石になった姿です。

 あなたの箱は小さくて、そんなに何匹も虎を入れることはできません。

 はいれたとしても虎同士でケンカになってしまいます。箱が割れてしまったら全部台無しになります。


 悩んだ末に、あなたは虎の形をこね直すことにしました。

 虎の牙や爪は雨に、毛皮は弾ける光に生まれ変わりました。

 これで箱の上と下が決まり、正の力と負の力、湿ったところと乾いたところ、新しい物が誕生するための様々な差異さいが発生します。

 虎ではなくなった虎たちに、あなたは“電気”という新しい名前をさずけてあげました。


 虎を電気に変えるのと同じ要領で、あなたは思い出の品物を小さく砕いて新しい物質に変えていきます。

 チョコレートを土に、ペロペロキャンディを虹に、小さい頃ずっと握ってて手放せなかった毛布を、しわくちゃになった部分を上に向けて山脈に。


 それでも箱の中に全部を入れることはできません。

 さみしいけれど、いくつかはここに置いていかなくてはいけません……。



 え? 


 もっと大きい箱を作る?

 その大きい箱の中にこの箱を入れる?

 なるほど欲ばりですね。


 あなたはとてつもなく大きい板を持ってきました。

 小さい箱と一緒に散らばった物たちも集めて上に載せて、板を立方体の形に折っていきます。


 どうしてもぎゅうぎゅうになるので、少し物が欠けて破片が飛び散ってしまいました。

 星空の誕生です。


 さあ、やっと荷造りが終わりました。

 あなたは満足げに大きな箱を背負い、歩き出します。

 何もない、誰もいない道を歩き続けます。


 次は上手く開けてもらえますように、と祈りながら。



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箱に入らないもの全部入れた話 水長テトラ @tentrancee

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