かわいそう?
これは、クラウンこと田永重晴の過去の話である。
彼は裕福な家庭に生まれた。
彼の両親は男子が生まれたことを大層喜んだ。しかし、彼らは子供を愛する術を知らなかった。
彼らは息子をどうやって愛すれば良いのかをひたすら悩んだ。
とりあえず、将来のために知識をたくさん身に着けさせよう。知識は多ければ多いほど良いだろう。
その考えは間違いではなかったが、やり方が悪かった。彼らは息子に常にテストで満点を取るように言い続け、もし1点でも低ければ殴る蹴るの暴行は当たりまえ、ひどいときには刃物で切り付けたりもした。彼らは、たちの悪いことに自身のしていることが虐待であるという認識がなかった。ただのしつけという感覚だったのだ。それゆえ、こんな些細なしつけで男である息子が情けなく泣くなどという状況は許せなかった。
彼らは息子にどんなことがあろうと笑顔でいるように強制した。
重晴は両親に怒られることをひどく恐れていた。そんな彼は常に笑顔でいられるように練習をし始めた。最初は笑顔とはいえないようなひどいものであったが努力を重ねるにつれて内心穏やかでなくとも自然な笑顔を保つことができるようになった。
話は変わるが、ここで学校での彼の様子でも話すことにしよう。彼は学校でも同級生から殴られたり蹴られたりしていた。そう、彼はいじめられていたのである。
いつも満点を取り続け、どんなことがあっても笑顔でいる彼が気持ち悪いと思われたがためにこのようなことが起きたのである。
そんな彼にはもちろん、友人と呼べるような人は一人もいなかった。
いじめられていることに気づけないほど彼が鈍感であれば良かったのだが成績優秀な彼はそうはいかなかった。
彼はいじめられている自覚もさらには家で虐待されているという自覚もしっかりとあった。
しかし、彼には頼れるような人がいなかった。警察や先生は自分の言うことなど信用してくれない。むしろ、自分に非があると責めてくるだろう。そんなことを考えて彼は長い間苦しんでいた。
苦しんでいた、が、それもある日を境に終了することとなる。
ある日の帰り道、重晴は一人の人物に出会う。その人物は死体を信仰することがいかに重要なことであるかを熱弁してくれた。
その話にとても感動した彼は死体を信仰するようになる。
自分の両親も死体を信仰し始めたら虐待も収まるのではないのだろうかと考えた彼は彼らに死体を信仰するように説得する。
しかし、とても不思議なことに彼らは死体を信仰するなんてイカれていると、信仰を、教祖様を、彼を、否定してくる。
重晴はとても心優しい青年であったため彼らを何度も何度も説得した。しかしながら、彼らは聞く耳を持たなかった。
このことから重晴は自分の両親は異端者であることに気が付いた。
異端者は生贄に慈悲はなし。
その教えの通りに重晴は彼らを殺害した。
同級生も残念ながら異端者であったので殺害した。
殺したときの感覚はとても愉快なものであった。
人は何て呆気ないんだろうか!
人が死んでいく様は何と美しいことか!
クラウンはとても幸せだ!
クラウンという名前を無意識に思い浮かべていた。クラウンは別人格というわけではないし、自分の本名は重晴であるということは重々承知している。
しかし、今の自分には重晴なんて重くつまらない名前よりクラウンという愉快で楽しい名前の方が似合っている!
そうさ僕はクラウンさ!
クラウンは道化師なんだ!
皆を笑わせ楽しませるのが仕事の道化師!
クラウンはクラウンさ!皆の笑い者!
どこにでもいる変わらない平凡な道化師さ!
かわいそう?とんでもない!
僕はこれで十分幸せだ!
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